麦の中間管理「追肥」~パン用小麦のタンパク含有率向上に向けた肥技術~

はじめに

イネなどの夏作物が幼穂形成期までに総窒素吸収量の60%を吸収するのに対して、麦は、冬の低温期に生育が一時停滞するため、この時期までの窒素吸収量は約30%にすぎないと言われており、麦作では稲作以上に追肥が重要になります。
ここでは、麦の追肥における基本的な内容とともに、特にパン用小麦のタンパク含有率向上のための追肥技術について紹介します。

麦の追肥

麦の追肥は、施用時の生育ステージとの関係から次の3つに分けられます。

(1)分げつ肥
①施用時期 1月中旬~下旬(分げつ期)
②効果 穂数の増加
③施肥量 窒素成分で10a当たり2

(2)穂肥
①施用時期 2月下旬~3月上旬(出穂前4070日、幼穂長16㎜)
②効果 有効茎数歩合の向上、1穂当たり粒数の増加
③施肥量 窒素成分で10a当たり2

(3)実肥
①施用時期 4月上旬~中旬(穂揃い期)
②効果 タンパク含有率の向上(特にパン又は中華麺用小麦で重要)
③施肥量 窒素成分で10a当たり2㎏(窒素成分で10a当たり1㎏でタンパク含有率が約0.5%向上)

※施用時期や施肥量は目安です。品種やほ場、気象条件等によって異なるため、各地域の耕種基準等を参考にしてください。

パン用小麦

パン用小麦は、タンパク質を多く含む硬質小麦で、県内では「ミナミノカオリ」が栽培されています。
また、国産のパン用小麦への需要の高まりに伴い、タンパク含有率の高い高品質なパン用小麦の生産が求められています。
小麦のタンパク含有率を高めるためには実肥が重要になります。そこで、実際の実肥について説明します。

(1)パン用小麦の品質評価基準
麦には加工用途別に品質評価基準が定められています。パン用小麦においては、タンパク含有率によるところが大きく(表1)、その基準値を満たすように栽培することが求められます。

 

(2)実際の実肥
実肥は、小麦の草丈が伸びきってから行うため、分げつ肥や穂肥のようにトラクターや麦踏み機に施肥機を装着したやり方(写真1)では作業が難しく、動力散布機による散布や、乗用管理機を用いる方法、緩行性肥料を使った一発基肥施肥などの方法で行われています。
また、開花期に行う赤カビ防除に併せて防除薬剤と窒素溶液(主に尿素)を混合して葉面散布する省力的な方法も普及しています。
なお、窒素溶液の葉面散布を行う際は、高温時に施肥すると葉焼けをおこす場合があるため、涼しい時間帯に行うようにしましょう。

 

(3)パン用小麦の実肥診断
パン用小麦「ミナミノカオリ」では葉色と葉身長を測定することで追肥診断を行う方法があります。
具体的には、3月下旬から4月上旬頃に穂揃い期の麦の主幹を用いて、上位第2葉のSPAD値による葉色と葉身長を測定することで、実肥を施用する時点でのタンパク含有率を推定します。その予測値をもとに適切な施肥量を算出し、ほ場毎に施肥を行います。

写真1 追肥作業の様子
写真2 葉色・葉身長による追肥診断の様子

令和3年産麦作を振り返って

昨年の令和3年産の麦作では、天候にも恵まれ、順調な生育になったものの、梅雨入りが早まったことで小麦の中でも成熟期の遅い「ミナミノカオリ」の収穫期に降雨が重なり、刈り遅れや倒伏による品質の低下が多く見られました。
このため、収穫時期の降雨リスク軽減のためにも土入れ作業や額縁明渠の溝さらい等を更に徹底して、ほ場外への排水性向上に取り組みましょう。

おわりに

近年は、水田作経営における麦作の重要性がより高まっています。また、麦作は共同乾燥施設の利用が多く、高品質生産には産地全体で取り組むことが重要です。
今回紹介した追肥をはじめ、基本技術を再確認し、適切な管理による品質・収量の向上に務めましょう。

県北広域本部 玉名地域振興局 農業普及・振興課

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麦の中間管理「追肥」