良質な堆肥生産について

はじめに

家畜ふん尿由来の堆肥(以下、堆肥)は有機質肥料資源として、これまでも広く活用されてきました。また、最近では「みどりの食料システム戦略」が策定され、化学肥料の低減が求められていることから、今後、堆肥の重要性がますます高まっていくと考えられます。
堆肥化は好気性微生物(酸素を必要とする微生物)が主役ですので、好気性微生物の活動を活発にする適正な環境条件を整えることが重要になります。今回は、良質な堆肥生産を行ううえで重要なポイントを解説します。

①栄養源
家畜ふん尿の中には、易分解性有機物(分解しやすい有機物)が多量に含まれており、これが堆肥化の微生物の栄養源になります。栄養バランスの指標としてはC/N比(炭素と窒素の比率)があり、牛ふん堆肥ではC/N比が1520程度、豚ふんで1015、鶏ふんで610であれば適正とされます。家畜ふんと副資材(おがくず、籾殻等)を混合している堆肥であれば、C/N比はある程度適正に保たれます。

②水分
良質な堆肥生産のためには、「堆肥化スタート時の水分」が重要となります。家畜ふんの水分は牛ふんで80%以上、豚ふんで75%と高いため、副資材(おがくず、籾殻)で調整して、水分を72%以下まで落とし、通気性を確保することが重要となります。
現場で正確な水分を測定することは困難であり、図1のような簡易の水分推定方法が活用されていますので、参考にしてください。

図1 簡易な堆肥水分推定方法

③微生物
微生物は家畜ふん尿中に大量に存在しており、自然由来の微生物のみで堆肥化は十分可能です(中には臭気対策や発酵促進等のため、微生物資材を添加されている農家もいます)。従って、水分調整や通気性など好気性微生物が活動しやすい環境条件を整えることが重要です。

④温度
堆肥の温度が上昇することは、好気性微生物が酸素を消費し、盛んに有機物が分解している結果であり、堆肥化が順調に進行している重要な証拠となります(図2)。また、堆肥の温度が上昇することによって、水分が蒸発し堆肥の取り扱いが容易になるほか、病原菌や寄生虫、雑草の種子などが死滅し、衛生的な堆肥製造につながります(表3-1、2)。堆肥の切り返しにより、新鮮な空気を多く供給するよう心掛けましょう。

 

図2  堆肥化での温度管理について
表3-1、2 病原菌、雑草種子等の死滅温度について

⑤空気
堆肥中の好気性微生物に空気(酸素)を送ることが重要です。表面の通気性が十分に確保されていても、深部ほど空気が届きにくいため、適宜切り返しや攪拌によって空気を一定期間ごとに供給する必要があります。施設によっては発酵促進のために、底部に送風機(通気設備)が整備されているところもありますが、通気設備がない場合でも定期的な切り返しによって十分量の空気を供給することが可能です。

⑥堆肥化期間
堆肥化は、全ふん尿中に約40%(乾物中)含まれる「易分解性有機物」を微生物に分解させることが目的です(図4)。易分解性有機物は微生物により徐々に分解されるため、短期間では全て分解することができません。例えば、堆積高2mでの堆積方式(通気無し)で月1回切り返し作業を行う場合、1日の乾物分解率は0.3%とされています。易分解性有機物が全て分解されるには40%÷0.3%/日≒133日、つまり4か月以上の期間が必要ということになります(週1回切り返しの場合、1日の乾物分解率は0.4%のため、堆肥化には100日が必要)。
堆肥化期間を短く見積もっている方はいらっしゃらないでしょうか?堆肥生産には長い時間が必要ということを理解して頂ければと思います。

 

図4 堆肥化処理のイメージ

おわりに

これまで、良質な堆肥生産についてのポイントを紹介してきました。これらのポイントを意識しながら堆肥生産を行って頂くことで、取り扱いやすく良質な堆肥の生産が可能です。
しかしながら、堆肥化施設というのは基本的に建設された時点で処理能力が決まっており、飼養規模拡大等により家畜ふん尿量が増加した場合、処理能力を超えて堆肥化がうまく出来ていない事例も各地で散見されます。そのような場合には、堆肥化施設の増設についても検討して頂く必要があります。
現在の堆肥化の手順が正しいかどうか、現在の堆肥化施設が処理能力を超えていないか確認するなど、今後も良質堆肥の生産に努めて頂き、耕種農家にも求められる良質な堆肥を生産していきましょう。
※図2は畜産環境技術研究所HPから引用

 

県南広域本部 球磨地域振興局 農業普及・振興課

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