【Sat】

知っていますか?種苗法 ~品種登録制度と育成者権~

はじめに

文明の利器にあふれ、便利なものに囲まれている現在、私たちの周りには、知的財産があふれています。知的財産とは、モノとしての財産ではなく、「知的創造活動によって生み出された財産的価値を有する情報」のことだそうです。知的財産を作り出した人の権利を保護するため、「知的財産権制度」があり、代表的なものとして著作権や特許権、商標権などがあります。
今回は、農業において重要な知的財産権である植物品種の「育成者権」について、ご紹介します。

「品種」ってなに?

「品種」と聞くと、何を思い浮かべるでしょうか。たとえば水稲の「もりのくまさん」や「くまさんの輝き」、ナシであれば「幸水」「秋麗」など、農産物にはたくさんの品種があります。
「品種」とは、種苗法で規定された品種登録制度で登録されたものを意味します。種苗法上の「品種」は、次の(1)、(2)を満たす一つの植物体のことをいいます。
(1)重要な形質に係る特性の全部又は一部によって、ほかの植物体と区別することができること
(2)その特性の全部を保持しつつ、繁殖させることができること

品種登録制度とは?

農業の発展のためには、おいしく、病気に強く、少ない耕地面積で多くの収穫物が得られるなどの、優れた品種が必要です。これは農業者だけでなく、食料の安定供給や豊かな食生活につながるなど、商社にとっても大きな利益につながります。
一方で、植物の新品種を育成するためには、多くの資金や労力をかけて、長期間にわたり研究開発することが必要になります。
品種登録制度とは、このように苦労して植物の新品種を育成した者に、知的財産のひとつである「育成者権」を付与し、この権利を一定期間保護することで、新品種の育成を振興する制度です。
もし品種登録制度がなかったら、いったん新品種の種苗を手に入れれば、誰でも簡単に増殖し、販売することが可能になってしまいます。これでは新品種を育成者が、この種苗の販売などにより研究コストを回収することが困難となり、苦労して新品種の育成をしても報われず、誰も新品種を育成しようとしなくなってしまいます。
種苗法は、品種保護制度を規定する法律です。昭和53年に農産種苗法の一部を改正する法律として成立し、その後育成者権の権利保護の充実等を内容として、平成10年に全面的に改正されました。品種登録件数は年々増加し、平成30年3月末までに、有効登録件数は累計で8,963品種(有効なもの)が登録されています。

図1 品種登録制度の概要

品種登録申請(出願)の流れ

新たな品種を育成すると、育成者は品種登録の申請(出願という)をすることができます。(他人の育成した品種を勝手に品種登録の出願をすることはできません。)
品種登録するには、表1の5つの要件を全て満たす必要があります。各要件を審査するための試験のことをDUSテストと呼んでいます。おおまかな審査の流れは図2のとおりです。出願後、書類審査などのあと出願公表され、特性を審査するために、独立行政法人種苗管理センターで実際に試験栽培されます。また、出願者が試験栽培し農林水産省の審査官が現地に赴いて審査する方法もあります。
この試験結果や、現地審査等の結果を踏まえ、名称の審査を終えて品種登録することができます。出願から登録までには2~3年の期間がかかります。
品種登録されると、品種の名称、植物体の特性、登録者の氏名及び住所、存続期間が品種登録簿に記載されるほか、官報で公示されます。品種登録の情報は農林水産省のホームページでも提供されます。
(農林水産省品種登録ホームページhttp://www.hinshu2.maff.go.jp/

表1 品種登録に必要な要件(DUS)

品種登録と育成者権

品種登録されると、育成者権が発生します。育成者権とは登録品種により発生する権利です。
育成者権者を有する者(=育成者権者)は、業として、登録品種及び登録品種と明確に区別されない品種(以下これらの品種を総称して「登録品種等」する)の種苗、収穫物及び一定の加工品を利用する権利を専有します。
そのため、育成者権者以外の人は、育成者権者の許諾を得なければ、登録品種等を業として利用することはできません。

図2 品種登録出願の流れ
出願から品種登録完了まで2〜3年かかります

「業として」とは

個人的または家庭的な利用とは言えない場合をいい、営利目的の有無や反復・継続の有無も問わず、1回の利用もこれに該当します。
たとえば、無断増殖した種苗を用いて、家庭用の野菜を育てて、我が家だけで消費する場合には違反になりません。しかし、増殖した種苗や育てた収穫物を近所の人に分けてあげることは種苗法違反となる場合があります。

「利用する権利」とは

登録品種の利用の考え方は図3のとおりです。また、表2のように育成者権の存続期間は登録日から25年または30年となっています。

表2 育成者権の存続期間
図3 登録品種利用の流れ

権利を侵害するとどうなる?

育成者権を侵害するとは、育成者権者の許諾なしに、登録品種を業として生産・販売したりすることです。
育成者権を侵害すると、民事請求を受けたり、刑事罰を科されるなどの厳しい措置があります。

民事請求

(1)当該品種の生産・販売等の差止
(2)無断利用によって育成者権者がこうむった損害賠償
(3)無断利用によって育成者権者がこうむった信用の低下を回復するための措置

刑事罰(故意犯の場合)

10年以下の懲役または併科1千万円以下の罰金(法人の場合は3億円以下の罰金)

育成者権の効力の例外

育成者権の効力は、次のことには及びません。すなわち、育成者権者の許諾なしに利用することができます。

1.新品種の育成やその他の試験、研究のための利用

新品種の育成や、特性の確認試験等に使用するために登録品種の種苗を増殖したり栽培したりする場合は、育成者権の効力は及びません。

2.農業者の自家増殖で、法令で定める場合

農業者の自家増殖とは、農業者(農業者個人と農業生産法人)が正規に購入した登録品種の種苗を育てて収穫物を得、その収穫物を自らの農業経営において、さらに種苗として用いることです(図3)。
たとえば、イチゴ農家はイチゴの苗からランナーを増やし、苗を増殖して定植しますし、イグサ農家も苗を苗割し、増殖して植え付けます。
農業者の自家増殖については、日本では原則として育成者権の効力が及びません。しかし、★「自家増殖の例外」として、それを制限する契約を結んだ場合や、一部の栄養繁殖性植物については、育成者権の効力が及ぶため、自家増殖には許諾が必要になります。

★「自家増殖の例外」
農業者の自家増殖は、古くから慣行として行われていたことから、農業の生産現場が混乱しないよう、原則として自家増殖には育成者権の効力が及ばないものとされました。
しかし、日本を含め、75の国・地域が批准している「植物の新品種保護条約(UPOV条約)」では、農業者の自家増殖は原則禁止されており、日本の状況はEUなどの主要先進国の制度とも、かい離している状況です。
そのため、国では生産現場への影響が少ないなどの一定の基準のもとに、自家増殖に育成者権者の許諾が必要な植物を、「自家増殖の例外」として指定し、その数を年々拡大し、現在では356種(表3は一例)となっています。

図4 農業者の自家増殖
表3 自家増殖の例外(356種)の一部

3.権利の消尽

育成者権者によって譲渡された登録品種の種苗、収穫物または加工品(正規品)については、その譲渡された種苗等自体には育成者の効力は及ばず、再譲渡する際も、育成者権者の許諾を得る必要はありません。
しかし、登録品種の種苗を生産したりするには許諾が必要です。
たとえば、野菜の苗を種苗店で購入し、そのまま別の人に譲った場合は育成者権者の許諾は必要ありません。しかし、その野菜苗を育てて種を採り(=増殖し)、その種を他人に譲渡する場合は育成者権者の許諾が必要になります。
また、正規ルートで購入した(=譲渡された)登録品種を海外へ輸出する場合は、輸出先の相手国によっては、育成者の許諾を得る必要があります。

図5 権利の消尽

熊本県が育成した登録品種

熊本県でもさまざまな品種を育成し、品種登録しています。
県農業研究センター(以下、農研センター)では、「くまもとの魅力を発信できる新品種」の開発・選定を進めています。
具体的には、産地の競争力を高め、生産者の所得増大につながる品種や、おいしさや健康志向など、実需者や消費者の視線に立った品種などの品種の育成です。
ここで、これまでに農業研究センターが育成し、登録している品種をご紹介します。現在、登録しているのは水稲やかんきつ、カラー、いぐさやイチゴなど27種類の品種です。

主な県育成品種と特性

県で育成した品種は、農産物の競争力を高め、生産者の所得増大につなげることを目的に、長い歳月をかけて多くの職員が携わり作り上げたものです。
県内生産者への種苗の提供を条件に、県とともに生産振興に取り組んでいる農業関係団体と、利用権の許諾契約を結んでいます。

水稲「くまさんの輝き」
ツヤと粘りがありおいしい。草丈が低く作りやすい。出穂後の高温障害に強い。(許諾先:熊本県主要農作物改良協会)

いぐさ「涼風」
高品質畳表用品種「ひのみどり」よりも栽培しやすく、茎長が長い。(許諾先:熊本県い業協同組合)

イチゴ「ゆうべに」
(品種名:熊本VS03)
粒が大きく、甘さと酸味のバランスの良い。販売単価が高い年内収量が多い。(許諾先:JA熊本経済連)

かんきつ「肥のあかり」
極早生温州ミカンで、高単価が見込める9月下旬に収穫ができる。(許諾先:熊本県果実連)

カラー「ホワイトトーチ」
(品種名:FC01)
在来品種に比べ、疫病に強く、収量が多い。(許諾先:JA熊本経済連)

ナス「ヒゴムラサキ」
在来の「熊本長ナス」を改良した。良食味を維持しながら、果実品質が均一。(許諾先:JA熊本経済連)

海外でも品種登録できる!

全国では、日本国内で育成されたイチゴやブドウなどが、中国や韓国で無断で栽培されるなど、海外において品種登録をしていなかったために、海外での生産差止ができない事案が発生しています。
県では熊本産農産物のブランド力向上と販路拡大をめざして、香港やシンガポール等へ農産物を輸出しています。
県で育成した品種を海外で無断に増殖されないよう、一部の品種については海外での品種登録出願も行っています。

私たちの産地を守るために

さきほども述べましたが、一部の例外を除き、図5のように、正規に購入した種苗を、自らの経営耕地で栽培し、収穫・採取した種苗を次期作に使用することには、育成権者の許諾は必要なく、種苗法の違反ではありません。
しかし、採取した種苗を増殖して海外へ持ち出したり、ほかの農家へ渡すことは、有償無償を問わず種苗法に違反します。
たとえば、他産地からの見学者に、おみやげとして穂木や種子を渡したり、せん定した枝や間引きした茎の一部などを、自分のほ場以外で処分する場合は、種苗として利用される恐れがあります。
登録品種を生産・販売したりするには、育成者権者の許諾が必要です。許諾を得て品種を利用する仕組みは育成者権者の利益だけでなく、農業者自らが産地を守ることにもつながります。
農業者のみなさん、気軽に穂木や種子などを、他者にわたしていませんか?安易な登録品種の種苗の譲渡は、育成者権を侵害するばかりでなく、逆輸入など、その品種を生産しているほかの農家のみなさんにも、甚大な影響を及ぼしかねません。
種苗法を十分に理解し、産地づくりの柱となる優良品種を守りましょう!

種苗法に関する問い合わせは
熊本県生産経営局農業技術課
TEL:096-333-2380

【参考文献】Q&A種苗法

図6 自分の果樹の枝(穂木やせん定枝など)や採取した種子を他の農家等に渡すこと(譲渡)は有償無償を問わず種苗法に違反します。

※注意 こんな場合は、農業者等でも権利者の利用許諾が必要です。

◆栄養繁殖植物のうち、自家増殖が禁止されている植物(表3参照)を増殖する場合
◆イチゴ等の種苗をメリクロン培養(注)のように別の作業過程を経て増殖する場合
◆きのこの種菌を殺菌、空調等の設備を備えた培養センターのような特別な施設で増殖する場合
◆契約で自家増殖が禁止されている場合
◆自家増殖して余った種苗を近所の農家に配布する場合(有償、無償を問わない)
(注)メリクロン培養…植物の生長点から組織を取出し培養する方法。

このページをシェアする
  • 新品種・新技術
  • 生産力強化対策

カテゴリ

アーカイブ