水稲育苗における失敗事例と最新技術

~正しい知識で健苗を目指しましょう~

はじめに

水稲栽培には「苗半作」という言葉があるように、育苗はとても重要です。農業普及・振興課への水稲栽培についての相談件数は、この育苗期間中が最も多くなります。生産者の高齢化や人手不足に伴って、作業の省力化を目的とした不正確な知識に基づく育苗を行った結果、失敗するケースが多く発生しています。
今回は、昨年発生した育苗期間中の失敗事例と、最新技術「育苗箱全量施肥」についてご紹介します。

1.失敗事例

(1)塩水選(比重選)の省略

塩水選を行わずに播種すると、充実不足の種子が混じることになり、発芽不良による欠株の原因になります。
うるち米の場合は比重1.13で比重選(表1)を行い、浮いた種子は除去し、沈んだものだけを使用します。選別後に洗浄が不十分だと発芽に影響するので食塩、硫安ともに水道水でよく洗い流しましょう。

(2)浸漬不足

浸漬をしなかったり、不十分なまま播種すると、発芽が揃わなかったり、苗床での水管理によっては発芽しないこともあり、生育ムラの原因になります。
積算温度100℃を目安に浸漬日数を確保(水温が20℃なら5日間)します。1日1回水を交換し、鳩胸状態の種子(写真1)が7~8割になるまで浸漬を行います。
浸漬後、播種作業を行うまでに期間が空くと発芽が進んで芽を痛めることがあるので、播種日から逆算して浸漬を行うようにしましょう。

写真1 鳩胸状態の種子(上段)

(3)播種量と育苗期間のミスマッチ

苗の種類(稚苗、中苗など)によって、播種量と育苗期間の関係は決まってきます(表2)。育苗期間に対して播種量が多過ぎたり、播種量に対して育苗期間が長過ぎると軟弱な苗になり、移植時の苗の活着が悪くなります。
苗の種類によって適切な播種量と育苗期間を守り、健苗になるようにしましょう。

(4)苗床の均平不足

苗床の均平が不十分だと、高くなっている所には灌水(かんすい)しても水が届かず、逆に低い所は根腐れを起こし生育不良の原因になります(写真2)。
水田に苗床を設置する場合は、代掻きをするなどして出来るだけ均平になるように努めましょう。

写真2 灌水ムラによる生育不良

(5)水管理の失敗

いわゆる「プール育苗」等で苗床に水を溜めたままにしておくと、水温が上がって還元(酸欠)状態となり、苗の生育不良に繋がります(写真3)。
苗床の水は1日に1回は入れ替えるようにしましょう。気温が高くなる時期は、乾燥しない夜間は落水することが望ましいので、きちんと排水できるよう適切な位置に排水口を設置してください。
また、ハウス育苗では、田植えのために苗を持ち出す時に灌水(かんすい)が不十分だと乾燥により苗が痛むことがあります。
ハウスで大量に育苗している場合等では、苗の持ち出し時に灌水(かんすい)を中断することで苗が乾燥することがないようにしましょう。

写真3 排水不良で傷んだ苗

2.最新技術「育苗箱全量施肥」

育苗箱全量施肥専用肥料(商品名「苗箱まかせ」)を播種と同時に育苗箱内に施肥することで本田での基肥・追肥が不要となる省力・低コスト技術です。しかし、熊本県の普通期栽培では高温下での育苗になるため、苗が徒長したり、ルートマットの形成が弱いといった問題が起きています。
対策としては、苗箱の底に根を通さないシート(遮根シート)を使うことでルートマット形成を促進するとともに、被覆資材を早めに除去し苗の徒長を防ぐようにします。また、苗箱の土が乾燥しやすく、乾燥すると苗が白化することがあるので、灌水(かんすい)はこまめに行いましょう。

最後に

担い手不足や高齢化によって、水稲栽培の規模拡大が進んでおり、省力化や低コスト化に対する要望が大きくなってきています。一方で、近年は高温や大雨など異常気象も多く発生するなど、水稲栽培を取りまく状況は大きく変化しています。
新しい育苗技術に取り組む場合は、基本技術を再確認し、正確な知識に基づいて育苗を実施して健苗を作り、安定した水稲生産を目指しましょう。