養豚の人工授精技術について

〜「種雄豚の調教」と「精液の採取」の習得〜

はじめに

自然交配は、人工授精(artifitial insemination、以下AI)用精液に比べ、希釈していないため精子濃度が濃く、受胎しやすいと考えている方が多いと思います。しかし、本当に種雄豚は精子を注入できたのでしょうか?射出した精子は授精に至る数、活力をもっていたのでしょうか?これらは精液を顕微鏡でのぞかなければわかりません。特に、射精を数日間に何度も繰り返し、暑い夏を過ごし疲れ切った種雄豚なら精液の状態は悪いことも考えられます。
豚のAIでは、牛と同様に凍結精液技術もあるのですが、液状精液の受胎率や総産子数と比べると低く、経済性が良くありません。したがって、液状精液でのAIが一般的で、約1週間の保存が可能です。ここではその技術のポイントを述べたいと思います。

自家採精のすすめ

規模拡大に伴い、自然交配からAIに変えた生産者は多いと思いますが、精液供給メーカーから購入し、AIを実施している方がほとんどだと思います。
各養豚場には、(1)自然交配に用いるため、(2)発情を確認するために、必ず種雄豚を飼養していると思います。これからは、種雄豚に、発情確認+AI用精液供給(自然交配ではなく)の責務を与えましょう。一般的に、一頭の採精で約5頭(種付け2回/頭)の母豚に種付けが可能なので、1週間のうち1日を採精日にして業務にあたるといいでしょう。
実際に自家採精に変更するなら、2回の精液注入を実施しているなら、1回目は現行通り供給メーカーの精液、2回目に自家採精精液を用い、繁殖成績が低下しないことを確認します。繁殖成績が落ちる場合は、精液処理や精液の保存、もしくは授精の手技に問題があったことが考えられます。
人工授精の技術には、雄豚の調教、精液採取、精液の処理、授精の方法があります。このうち、精液処理は、購入する希釈液に手法が記載されており、授精の方法についても授精を行う購入カテーテルで手法が若干異なるため、ここでは、一般的に共通する種雄豚の調教と精液採取を紹介します。

表1 AIのメリットとデメリット

種雄豚の調教

豚が擬牝台に乗駕するまで待ち、乗駕したら採精をします。急かしたり、声をだしたり、たたいたりしても、おびえるだけなので、気長に待ちます。豚が顎を擬牝台に乗せだすと乗駕する前兆ですが、豚が飛び乗ることもあるので注意が必要です。)
採精開始時期は、性成熟の7か月齢以降から調教を実施可能ですが、12か月齢を越すまでは精液性状は安定しません。また、3~4歳から精液性状は悪くなっていきます。

写真1 乗駕したデュロック種

精液の採取方法

準備物:ガーゼを取り付けた採精瓶、採精瓶を保温するポット等(温度37℃)、陰茎清拭用タオル及び生理食塩水、必要に応じてビニル手袋など。
採取方法:
(1)擬牝台を雄豚房に入れます。または擬牝台のある豚房へ雄豚を移動させます。
(2)雄豚が擬牝台に乗駕するまで、待ちます。豚が勢いよく飛び乗ることもあるので牙で怪我しないようにいつでも逃げれるようにしておく必要があります。
(3)乗駕したら、包皮内の尿を排出させます。(包皮内の尿は雑菌の巣です。)
(4)包皮の周辺・陰茎自体が汚れているので、タオル等で拭きあげます。
(5)陰茎の出てくる包皮部に手を当て、陰茎先端のらせん部の山部分に合わせ適度の強さで握ります(強すぎない程度)。
(6)陰茎の掌握に成功したら、陰茎が硬くなるので握力を若干弱め、生理食塩水等をかけて、陰茎に付着している汚れを落とします。
(7)陰茎についた生理食塩水と、射精の最初に陰茎先端から出る膠様物(ゼリー状物質)をタオル等でふき取り、精液の採取準備が完了です。
(8)膠様物の排出が終了すると、その後に精液が出てきます。白色が濃いほど精子が含有されています。この際、出来る限り手のひらが射精部にあたらないようにし、精液に汚れが付着しないよう注意します。
(9)最後は、再度陰茎が硬くなり、膠様物を出して射精終了です。しかし、パッと手を放さず豚が自ら陰茎を納めるまで待つこと。)
(10)この後、精液の性状確認と希釈を行います。

写真2 精液採取

最後に

本県では、熊本県農業研究センター畜産研究所を軸に、(1)飼料効率の高いデュロックの作出及び供給、(2)人工採精技術の普及の推進、また、ほかにも飼養試験や繁殖管理技術などの試験研究を実施しています。この記事を見て、もっと詳しいことが知りたい、畜産研究所で飼養している豚を譲渡してほしい、精液処理技術を教えてほしい、といった要望がありましたら、各地の振興局にご相談いただきたいと思います。