いちご暖候期の害虫対策(アザミウマ類、ハダニ類)について

はじめに

いちごで高収量を実現するためには、適正なハウス内環境の維持や葉かぎ等の栽培管理だけではなく、害虫対策も重要です。今後、春先の温度上昇に伴い、害虫の発生が多くなります。そのため、事前対策を中心に害虫対策を実施しましょう。
そこで、今回は、暖候期の害虫対策のポイントについて紹介します。

暖候期の主な害虫について

(1)アザミウマ類

≪生態について≫
いちごを加害するアザミウマ類は、体長が1~2mm程度と小さく、花の中や土の中等で生活する昆虫です。
いちごで問題となるのは、花や果実を加害する「ヒラズハナアザミウマ」(図1)と「ミカンキイロアザミウマ」(図3)です。両種とも花に集中して寄生し、「卵」(花)→「幼虫」(花)→「蛹(さなぎ)」(土中)→「成虫」(花)のサイクルで、組織内に多数の卵を産み付けることで増殖します。生産現場で「防除が難しい!」と言われる原因は、①増殖が早いこと、②体長が小さく薬剤がかかりにくいこと、③蛹期を土中で過ごすことにあると考えられます。

①ヒラズハナアザミウマ
本種に吸汁加害された果実は光沢を失って果皮は褐変・肥厚し、肥大不良果や、部分的な着色不良果となり、商品価値がなくなってしまいます(図2)。
本種はハウス内で越冬し、春から秋まで花に多く見られ、温暖地では、年間に10世代前後を繰り返します。1世代に要する期間は、15℃で約34日、20℃では約20日、25℃では約10日で、雌の産卵数は、他のアザミウマに比べて多くなります。

図1 ヒラズハナアザミウマの成虫
図2 ヒラズハナアザミウマの被害果実

②ミカンキイロアザミウマ
本種に吸収加害された果実は光沢を失って、果皮は褐変し、部分的な着色不良果となり、商品価値がなくなってしまいます(図4)。
1世代に要する期間は、15℃で約34日、20℃で約20日、25℃で約12日と短く、花粉を食べることで産卵数が増加します。

図3 ミカンキイロアザミウマの成虫
図4 ミカンキイロアザミウマの被害果実

≪対策について≫
①ほ場周辺の雑草は、発生源となるので除草を徹底します。
②施設内への侵入を防ぐため、8mm目合いの防虫ネット等を設置します。
③本種の成虫は花に多く集まるので、花を注意深く観察し早期発見に努めます。
④青色の粘着トラップを設置し、発生時期、発生量の把握に努めます。
⑤薬剤散布は発生初期に重点的に実施します。また、1世代に要する期間が短いため、同一系統の薬剤を連用すると薬剤感受性の低下を助長します。そのため、IRACコードの異なる薬剤を組み合わせて、ローテーション散布を実施します。

【展示ほの取り組み紹介】
八代地域では、アザミウマ類の発生状況に応じた効果的な防除を実践するため、青色粘着板を野外とハウス内に設置し、10日に1回の間隔で発生推移の調査を行いましたので、紹介します(図5)。

図5 八代地域におけるアザミウマ類の発生消長

調査の結果、12月上旬までは、野外のアザミウマ類が多かったものの、1月上中旬、3月上中旬は野外よりもハウス内のアザミウマ類が多い傾向でした。また、3月下旬以降は野外のアザミウマ類が再び増加しました。
このことから、11月のアザミウマ類は野外からの飛び込みによるもので、厳寒期から3月中旬にみられるアザミウマ類はハウス内で越冬し増加したものだと考えられました。一方、3月下旬以降にみられるアザミウマ類は、野外からの飛び込みのものとハウス内で越冬したものの両方の可能性があると考えられました。
そこで、以下の体系で防除を実施しています。
①天井ビニル展張~12月下旬:野外からの成虫の侵入・定着を防止するために、成虫に効果の高い薬剤を使用する。
②1月上旬~3月中旬:ハウス内での幼虫の増殖を防ぐため、定期的に薬剤防除を実施する。

 

(2)ハダニ類


≪生態について≫
ハダニ類は、体長が0.5mm程度の小さく、主に葉を食害する昆虫です。
いちご栽培で問題となるのは、「ナミハダニ」(図6)と「カンザワハダニ」(図7)です。発生初期は地面に接した下葉に生息し、新葉の展開に伴い上位へ移動します。被害を受けた葉には白いかすり状の小白斑が生じ、多発すると、葉はハダニの吐く糸で覆われ、株の矮化(わいか)や枯死を引き起こします(図8)。
1世代に要する期間は、25℃では約10日で、産卵数は100~150個です。隣接株への移動は比較的遅いため、スポット状の発生となります。

図6 ナミハダニ
図7 カンザワハダニ
図8 ハダニによる被害株(赤丸内)

≪対策について≫
①ほ場周辺の雑草は発生源となるので、除草を徹底します。
②風通しの悪い場所で増殖しやすいため、換気、通風を良くします。
③発生初期の下葉の除去は有効であるため、除去してハウス外に持ち出し、処分します。
④薬剤防除の際は、葉裏までしっかりかけます。また、下葉かぎ後の葉数が少ない時期の薬剤散布は、葉裏に薬剤がかかりやすく、防除効果が高くなります。
⑤薬剤抵抗性が懸念されるため、薬剤だけでなく天敵の放飼も有効的です。

最後に

春先まで長期的に安定した栽培を行っていくためには、早期の害虫対策が欠かせません。防除を徹底して害虫被害を抑えましょう。
当課では、現地検討会や講習会で発生状況に応じたローテーション防除による対策の呼びかけを行っています。今後も生産者の高収量実現に向けた支援を引き続き行っていきます。

※図5以外の図1~8は、熊本県病害虫・雑草防除指針〈令和6年度(2024年度版)〉より引用。

県南広域本部 球磨地域振興局 農業普及・振興課

いちご暖候期の害虫対策(アザミウマ類、ハダニ類)について(PDFファイル)

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