トルコギキョウ栽培における吸引式LED捕虫器の防除効果について
はじめに
熊本県天草地域では、温暖な気候を活かしたトルコギキョウの栽培が盛んであり、多くの生産者が年末出荷と5月出荷を組み合わせた「2度切り栽培」に取り組んでいます 。しかし、この作型においては10月〜12月および3月~5月の時期に微小害虫が増加しやすく、これに伴う防除労力や薬剤コストの増大、さらには害虫被害による出荷ロスの増加が産地全体の大きな課題となっています 。特に開花期は使用できる農薬が制限されるため、化学農薬のみでは十分な防除が困難になるという側面もあります。
現在、農業現場では「環境負荷の低減」や「持続可能な農業」が求められており、花き生産においても薬剤だけに頼らない代替技術の導入が進んでいます 。そこで今回は、農薬に頼らない防除技術として注目される「吸引式LED捕虫器(以下、捕虫器)」を導入し、微小害虫(主にコナジラミ類)に対する防除効果や経営的なメリットを検証した実証結果を紹介します。

LED捕虫器の仕様と仕組み
本実証で導入した捕虫器は、特定の光波長で害虫を引き寄せ、ファンの風圧によって吸引・捕獲する物理的防除装置です 。
◯誘引原理: 害虫が特定の光波長に誘引される性質を利用しています 。
◯光源仕様: 本装置のLEDは緑色LED:525nmと紫外線LED:375nmを用いて誘引を行っています 。
◯捕虫方法: LED光源の近傍まで誘引された害虫を、内蔵ファンで下部の捕虫袋へ吸い込み、捕獲します 。
トルコギキョウ栽培における捕虫器の活用について
トルコギキョウの抑制栽培(12月出荷)において、定植直後の8月下旬から9月上旬にかけて捕虫器を設置し、その防除効果を検証しました 。
実証試験では、捕虫器を設置した「展示区」と、従来の防除のみを行う「慣行区」で、粘着板によるコナジラミ類の誘殺数を比較し、また、病害虫等の発生状況について、地域の代表的品種である「渚B」と「セレブクリスタル」の2品種で調査を行いました。なお、試験期間中の農薬散布回数は両区で共通とし、同一条件下で比較を行いました。
コナジラミ類の誘殺数は、9月26日から11月5日の期間において、展示区が慣行区を下回っており、11月以降も両区の差は縮まったものの依然として展示区の方が誘殺数は少なく、捕虫器がハウス内のコナジラミ密度を抑制する一定の効果があることが示唆されました (図2)。

また、微小害虫が原因となる「すす病」の発生状況を調査したところ、「渚B」ではほぼ同程度の発生でしたが、「セレブクリスタル」では、展示区が慣行区と比較し、発生を抑制することが確認されました。前作は、コナジラミ類の発生が多かったため、すす病により出荷ができなかったものもありましたが、今作では、すす病の発生は見られたものの、発生数は少なく、程度も軽微であったため、出荷ロスを軽減させることができました。葉巻病についても、調査区外でわずかに散見されたものの、出荷に影響するほどの発生は確認されませんでした(表1) 。
以上の実証結果から、捕虫器の導入はハウス内の害虫密度を低減させ、病害発生を防ぐための有効な手段になると考えられます。

導入コスト
新たな設備の導入にあたっては、そのコストと得られる収益のバランスが重要です。今回の実証におけるコストは以下の通りです。
1. 設置台数の考え方
メーカーが推奨する捕虫器の照射範囲は、1台あたり400〜500平㎡です 。面積換算では10aあたり3台程度の導入が計算上の目安となります 。しかし、実際の農業用ハウスは奥行きが長い構造(例:間口7m × 奥行50m)であることが多いため、実用上は1連棟につき最低2台を設置し、3連棟(約10a)であれば計6台を導入することが、死角を作らず効果を高めるために必要と考えられます 。
2. 導入に係る費用
捕虫器の導入には本体代金のほか、稼働に係る電気代等のコストが発生します 。しかし、病害虫の被害抑制効果を考慮すれば、初期投資を回収し、経営の安定化に寄与する可能性は高いと言えます。

導入にあたっての留意点
コナジラミ類は、トルコギキョウへの誘引性も強いため、捕虫器のみでの完全な防除は困難です。そのため、耕種的防除(除草等)、物理的防除(防虫ネット等)、生物的防除、化学的防除を組み合わせた総合的病害虫・雑草管理(IPM)に取り組むことで、より被害を低減させることが期待されます。
おわりに
天草地域における実証の結果、吸引式LED捕虫器はトルコギキョウ栽培におけるコナジラミ類の密度抑制と、それに伴う出荷ロスの削減に一定の効果があることが確認されました 。生産者からは、「捕虫器のみで完全に防除するのは難しいが、農薬散布や防虫ネットと組み合わせることで、開花期の薬剤制限をカバーする有力な補助手段になる。」との意見がありました。今後、労働力不足や薬剤抵抗性害虫の出現が懸念される中で、このような物理的な防除技術と化学農薬を組み合わせた効率的な栽培体系の確立が、産地の維持と競争力強化に繋がると期待されます。本実証で得られた知見が、地域の生産安定と所得向上の一助となれば幸いです。
天草広域本部農業普及・振興課
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