乳牛の暑熱対策について

1 はじめに

乳牛は、健康や生産に適した環境温度が0~20℃であり、暑さにとても弱い動物です。日本の夏は高温多湿で、乳牛にとっては過酷な環境であり、暑熱ストレスが大きくなります。本県は夏季に猛暑日が続く日が多く、乳牛にとっては負担の大きい環境となります。
暑熱ストレスによる乳牛への悪影響としては、主に以下の①~⑦が挙げられます。

これらは生産性に大きな影響を及ぼすため、早めの暑熱対策が必要です。

2 具体的な対策として

湿温度指数(THI)の活用

気温と湿度は乳牛の暑熱ストレスに大きな影響を及ぼします。これを評価する値としてTHIが利用されます。これはTHI=(0.8×温度+(相対湿度/100)×(温度-14.4))+46.4の計算式で求められ、THI72を超えると乳牛はストレスを感じ、生産性が低下するとされています。人間が暑さを感じるよりも早い時期にTHIが上昇している事が多いため、早めの確認が重要です。現場で一目で確認できるような機器も販売されていますので、活用をご検討ください。

牛舎の通気をよくする(牛舎換気、送風機の活用)

牛舎の構造によって換気の仕組みや風向き等の条件は変わりますが、カーテンの開閉によって直射日光を遮り牛舎内の温度上昇を防いだり、風向きをコントロールすることで、換気条件をよくして牛舎内の空気を滞留させないようにしましょう(写真1)。
換気と併せて、送風による冷却効果は大きく、乳牛の暑熱対策にはとても効果的です。
乳量の減少率を基にした乳牛の風速に対する体感温度は、風速1m/秒で6℃、風速2m/秒で8.5℃低下するとされています。牛体に送風する際は、胸部に風をあてると効果が高いと言われています。飼育条件によって送風機の高さを検討することも必要です(写真2)。また、送風機のほこりやクモの巣を取り除くことで風速を改善できるため、使用中はこまめに送風機の清掃を行うことを習慣にしましょう。

写真1 カーテンの開閉によって風向き、直射日光をコントロールする
写真2 大型の送風装置の下に集まる乳牛

細霧装置による牛体への散水

細霧装置を用いて牛舎内に細霧を散布する方法も体感温度を下げるために効果的です。園芸用のノズルを用いて手作りすることもできるため、取組みやすい方法の一つです(写真3)。
ただし、湿度の上昇とともにTHIも上昇させる可能性があるため、毎年の噴霧装置の点検は必要です。換気が十分できるよう心がけましょう。
牛体に直接散水することで体温を下げる方法もあり、5分以上の散水で効果がある事が知られています。ただし、牛床等が水浸しになり病原菌が発生しやすくならないよう排水対策等の工夫が必要です。

写真3 細霧装置と送風機

牛舎屋根の断熱材塗布、散水

屋根は太陽光を直接受け、熱伝導により牛舎が高温になる要因になります。屋根に直接太陽光を反射する資材を塗布する方法や、屋根裏に断熱資材を設置する方法、屋根に散水装置を設置する方法等があり、それぞれ効果も報告されています。

給与飼料の確認

暑熱期は飼料摂取量が低下し、乳量の低下や疾病に罹患しやすくなることも知られています。特に、粗飼料の摂取量が低下するため、良質な粗飼料の給与や、切断長を短くする、飼料メニューを再設計する等の工夫をしましょう。
高温多湿の環境が続くと冬場と比較して飼料の変敗が早く起こりやすくなります。開封したサイレージ等はすぐに使い切る、直射日光が当たらない風通りの良い比較的涼しい場所に保管する等の工夫が必要です(写真4)。
飼料給与する際は、昼間の特に暑い時間を避けて給与する、数回に分けて給与する、えさ寄せ回数を増やす等の工夫も重要です。

写真4 直射日光の当たらない通気性の良い場所でのエサ保管の例

飲水装置の清掃

乳牛の飲水量は乳量や糞尿、発汗や呼吸による蒸発により増減します。夏季は飲水量が増加し、1日に約100120Lの飲水を行うとされています。この飲水量を確実に確保し、新鮮な水をいつでも飲めるように飲水装置の清掃、点検は1日に1回以上確実に行うことが重要です。

 

その他の対策

子牛や乾乳牛、産褥(さんじょく)期の牛で個別飼いをしている場合も前述の暑熱対策と併せて、子牛のバケツの水のこまめな交換に留意しましょう。併せて個別の送風機の設置、スポットクーラー等の活用も検討しましょう(写真5、6)。

写真5 子牛への小型送風機での送風の例
写真6 分娩房の個別送風機とスポットクーラーの例

3 おわりに

乳牛全体の暑熱対策をご紹介しましたが、乾乳期や周産期、高泌乳牛は特に暑熱期に影響を受けやすいため注意が必要です。毎日の観察はもちろん、分娩後の早期対策等で暑熱ストレスを重症化させないようにしましょう。

県央広域本部 上益城地域振興局 農業普及・振興課

乳牛の暑熱対策について(PDFファイル)