阿蘇地域では、標高約400~600mの地域を中心に冷涼な気候を生かした夏秋トマト栽培(写真1)が行われています。栽培面積は約54haで、県内最大の夏秋トマト産地です。しかし、近年夏季の高温化の影響により障害果やウイルス病の発生が確認されており、新たな対応も必要となっています。そこで今回は、安定生産に向けた栽培管理のポイントを紹介します。
高原地域(阿蘇)における夏秋トマトの栽培管理について
はじめに
1 育苗~定植管理のポイント
①育苗
セルトレーから直径12㎝以上の鉢に鉢上げします。トマトの第1花房は9節前後に着生しますが、低温管理を行うと、第1花房が低くなりやすいため、鉢上げ直後は地温16~18℃、昼温度20~25℃、夜温度14~16℃で管理し、定植に向け徐々に本ぽに近い温度管理に移行します。かん水については、本葉4枚展開以降は絞りぎみの管理を行い、苗姿が長方形(安定した草勢)になるよう、管理します(図1)。
②定植時の注意点
阿蘇地域の作型(表1)のうち、早期は定植が4月であり、地温確保のためにマルチを早めに張って、定植前までに深さ10㎝の地温を15℃以上確保します。
定植後は、ほ場が水田地域(周りで水稲が栽培されているなど)であることや、若苗定植のため初期の草勢が強くなりやすいので、過かん水に注意し、強草勢にならないよう管理を行います。
阿蘇地域で主に作付けされている「りんか409」の定植のタイミングは、は第1花房の最初の花の開花期となります。定植が遅れると苗が老化し、定植後の活着が不良となりますので、注意が必要です。
2 梅雨時期の管理
「りんか409」は、初期の生育がやや強い品種です。初期の生育が強くなると、着果負担と梅雨期の日照不足により草勢が衰え、第6~7花房付近の着果不良を招いてしまいます。畑地のような排水が良好なほ場での土壌水分は管理しやすいのですが、地下水位が高い水田ほ場では注意が必要です。
昨年度、水田ほ場においてかん水管理の聞き取りと、土壌水分モ
ニタリング調査を行いました。結果は、定植後から梅雨時期までのかん水を抑え、土壌水分が低く推移した生産者Aのほ場では、梅雨時期以降も着果が良好でした。一方、定植から6月まで土壌水分が高かった生産者Bのトマトの生育は、初期の草勢が強くなり、第6~7花房が着花不良となりましたので、定植後は生育が旺盛にならないようなかん水管理を心掛けましょう。
3 高温対策
冷涼な気候が特徴な阿蘇地域ですが、近年の温暖化の影響により、夏季の気温は上昇傾向(図3)にあります。トマトは、日中の気温が30℃を超えると呼吸量が増加し草勢が低下します。梅雨明け~8月にかけて、遮光率20%程度の遮光資材を外張りで用いるなどして、高温対策に努めましょう。また、高温期はかん水不足や果実が高温にさらされることによる写真2のような日焼け果や葉の伸長が抑制される症状が生じます。草勢確保を目指すために、天候と株の状態に合わせ、少量多回数かん水を基本に土壌水分量の変動が少ない管理を心がけましょう。
4 小型ポット苗利用の注意点
これまでの阿蘇地域では、128穴のセルトレーで育苗した苗を12㎝以上のポットに鉢上げを行い、第1花房の開花頃に定植を行うのが主流でした。しかし近年、育苗の労力削減のために、小型ポット苗を用いた若苗定植が普及しています。若苗定植により作業性は向上しますが、12㎝ポット苗と比較して、床土の量がおよそ半分になるため、根量が少なく、根域が狭くなります。また、床土の量の減少に比例し、ポットの水分量も減少し、床土が乾きやすく萎れやすくなるため、注意が必要です。
5 トマト黄化葉巻病について
トマト黄化葉巻病のウイルス(TYLCV)を媒介するタバココナジラミは、阿蘇のように冬場が氷点下を下回る気候では越冬ができないため、これまではあまり問題視されていませんでした。しかし、近年6月頃から一部のほ場で黄化葉巻病の発生が確認され、9月頃には、多くのほ場で黄化葉巻病の症状が脇芽から見られています。作の終盤での発生が多く、致命的な発生にはつながってはいませんが、黄色粘着テープなどを設置によるタバココナジラミの早期発見とともに、適宜防除を行いましょう。
最後に
間もなく阿蘇中部地域(阿蘇市)では定植のピーク、南部地域(南阿蘇村、高森町)では定植準備お時期を迎えます。本年は、平年より高温傾向で、苗の生育が予定より早くなると予想されています。早めの準備・作業を行い、安定した草勢管理を目指しながら、安定した夏秋トマト栽培を行いましょう。
県北広域本部 阿蘇地域振興局 農業普及・振興課
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高原地域(阿蘇)における夏秋トマトの栽培管理について
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