阿蘇地域の牧草地に適した寒地型牧草とその生育特性

はじめに

阿蘇地域は「標高が高く、気温は低いが、暖地特有の強い日差しや、降雨量が多い。」といった特徴があります。また、土壌が黒ぼく土の酸性土壌となっています。そのような特徴を持つ阿蘇地域の牧草地では、主にトールフェスク、オーチャードグラス、ペレニアルライグラスの3種類のイネ科多年生寒地型牧草が栽培されています。近年では、それら3種に加えチモシーの栽培も見られるようになってきました。
今回はそれぞれの草種の特徴および阿蘇地域での生育栽培特性について紹介します。

阿蘇で主に栽培されている 寒地型牧草4草種の特徴

①トールフェスク

トールフェスクは暑さに強く、酸性土壌に適応するため、阿蘇地域での栽培に適しています。また、春の生育も旺盛で収量も多く望むことができます。一方で、茎葉が硬めであり、し好性や消化性は他の草種と比べると劣り、刈り遅れるとさらにし好性が落ちるため、適期の刈り取りを意識しましょう。

②オーチャードグラス

オーチャードグラスは寒地型牧草の中でも比較的暑さや乾燥に強いのが特徴です。また、土壌の適応範囲も広く、刈り取り後の再生力にも優れており、複数回収穫を行うことが可能です。一方で、蹄傷抵抗性はあまり高くないため、放牧利用より採用利用に適した草種となります。出穂後は消化性が日を追うごとに低下していくため、刈り遅れがないように気を付ける必要があります。

③ペレニアルライグラス

ペレニアルライグラスは、再生力と分げつ力が優れているのが特徴です。また、家畜のし好性、消化性、蹄傷抵抗性にも優れており、放牧利用に適しています。採草利用する際は、出穂期以降ではし好性や栄養価の低下がみられ、倒伏もしやすいことから出穂期前後での収穫が必要となります。

 

④チモシー

チモシーは耐寒性が非常に高く土壌凍結地域でもよく耐えます。また、し好性が高く、他の牧草に比べて出穂後の栄養価の低下速度が緩やかなのが特徴です。一方でチモシーは夏の暑さや乾燥に弱く、越夏性が他の寒地型牧草と比較して劣ります。そのため、越夏性を高めるために、1番草の収穫が梅雨前になるようにし、夏季の高温化での刈り取りストレスを回避するようにしましょう。蹄傷抵抗性が小さいため、放牧利用よりも採草利用に適しています。また、寒地型牧草の中でも刈り取り後の再生が遅く、3番草はあまり期待できませんので注意が必要です。

混播(こんぱ)について

阿蘇地域の気候や土壌に対しては、トールフェスクが最も適応性が高く、永続性もあることから、安定した草地の形成が行われます。一方で、春の生育が旺盛なことや、し好性が急激に低下するなどの特性があります。そのような点を補うために、オーチャードグラスやペレニアルライグラスとの混播を行い、年間を通して良質な草の生産ができるように努めましょう。

牧草の永続性について

草地は収穫作業や放牧利用、土壌表面への施肥が経年的に繰り返し行われることで、土壌の性質が徐々に悪化していきます。加えて、雑草の侵入などにより牧草の衰退が見られることで、草地の生産性は年々低下していきます。
実際にトールフェスク・オーチャードグラス・ペレニアルライグラスの3種混播がされている阿蘇の草地において、調査をしたところ、草地更新から年月が経過することで、収量や栄養価の低下がみられています。一般的に飼料のエネルギー価を表す指標である可消化養分総量(TDN)の収量は草地更新から経年数が少ないほど高くなり、特に1番草の収量に大きな差が出ています(図1)。
また、経年による雑草の侵入が多くみられ、特に3番草では久しく簡易更新をしていない草地において、約6割が雑草に代わるという結果が得られています(図2)。
近年阿蘇での栽培が見られ始めたチモシーにおいても、5年間継続して栽培したところ、2年目以降は収量が減少し、永続性はトールフェスクと比較して、小さくなっています(図3)。
良質な粗飼料の生産のためにも、
収量の低下や雑草が増えてきたと感じたら、草地更新を行い、草地の生産性回復を図りましょう。

図1:草地更新時期別TDN収量(㎏)
図2:草地内の草種割合(%)
図3:2草種の5か年収量(㎏/10a)(平成28年農業研究成果情報より)

おわりに

牧草地の形態には採草、放牧、採草・放牧兼用といった様々な利用形態があります。牧草地の環境や、利用形態生産者が草に求める特徴(栄養価、収量、し好性など)、給与する畜種に合わせて草種の選定を行い、必要に応じて草地更新を行うことで、より良い牧草の生産を目指しましょう。

 

県北広域本部 阿蘇地域振興局 農業普及・振興課

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