温州ミカンのナシマルカイガラムシはマシン油乳剤以外による越冬期防除が可能である

農業研究センター 果樹研究所 病虫化学研究室

研究のねらい

近年、温州ミカンのナシマルカイガラムシが増加傾向にあります。通常、温州ミカンでは、越冬期にマシン油乳剤の高濃度散布によりカイガラムシ類の防除を行いますが、樹勢が低下している場合や、冬期の低温あるいは着花が少ないと予想される年などはマシン油乳剤の散布を控える園が多くなります。これがナシマルカイガラムシを含め、カイガラムシ類が増加している要因のひとつだと考えられます。
そこで、温州ミカンのナシマルカイガラムシに対して、越冬期のマシン油乳剤散布に代わる防除法を確立しました。

研究の成果

3月中旬にアビオンE1000 倍加用によるアプロード水和剤 1000 倍を散布することにより、
1.5月から発生するナシマルカイガラムシの第1世代歩行幼虫の発生数が減少します(図1)。
2.7月のナシマルカイガラムシの果実寄生率を、ハーベストオイル 80 倍と同等に低く抑えることができます(図2)。

図1 ナシマルカイガラムシ歩行幼虫数の推移
注1)ナシマルカイガラムシが多発した樹を選び、2019年は薬剤処理区で5樹ずつ、無処理区で3樹を使用し、2020年は全ての区で3樹ずつ使用した。
注2)薬剤散布日は、2019年が3月17日、2020年が3月11日であった。
散布濃度は、アプロード水和剤1000倍、アビオンE1000倍、ハーベストオイル80倍であった。
注3)歩行幼虫調査は、カイガラムシが多数寄生した枝を1樹3枝選び、両面テープを設置し、テープに付着した歩行幼虫を計数した。
調査結果は、両面テープの長さ2㎝当たりに換算して示した。
注4)一部アカマルカイガラムシの発生も見られたため、アカマルカイガラムシの幼虫を含む可能性がある。
図2 ナシマルカイガラムシの果実寄生率(%)
注1)1樹当たり100果をランダムに選び、ナシマルカイガラムシの
寄生の有無を調査した。
注2)調査日は、2019年が7月16日、2020年が7月13日であった。
注3)試験区間において異符号で有意差有り
(ライアン法による多重比較、p<0.05)。
写真1 両面テープに捕獲されたマルカイガラムシ対の歩行幼虫

普及上の留意点等

1.本試験は、露地栽培の極早生温州「肥のあかり」で実施しました。
2.温州ミカンのカイガラムシ類の越冬期防除は、ミカンハダニとの同時防除も兼ねてマシン油乳剤散布を基本とします。本技術は、マシン油乳剤散布ができないときに利用しましょう。
3.アプロード剤およびアビオンEはミカンハダニに効果がないため、ミカンハダニの春期の発生に注意が必要です。
4.マシン油乳剤も同様ですが、アプロード剤およびアビオンEには浸透移行性がなく、薬剤の散布ムラがあると効果が落ちるため、薬剤散布はせん定後に実施しましょう。
5.アプロード剤の使用回数は3回ですが、感受性低下を防ぐために連用は避け、異なる系統のカイガラムシ剤でローテーション散布を行いましょう。

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