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Vitamin Table 〜第17回 ぶどうのおはなし〜

つる性の果樹、ぶどう…。その多くはワインとレーズンに加工され、世界中で親しまれています。疲労の即効回復になる果糖とブドウ糖などの糖質が主成分、アントシアニンの機能性も話題の夏の果実、ぶどうについて紐解きます。

原産地はどこ?

カスピ海・コーカサス地方。欧州系ぶどうの栽培の歴史は非常に古く、5000年以上前からといわれています。現在生産されている生食用と醸造用ぶどうは、ヨーロッパ原産、アメリカ原産、両種間の交雑種の3種に大別されています。

日本の葡萄の歴史を語る「甲州種」

ヨーロッパ起源の日本固有品種「甲州種」は、奈良時代から平安時代にかけシルクロードをつたって、仏教と共に伝来したとされています。この「甲州種」の栽培の始まりには、説が2つ。718年に修行僧行基が山梨県勝沼詞に大善寺を開山、そこで栽培開始した説。もう1つは、1186年に山梨県勝沼に住む雨宮勘解由が発見したという説です。室町時代あたりまでは基本的に生食で食べられてきたようです。現在では生食、醸造用として利用され、とくに山梨の栽培者により大事にされてきた歴史があります。

甲州種:甲州市提供

日本にワインが伝わる

文献上、初めてワインが登場したのは室町時代後期といわれています。この時代に書かれた公家日記に「珍蛇(チンタ)」というお酒を飲んだという記述があるそうです。

ぶどうの栽培・日本ワイン造りのはじまり

江戸時代に生食用・加工用として甲州(現山梨県)でぶどう栽培が広まり、日本の近代化と共にぶどう栽培・ワイン醸造がスタートしました。

日本の気候風土にあう品種改良!

「日本ワインの父」と呼ばれる川上善兵衛氏は、食味の優れるヨーロッパのぶどうを日本で根付かせたいと、日本初の醸造用品種「マスカット・ベリーA」を開発しました。ぶどう栽培の歴史はすなわち日本ワインの歴史です。
また、生食用のぶどうについても、大井上康氏による「巨峰」、井川秀雄氏による「ピオーネ」など、育種家の努力により、日本の気候風土にあったぶどうが開発され、独自の進化を歩んできました。

熊本でもワインぶどうの栽培が!

ヨーロッパの主要産地と比較すると雨量が多く多湿な環境、しかも最高気温が30度を超えることもある熊本でも、1991年からワイン用のぶどうが導入されています。そのぶどうから醸造されるワインの評価は、毎年入手困難な稀少なもの…。
念願叶って、原料ぶどうの生産者を訪ねました。菊鹿町葡萄生産振興会では、3戸から始まった栽培が、15年たった今、32戸に増えたそうです。

菊鹿町はぶどう作りに適す?

振興会副会長の徳丸敏人さんのほ場に伺いました。垣根仕立てのほ場に入った途端、目に飛び込んできたのは爽やかな淡いグリーンのシャルドネの房たち!5月に枝1本に房ひとつに摘果され、葉を15枚で芯留め…丁寧に作業を重ねられている見事な光景。ぶどう導入の前はいちごを栽培されていた徳丸さん。ぶどうの房たちを愛しそうに眺めながら『木作りできるかどうかがぶどう栽培の鍵!』と話してくださいました。導入して5~6年で次第に糖度があがってきたそうです。
菊鹿町は1日のうちの寒暖差が大きく、山あいで風通しも良く、砂の多い土壌でぶどう作りに適しています。しかし、問題は雨…。とくに梅雨の雨は灰色かび病の原因にもなりやすく、台風襲来の年もあります。
上質なワインの醸造は、工夫を重ね、手間暇かけて克服されてきた賜物なのでしょう。「毎日の丁寧な手入れが上質なぶどうを作る』いちごを1粒1粒、丹精込めて育ててこられた技と情熱が、シャルドネ栽培にも通じているのだと感じました。

ワインの香りは収穫時間によって変わる!

真夜中の0時から摘んだぶどうを「ナイトハーベスト」と呼ぶそうです。1日の中でも温度が低い時に収穫すると、ぶどうが酸化しにくいため、昼間の養分を蓄積した最も高い糖度のうちに摘むのだそう…。
熊本ワインの指導員の方が57筆ある契約ほ場を1か所1か所回って糖度を測り、最も糖度の高いほ場で午前0時から2時の間に摘むのだそうです。なんとも神秘的なお話ですね。
「ぶどうを収穫する時間帯の違いにより、ぶどう中の香り成分の前駆体の濃度が変動する」ことは山梨大学ワイン科学センター等による研究で科学的に解明もされています。

熊本で生まれた品種「ブラックビート」

1990年、不知火町で河野隆夫氏が「藤稔」と「ピオーネ」を交配、選抜して育種、2004年に品種登録されたのが「ブラックビート」です。見た目は巨峰と似ています。1粒味わってみると、甘味と適度な酸味が濃厚な味わいでした。
県内ではこのブラックビートをはじめ、巨峰・ピオーネ・デラウエア・シャインマスカットなどの品種をリレーしながら、9月頃まで様々な品種のぶどうが楽しめます。芳醇な香りと甘み、果汁がたっぷりのぶどうからお好みの品種を見つけてみませんか。

ブラックビート:吉次園
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持田 成子Shigeko Mochida

野菜ソムリエ上級プロ
女子栄養大学生涯学習講師

女子栄養大学在学中に「野菜のビタミン分析」に携わったことがきっかけで野菜ソムリエ資格を取得。「旬の野菜果物のチカラはココロとカラダを元気にする」をテーマに食育やセミナー、レシピ開発など食の周りで活動中。

野菜ソムリエとは

日本野菜ソムリエ協会が認定する資格。野菜・果物の知識を活かし自らの生活に活かす「野菜ソムリエ」、野菜・果物の専門家「野菜ソムリエプロ」、専門家の最上位資格「野菜ソムリエ上級プロ」と、3段階の資格がある。

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