【Sat】

Vitamin Table 〜第33回 にんじんのおはなし〜

気温が下がり…風邪が多いこの時期、体を温めてくれる根菜のチカラは大きなものです。
根菜の中でも色鮮やかなにんじん。英語名は「キャロット」ですが、その語源は豊富に含まれているカロテンからきているほどカロテンが豊富。ビタミンCも合わせて、粘膜や皮膚を強化するのにチカラを発揮します。今月はこの「にんじん」について紐解きます。

原産地は?

にんじんの原産地は、アフガニスタン北東のカラコルム、ヒンズークン山脈だと考えられています。この地域では今でも野生種のにんじんが見られるのだそうです。
野生のにんじんは東西二つのルートに分かれて世界に広まり、日本に2系統のにんじんが渡来することになったのです。
ひとつは、13世紀に中国に広まり16世紀末から17世紀にかけに日本に伝わった「東洋種」。細長い根が特徴で、江戸時代には関東各地で「滝野川大長種」、関西以西では「金時にんじん」が栽培されていたという記録が残っています。
ふたつめは、12~13世紀にヨーロッパに伝わり、江戸時代末期に直接長崎に渡ってきたものとヨーロッパからアメリカ経由で19世紀にわたってきた「西洋種」。江戸末期には「洋角にんじん」との栽培記録が残っています。これが後に「長崎五寸」となり、現在日本の主流「黒田五寸」や「向陽2合」などの五寸にんじんが生れてきました。西洋種のほうが栽培しやすいこと、味にくせがなく、やわらかくて食べやすい点が、急速に西洋化が進んだ日本の食卓に合っていたからと考えられています。

熊本ではいつごろから生産が盛んに?

1968年(昭和43年)に山鹿市が野菜指定産地として国から指定を受けたのを皮切りに、菊陽町や大津町が相次いで指定産地となり県内でのにんじん生産が盛んに行われるようになりました。

熊本の「東洋種」…

熊本県のふるさと伝統野菜、熊本市の「ひご野菜」にも名を連ねる「長にんじん」。長生きや丸く収まることを願って食べるお正月の縁起物野菜のひとつです。
この長にんじんは、生産者も少なく、販売されるのも食べるのもお正月…という希少なものですが、治水の神様として知られる加藤清正が築いた石塘堰(いしどもぜき)の水で潤う城山上代の地域で、伝統野菜を中心に生産されている方がいらっしゃいます。
12月から2月頃まで長く収穫出荷なさる西孝弘さんの長にんじんは濃いオレンジ色。加熱するとねっとりと甘く濃厚で、その味に魅了されたファンは、県外にもにもたくさんいらっしゃるそうです。数年前初めて圃場に伺った時、掘ってくださったときの驚きは今も鮮明なのですが、まずユンボで四角い穴を掘り、土の断面ににんじんが現れたところからは、傷つけたり折れたりしないように1本1本手で丁寧に掘り取る作業です。
5月頃の耕起に始まり→元肥→播種→間引き・追肥→収穫・販売…と丁寧に繰り返される作業の賜物があの独特の長さと深い滋味につながるのだと、伺うたびに頭が下がります。

熊本の「西洋種」といえば、菊陽町!

昭和53年に国の指定産地になって以来「菊陽人参」のブランド名で県内はもとより、全国へ向けて出荷されています。そんな菊陽町に野菜ソムリエ仲間でもあるにんじん専業農家の福島泰伯さんを訪ねました。
県内の主産地である菊陽町は阿蘇外輪山の裾野に位置し「黒ボク土」という火山灰が積もってできた、透水性、通気性に優れた土でにんじん栽培に適しているのだそうですが、もともとは土地が川よりも高いために水を得るのが困難だった地域…。福島さんのお宅の近くには、加藤清正が築いた「鼻ぐり井手」という特別な構造の用水路が残っています。この構造により、阿蘇方面から流れてくる土砂が堆積することなく水を通す仕掛けがなされています。「鼻ぐり井手」のある菊陽町馬場楠は、このおかげで肥沃な土地になってきた歴史がある地域です。
福島さんの曾祖父様の代には、すでににんじんの栽培をされていたそうですが、にんじん専業になったのは7年前から。約9haの面積で今が旬の秋冬にんじん、春にんじんを、品種をリレーしながら栽培されています。
その品種の一部を伺うと、冬はアロマレッド→カトリーヌ→クリスティーヌ。春はベータリッチ→クリスティ―ヌ→エマと…お洒落な名前次々に。色の良さや食味の良いものを選らんでいるとか…

福島さんのほ場にて

福島さんの曾祖父様の代には、すでににんじんの栽培をされていたそうですが、にんじん専業になったのは7年前から。約9haの面積で今が旬の秋冬にんじん、春にんじんを、品種をリレーしながら栽培されています。
その品種の一部を伺うと、冬はアロマレッド→カトリーヌ→クリスティーヌ。春はベータリッチ→クリスティ―ヌ→エマと…お洒落な名前次々に。色の良さや食味の良いものを選らんでいるとか…
収穫→洗って→予冷→出荷していく作業が11月から2月末、4月から7月末頃まで、絶え間なく作業が続くそうです。とにかく笑顔が絶えない農業人!4Hクラブ、JA青壮年部の役員なども歴任しながら異業種交流にも積極的に活動されている様子…。笑顔で栽培なさるにんじんの美味しさのヒミツを垣間見たひとときでした。
G-GAP認証取得に向けて忙しそうでしたが、福島さんブランドのにんじん栽培の優れた取り組みの見える化が果たせること、美味しさの進化を楽しみにしつつほ場をあとにしました。

堀りたてのにんじん

にんじんの栄養価

βカロテンの含有量は野菜の中でトップクラス。カルシウム、カリウムも豊富でとても栄養価が高い野菜です。

西さんのほ場で長にんじんを掘るキッズ野菜ソムリエ

家庭に常備されているように料理のジャンルを問わず、煮て良し、炒めて良しの万能野菜…。毎日、上手に取り入れて免疫力アップに役立てましょう。

ぱぱっと簡単レシピ

にんじんごはん

<材料2~3人分>
米 2
水 炊飯器の目盛2合の量
にんじん 中1
塩 小さじ1
オリーブオイル 大さじ1

<作り方>
⑴米を洗って、炊飯器に水とセットする。
⑵にんじんはすりおろして1に入れ、塩・オリーブオイルを加えてひと混ぜし普通に炊く。

 

にんじんポタージュスープ

<材料4人分>
にんじん 大1本(200g)
玉ねぎ 中1個
サラダ油 大1
固型ブイヨン 1個
水 1.5カップ
牛乳 2カップ
塩・こしょう 各少々
にんじんの葉やパセリ 適量

<作り方>
⑴玉ねぎは皮をむき、にんじんそれぞれ薄切りにする。
⑵鍋にサラダ油と玉ねぎを入れて中火で炒め、しんなりしたらにんじんを加えて炒める。ブイヨンと水を加えてふたをし、にんじんが柔らかくなるまで煮る。
⑶粗熱がとれた⑵をミキサーに移して牛乳を加え、なめらかになるまで攪拌する。
⑷鍋に戻して温め、塩こしょうで味をととのえ、器に盛ってにんじんの葉などをちらす。

にんじん葉の炒め物

<材料>
にんじん葉 3本分(約120g)
にんじん 1本
油揚げ 小1枚
赤酒 大1
砂糖 大1
しょうゆ 大1
ごま油 大1

<作り方>
にんじん葉はよく洗って3㎝の長さに切る。にんじん、油揚げは太めのせん切りにする。
⑵フライパンにごま油を熱し、にんじん、油揚げ、にんじん葉の順に炒める。
⑶赤酒、砂糖を加えてなじんだら、しょうゆを加えてさらに2、3分炒める。

※茎が気になる場合は、かたい部分をあらかじめ取り除いておいてください。

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持田 成子Shigeko Mochida

野菜ソムリエ上級プロ
女子栄養大学生涯学習講師

女子栄養大学在学中に「野菜のビタミン分析」に携わったことがきっかけで野菜ソムリエ資格を取得。「旬の野菜果物のチカラはココロとカラダを元気にする」をテーマに食育やセミナー、レシピ開発など食の周りで活動中。

野菜ソムリエとは

日本野菜ソムリエ協会が認定する資格。野菜・果物の知識を活かし自らの生活に活かす「野菜ソムリエ」、野菜・果物の専門家「野菜ソムリエプロ」、専門家の最上位資格「野菜ソムリエ上級プロ」と、3段階の資格がある。

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