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Vitamin Table 〜第6回 梨のおはなし〜

朝夕は幾分か凌ぎやすくなったとはいえ、日中の暑さはまだまだですね。
前回は、夏野菜でスタミナアップ…「なす」のご紹介をしましたが、いかがでしたか。
今回は夏の疲れをとるのにぴったりな旬の果物、シャリシャリとした歯ごたえと口の中に広がる瑞々しさに魅了される「梨」についてお伝えしたいと思います。
梨は「日本なし(和梨)」「西洋なし」「中国なし」に大きく分類されます。熊本で盛んに栽培されているのは「日本なし」…。農林水産省の平成24年のデータによると、熊本の梨は全国生産高7位を誇ります。その歴史から紐解いてみましょう。

日本で食べられた果物の中で一番古い?

『日本書記』に持統天皇が栽培を奨励委している記述もあるほど、古くから日本人に親しまれきた果物のひとつ。果物のことを「水菓子」と呼んでいた江戸時代に入ると全国で盛んに栽培され、江戸後期には100種以上の在来種あったとか。水分がかなり多い近年の梨は品種の改良によるもので、江戸時代の梨はもっと歯ごたえがあり、酸味が強いものだったといわれています。

熊本の梨の歴史は?

県下各地で栽培される梨ですが、その中でも主産地は、荒尾、竜北、球磨が一大産地…。熊本の梨の発祥の地といわれるのは、現在の氷川町、大野地区。明治38年(1905年)に山田熊三郎氏が定植したのがその始まり。続いて、現在の荒尾市に明治41年(1908年)に松尾茂三郎氏と関島増男氏が、そして大正元年(1912年)に球磨村一勝地に毎床協造氏が定植したといわれます。いずれの地域も一丸となっても手を携え、土地に合うた品種や生産技術の向上に努め、一世紀を経た今、それぞれの地域ブランドとして歩み続けておられる生産者様には敬意を表するばかりです。

品種改良といえばココ!

現在、私たちが食べている糖度が高く、ジューシーで果肉が程よく、柔らかいものは、明治時代の二十世紀と長十郎の発見をきっかけに、盛んに品種が改良されてきたものと知り、実をつけるまでに数年かかる品種改良はどのように行われているのか興味津々、宇城市にある「熊本県農業研究センター果樹研究所」に訪ねました。正門から入ると、見晴らしの良い広大な敷地には、「研究所」らしく整然とした圃場が広がっていました。前身は昭和7年(1932年)熊本市河内町に創設された熊本県農事試験場柑橘試験地。昭和22年(1947年)に熊本県果樹試験場として独立ののち現在地に移転したのは昭和47年(1972年)。以来機構改革も経ながら、農業産出額の約1割を占める果樹農業を維持発展させるために試験研究に重点的に取り組んでおられる研究拠点です。

お話を伺ったのはナシ・モモ・クリの専門「落葉果樹研究室」の宮田室長…。
筑波にある農研機構果樹研究所で「交配」「播種・育苗」「養成」「結実・果実調査」まで行われたものが全国の試験研究機関のひとつであるここに送られてきて、「系統適応性検定試験」つまり土壌・気候等に適応するのか試験栽培されるのだとか…。ばらつきもあるので3本くらい植えて優良なものを観察栽培していく。この試験を経て年に一度の品種検討委員会にかけられるという。合格したものが初めて、「品種登録・出願公表」なんと、ここに至るまで15~20年近く要するという地道な営みなのです。

最近は各種DNAマーカーを活用して不良なものを識別できるようにもなってきたとのことですが、研究者の方々の努力の結晶の賜物であると感じました。
興味深いお話を伺い今が走りの「幸水」の爽やかな味を頂戴したあと、圃場へ…。
圃場はカラスなど鳥の害を防ぐためネットに覆われています。
幸水→秋麗→豊水→あきづき→新高→新品種…と収穫時期が訪れる順に整然と栽培管理されていました。お話を伺ったように、かける袋で糖度が変わる試験をされるために、袋の種類(一重や二重、赤色等)を変えてあったり、袋がけした日付をマーカーで識別してあったり異なる品種用を試しにかけてあったりと、美味しさと個性をとことん追求される研究機関ならではの光景が見てとれました。
案内してくださる宮田室長の柔和な表情に秘められた果樹に賭ける情熱と信念を感じたひととき、『桃栗三年柿八年』の諺の意味を改めて思いました。

熊本で栽培されている主な品種って

幸水

(菊水×早生幸蔵)8月上旬~。甘味が強く果汁が豊富で赤ナシの人気の品種。

秋麗

(幸水×筑水)8月中旬から下旬。出回る期間は短く、熊本県で主に栽培される2003年品種登録の新品種。やや扁平な形とさびもあり見た目はよくないがとにかく甘くてジューシー。糖度は13.5~14度近い。

豊水

(石井早生×二十世紀)8月下旬~9月上旬。黄金色の大玉主力品種で、糖度は12度前後、酸味も適度で爽やかな味の品種。

あきづき

(新高×豊水×幸水)9月上旬。形がよく、爽やかな味で果肉は緻密で柔らかく、食べやすいと人気の晩生種。

新高

9月下旬~10月中旬。超大型で瑞々しい晩生の代表品種。「荒尾のジャンボ梨」はこれ。

梨の栄養や効能って?

水分やカリウムを多く含むため、利尿作用があり、体のほてりを冷ます効果があります。発熱時や夏の熱中症の改善にも有効です。また、低カロリーなので、ダイエット中のおやつやデザートにも。クエン酸やアスパラギン酸には疲労回復作用もあります。

シャリシャリ食感のヒミツ!

梨の果肉には石細胞と呼ばれるリグニンやペントザンというものが含まれ、細胞が厚くなっています。これらは食物繊維と同じような働きをして、美腸にも力を発揮します。
適度な甘みと瑞々しさは、晩夏に火照った体を和らげ、初秋を感じさせてくれます。
品種リレーでそれぞれの味を楽しみながら秋の味覚で夏バテの体を癒してみませんか。

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持田 成子Shigeko Mochida

野菜ソムリエ上級プロ
女子栄養大学生涯学習講師

女子栄養大学在学中に「野菜のビタミン分析」に携わったことがきっかけで野菜ソムリエ資格を取得。「旬の野菜果物のチカラはココロとカラダを元気にする」をテーマに食育やセミナー、レシピ開発など食の周りで活動中。

野菜ソムリエとは

日本野菜ソムリエ協会が認定する資格。野菜・果物の知識を活かし自らの生活に活かす「野菜ソムリエ」、野菜・果物の専門家「野菜ソムリエプロ」、専門家の最上位資格「野菜ソムリエ上級プロ」と、3段階の資格がある。

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