加温栽培ヒリュウ台「肥の豊」の高品質果実生産時の果実肥大量と土壌水分目視計の水位低下量

農業研究センター果樹研究所常緑果樹研究室

研究のねらい

加温栽培「不知火」においては、デコポン合格率の向上が課題となっています。近年、県内の加温栽培において、既存の「不知火」よりも高糖度で減酸が早いヒリュウ台「肥の豊」が導入されているところです。「農業研究成果情報No.881(令和元年)」において、8月中旬から収穫期にかけて表1の節水管理を行うと高品質果実が生産可能であることを確認しましたが、具体的な水分管理指標が明らかになっていませんでした。
そのため、より具体的な水分管理指標を示すため、秋期の果実肥大量と農研機構で開発された土壌水分目視計を用いた管理指標について試験を行ったので、その成果を紹介します。

※デコポン合格率
「不知火」や「肥の豊」のうち、農協に出荷され、糖度と酸度の基準をクリアした高品質果実が「デコポン」として販売されており、この基準をクリアした割合をいう。

注1)農業研究成果情報No.881(令和元年)より引用
注2)8月中旬~9月上旬に節水管理を開始すると高品質果実が生産可能

研究の成果

本研究所の加温栽培ハウス(黄色土)の8~9年生ヒリュウ台「肥の豊」(樹高2.5m、樹幅2.3m程度)で、2月上旬から15℃で加温開始し、満開が3月中旬の作型で試験を行いました。
9月上旬に糖度(Brix)9.6、クエン酸濃度1.56%、果実横径8.0cm程度の樹において、表1に沿ったかん水を行い、収穫期となる11月下旬にデコポンの合格基準を満たす糖度(Brix)13.3、クエン酸濃度0.86%、果実横径9.3cm(果実階級3L)となった樹(図1)の果実肥大量(横径)と土壌水分目視計の水位低下量を調査しました。

図1 加温栽培ヒリュウ台「肥の豊」における果実横径、糖度、クエン酸濃度の推移
注1)2019年と2020年の各3樹の平均値
注2)果実横径は各樹における平均的な10果の平均値
注3)果実糖度及びクエン酸濃度は各時期2~5果の平均値

その結果、樹の乾燥ストレスを示す葉内最大水ポテンシャルは、-0.7~‐0.9MPa程度であり、節水管理時に目標とする値で推移しました(表2)。
果実肥大量(横径)は、9月上旬~10月中旬は0.2mm/日程度、10月下旬~11月中旬は0.15~0.1㎜/日程度でした(表2)。
また、土壌水分目視計における9月以降の1日当たりの水位低下量は、3~5㎝/日程度でした(表2)。

注1)2019年と2020年の各3樹(本)の平均値
注2)±は標準誤差
写真1 土壌水分目視計の設置状況

)土壌水分目視計は、土壌の乾燥程度を測る機器で、先端のポーラスカップを土壌表面から20cm程度の深さに埋設し使用する。土壌水分のポテンシャルを示すpF値が2.8以上で水位が低下するとされている。本試験では、樹冠外周部付近の株間に設置した。

以上のことから、9月上旬に糖度(Brix)9.6、クエン酸濃度1.56%、果実横径8.0cm程度の樹において、表1に沿ったかん水を行い、果実肥大量(横径)が、9月上旬~10月中旬は0.20mm/日程度、10月下旬~11月中旬は0.15~0.10㎜/日程度とすることで、11月下旬に、糖度(Brix)13以上、クエン酸濃度1.0%以下の高品質果実が生産可能であることが確認できました。また、その際の、9月以降の土壌水分目視計における1日当たりの水位低下量は3~5㎝/日程度でした。

成果活用面・留意点

1.果実横径の日肥大量の確認は、樹冠赤道部付近の平均的な5果程度を選び、3~5日程度毎に同じ果実の同じ箇所を測定し算出します。測定の時間は、日中は果実が縮むため、夜明け~午前10時頃で毎回同じ時間帯に行います。

 

2.土壌水分目視計は、機器や設置方法によるものと考えられる測定値のバラつきがみられることから複数設置してください。設置箇所は、樹冠外周部付近でかん水により土壌の乾湿が生じる箇所に設置します。
設置方法の詳細等については、農研機構のホームページに「カンキツ用簡易土壌水分計の利用方法 標準作業手順書」が公開されていますので参考としてください。

 

3.本試験での土壌水分目視計の水位低下量は3~5cm/日でしたが、栽培園地の土質や根域の深さ等により適切な水位低下量は異なります。まずは、日肥大量の目安を満たしている際の水位低下量を確認し、それぞれの園の指標としてください。

 

4.日肥大量や土壌水分目視計を目安とした管理を複数年行って、各園の土壌の乾燥具合や果実肥大・品質の推移を観察し、最適な水分管理を確立してください。

写真2 横径計測の様子

中晩柑