ナシの着果対策と病害虫防除~安定生産のためにできること~

はじめに

桜が開花し、春らしい日が続いています。ナシもいよいよ発芽・開花が始まります。受粉作業を中心に、令和4年産も安定生産を目指しましょう。
また、開花直前から開花後2週間は重要病害虫防除期です。天候が不安定な時期ですが、適期防除に努めましょう。

着果対策について

ナシ栽培では、まずは着果させることが大前提となります。

ナシは、一部の品種を除いて、基本的には自家受精しないため、着果させるためには、他の品種の花粉が必要になります。また、ナシは、虫媒によって受粉するため、2つ以上の品種を植栽しミツバチ等で受粉が可能です。しかし、開花期に気温が低かったり、雨が続いたりすると虫の活動は鈍くなり、着果が不安定になってしまいます。そのため、人工受粉が着果を安定させる確実な手段となります。

人工受粉を行うには、花粉を準備しておく必要があります。花粉は、輸入花粉を購入するか、自分で採取して準備する必要があります。花粉を採取する品種は、県内の主要品種と交配親和性があり花芽が多く、花粉も多い「新興」が適しています。ただし、「新興」よりも開花の早い「新高」では、前年の貯蔵花粉を使用するか、「新興」の樹にビニルを被覆して開花を早めて花粉を確保する必要があります。また、品種が異なっていても、お互いに受精しない品種もあります。主要な品種では、「あきづき」と「秋麗」は互いに受精しませんし、「新高」の花粉は、不完全で量が少ないため受粉に適していません。この交配親和性や発芽率の調査については、各地域の農業普及・振興課までご相談ください。

花粉採取は、「新興」が蕾の状態で行います。蕾から写真1の通り採葯(さいやく)し、25℃の開葯機(かいやくき)で1518時間おくと粗花粉(そかふん)の状態になります。粗花粉は、薬包紙などに包み、乾燥剤とともにマイナス20℃以下で貯蔵すると、1年以上保存が可能です(写真1⑥)。受粉の際には、この粗花粉を石松子(せきしょうし)で倍量程度に増量して梵天(ぼんてん)などで受粉します(図1)。なお、貯蔵花粉を使用する際は、受粉前に発芽率の調査をしておきましょう。

① 蕾を採葯機(さいやくき)に入れる
② 葯(やく)をフルイにかける
③ 葯を‘さらし’で選別
④ 葯を開葯器(かいやくき)で25℃、
15~18時間程度で開葯する。
(左:開葯後 右:開葯前)
⑤ 粗花粉を薬包紙で包む
⑥ 密閉容器に粗花粉と乾燥剤を入れ、
冷凍庫で貯蔵
(1年以上貯蔵可能)

写真1 ナシの花粉採取

図1 ナシの人工授粉

病害虫防除

ナシ栽培では、まずは着果させることが大前提となります。
病害虫防除について、まずは、冬季に各病害虫の主要な伝染源の除去し、菌密度を下げておくことが前提で、次に萌芽期、開花期など予防散布を徹底しましょう。特に、黒星病は開花期に気温が低く降雨が多いと、菌密度が増加し、その後多発しやすくなりますので、注意が必要です。

黒星病(写真2)

黒星病は、感染してから発病するまでの潜伏期間が14日以上と長く、感染に気付かず防除が遅れると多発します。昨年は、平年より早い梅雨入りや、8月のまとまった降雨により黒星病が散見された園が多かったと思います。多発した園では、秋季防除と罹病(りびょう)した落葉の園外持ち出しやロータリーすきこみを行ったうえで、この最重要防除期の管理を徹底しましょう。

萌芽初期、開花期、幼果期に天気予報を注視し、降雨前の散布に努め、多発する園地においては、十分な農薬散布量、むらの無い丁寧な散布を心がけてください。
薬剤耐性の発達を避けるため、DMI剤(FRACコード3)とQoI剤(FRACコード11)の使用は2回まで止め、異なる系統をローテーションで使用するよう努めましょう。

写真2 黒星病

ナシマルカイガラムシ

ナシマルカイガラムシは、1齢幼虫で樹幹や枝で越冬しています。そのため、越冬期のマシン油による防除が効果的ですが、できていない場合には、表1の薬剤を散布しましょう。ただし、アプロード水和剤とアビオンEを散布する場合は、薬剤感受性低下を防ぐため、本処理は1回に留めましょう。

ニセナシサビダニ

ニセナシサビダニは、3月末~4月始め頃から新梢(しんしょう)先端葉で発生し始めます(写真3)。2月中にクムラスを散布していれば、次は5月の防除で構いません。しかし、できていない場合は、3月下旬から5月下旬の間に、ダニ剤で2回防除を実施しましょう(表1)。その際、新梢先端に十分かかるよう防除してください。

写真3 退緑斑点症状(モザイク症状)

県央広域本部  農林部  農業普及・振興課

 

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