畜産経営における暑熱対策について~畜舎環境対策と飼養管理対策~

はじめに

今年は平年よりも20日早く梅雨入りし、蒸し蒸しとした暑さの厳しい日が続いていますが、暑熱対策は万全でしょうか?
牛や豚をはじめとして、家畜には健康に過ごせる適温域があり、この適温域は畜種により異なります(表1)。
この適温域よりも高い気温でも、ある程度であれば体温を調節する仕組みが機能しますが、ある限界の温度(臨界温度)を超えると、この体温調節の仕組みがうまく働かなくなり、急激に体温が上昇して様々な不調を引き起こします。

畜種への暑熱の影響

具体的には、食欲の減退やそれに伴う肥育成績の悪化、雌においては受胎率の低下など繁殖成績の悪化も見られ、暑熱の影響がひどい場合には、個体によっては死ぬこともあります。
他にも、乳牛においては泌乳量の低下や乳質の低下(乳脂肪率の低下や体細胞数の増加など)がみられ、採卵鶏においては産卵率の低下や卵殻質の低下による破卵率の増加も見られます。

様々な暑熱対策

では、これらの悪影響を少しでも減らすためにどのような暑熱対策があるのか、ここでは乳用牛を例にとって紹介したいと思います。
暑熱対策は、畜舎環境対策と飼養管理対策の大きく2つに分けることができます。

(1)畜舎環境対策
①屋根
屋根は直接日射を受けるため、著しく温度が上昇します。そのため、屋根への断熱塗料やドロマイト石灰の塗布(図1)や、屋根裏への断熱材の設置、あるいは屋根散水を行うことで効果的に屋根の温度上昇を抑えることができます。
実際に、ドロマイト石灰を塗布している屋根と塗布していない屋根をサーモカメラで撮影してみると、屋根の温度で10℃近く差があることが分かります(図2)。

図1.ドロマイト石灰を塗布した屋根
図2.屋根の温度比較
(左)塗布なし:35.9℃

(右)塗布あり:24.9℃

②側面
畜舎の側面(壁、窓、入口等)には、ひさしや寒冷紗などの遮光ネット、植物のグリーンカーテンなどを設置することで、畜舎内や家畜に直接日光が当たることを防ぎ、また、畜舎内の温度上昇を抑えることができます。

 

③畜舎内
畜舎内においては、熱がこもらないように扇風機(図3)を利用して風通しを良くすることで温度の上昇を抑えることができます。また、家畜に直接風を当てることで家畜の体温上昇も抑えることができますが、家畜に直接風を当てるためには、扇風機の数や配置場所、向きなどをしっかり検討する必要があります。
さらに、細霧装置等を設置すれば、気化熱による温度の低下も期待されます。

 

図3.扇風機と細霧装置

(2)飼養管理対策
①密飼いを避ける
家畜同士が密にならないよう、十分なスペースを確保して飼育しましょう。家畜のストレス軽減と体感温度の減少につながります。

②牛体の手入れ
体温を下げるためには体の表面から熱を逃がすことも大切です。毛や体表に付着しているふん便(ヨロイ)は断熱材の役割を果たし、体内からの熱を逃がしにくくします。そのため、毛刈りや、特にふん便の除去は積極的に行いましょう。

③十分な飲み水の確保
新鮮な冷たい水をいつでも飲めるようにしておくことが重要です。十分な水量が出ているか、水槽が汚れていないかこまめに確認しましょう。

④飼料
気温が高くなると食欲が落ち、採食量が減少します。少しでも採食量が減らないように、涼しい時間に給餌したり、給餌回数を増やすなどの工夫が大事になります。食い残しが多い場合は、消化率や栄養価の高い良質な飼料に切り替えることも検討しましょう。また、家畜の様子に合わせてビタミンやミネラルも併せて給与しましょう。
また、高温多湿なこの時期はサイレージなどの変敗が起きやすくなります。給与前には変敗が起きていないかしっかり確認し、開封後は早めに使い切ることや、冷暗所に保管するなど十分に注意してください。

以上のように、暑熱対策には様々な方法がありますが、畜舎環境対策と飼養管理対策の2つを組み合わせることで大きな効果を発揮します。自分の畜舎や飼養状況に応じて適した暑熱対策に取り組みましょう。

おわりに

暑熱は家畜の生産性や繁殖性の低下を引き起こし、それが畜産農家にとって大きな経済的損失へとつながります。
大切な財産である家畜を暑熱から守るためにも、早いうちから対策をしっかりと行い、暑い夏を乗り切りましょう

県北広域本部 玉名地方振興局 農業普及・振興課

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