こだわっとる農

いぐさ・水稲

氷川町 “和”の伝統文化を支える産地を守りたい~いぐさ・畳表の産地を次世代につなぐ~

松田州平さん・里美さん・直哉さん

はじめに

国内最大のいぐさ・畳表の産地で知られる熊本県八代地域。その北部に位置する氷川町は、町の中央部を東から西へ2級河川氷川が流れ、東部に山林や丘陵地帯、西部には不知火(しらぬい)干拓をはじめとした平坦地帯が広がっています。町内各所に桜の名所があり、春には里山から平野部の一帯がピンク色に染まった美しい光景が広がります。また、熊本県の「梨の発祥地」として100年以上の歴史を誇り、特産品である「吉野梨」は全国的にも知られています。
今回は、この水と自然に恵まれた豊かな土地で、親子3代に渡っていぐさ・畳表を生産する松田さん御一家をご紹介します。

親子3人でのいぐさの植え付け作業。
12月の寒空のもと、州平さんが機械を操作し、その後に続いて里美さんと直哉さんが補植を行います。

経営の特色

松田州平さんは、里美さん(妻)、直哉さん(息子)と一緒に水稲といぐさ・畳表生産を基幹とした複合経営を行っており、いぐさの作付面積は地域平均を上回る規模の経営を行っています。
畳表については、熊本県の最高級ブランド畳表「ひのさらさ」を始めとする高品質畳表の生産に力を入れています。卓越した技術によって織られた畳表は、品評会で毎年上位入賞を果たし、産地問屋からの信頼も厚く、年間を通じて安定した高価格での有利販売に繋げています。また、畳表の生産履歴を表示するQRコード付きタグを畳表の1枚1枚に挿入し、消費者からの信頼獲得に努めています。
また、家族みんなが働きやすい農業を実現するため、日曜日を必ず農休日にすることを家族で取り決め、心身のリフレッシュとモチベーションの向上を図っています。

第47回熊本県い業大会で農林水産大臣賞を受賞した畳表。松田さんこだわりの「ひのはるか」で織られた自信作です。

いぐさへのこだわり

松田さんは、高品質ないぐさ生産に欠かせない基本技術である適期収穫に力を入れています。早刈栽培向けに「涼風」、普通刈栽培向けに「ひのみどり」、「ひのはるか」の3品種を導入し、6月~7月の収穫期間中、それぞれの品種を適期に収穫できるよう工夫しています。
また、収穫後のいぐさくずやワラのすき込みの他、近隣の酪農家との耕畜連携による堆肥の投入、有機質肥料の活用等による土づくりを重視し、茎の色調や充実が良好な高品質いぐさ生産につなげつつ、循環型農業との両立を目指しています。
松田さんが特に力を入れる品種が「ひのはるか」です。色鮮やかで美しい畳表が織れる一方で、いぐさの茎が柔らかいため栽培・加工が難しいとの意見もある品種です。松田さんはいぐさの伸長期には毎日ほ場を観察し、茎を傷つけないようこまめに倒伏防止網を高くするなど、丁寧な栽培管理を徹底しています。

7月に収穫したいぐさの“泥染(どろぞ)め”作業。乾燥させる前に、“染土(せんど)”という専用の泥を水に溶かし、いぐさを浸漬して茎に付着させます。畳表独特の美しい色沢や心安らぐ香りは、この泥染めにより生まれます。

畳表へのこだわり

一般にはあまり知られていませんが、いぐさから畳表を生産するまでの工程は複雑で多岐にわたり、その工程1つ1つに高度な知識や技術が必要です。色調が良好で織り傷のない高品質な畳表を織るためには、毎日の湿度にすら神経を使います。
畳表の加工作業は家族分業体制で行っており、原料となるいぐさの選別を直哉さん、織機(しょっき)4台を使った製織(せいしょく)作業を州平さんと里美さん、畳表の仕上げ作業を州平さんが担当しています。日頃から作業効率化や品質向上について家族3人で話し合い、常に改善を図っています。
これらの努力の結果、松田さんが「ひのはるか」で織った美しい畳表は、令和3年度の品評会で農林水産大臣賞を受賞しています。

第47回熊本県い業大会の表彰式にて。
州平さんによる畳表の仕上げ。
美しい畳表を消費者に届けるため、専用の“仕上げ包丁”を持つ右手にも力が入ります。
いぐさの選別作業。
織機(しょっき)で畳表を織る傍らで、いぐさの品質を1本1本丁寧にチェックします。

地域への貢献

松田さんは、所属するJAやつしろい業部会の現地検討会に積極的に参加するなど、日頃から技術習得や生産者同士の情報交換に意欲的に取り組んでいます。
「他の生産者に負けない畳表を作りたい」という強い向上心を持って取り組むその姿勢は、家族だけではなく周りの生産者にも良い刺激となっており、産地全体の技術レベルアップに大きく貢献しています。

将来の目標

「今後20年以上はいぐさ・畳表を続けたい。4年前に就農した直哉さんとともに、将来的には更なる規模拡大も考えている」と、松田さんは将来の経営発展にも意欲的です。
また「日本の伝統文化を支える畳の材料である畳表の生産が無くなれば、自分たちだけではなく、様々な業種に影響してくるのではないか。農家は高品質畳表の生産に力をそそいでいるので、品質に見合う適正な価格で販売できる魅力ある産業になって欲しい。そうなることが後継者の確保・育成や、産地の維持・発展に必要。」と話します。
―世界に誇る日本文化を支える「いぐさ・畳表産地」を、世代を通じて守りたい―。
強い信念と思いを持って、家族一丸となって今日も畳表を織り続けています。

(紹介:県南広域本部 農林水産部 農業普及・振興課)

<プロフィール>
松田 州平 さん
◯経営概要:いぐさ(1.2ha)水稲(1.5ha
◯家族構成:6人(うち農業従事者3名)
◯熊本県い業大会い草・い製品品評会における過去の主な受賞歴
◯農林水産大臣賞:1回(R3
◯生産局長賞:2回(H28H29
◯九州農政局長賞:1回(R元)
◯熊本県知事賞:2回(H30R4

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