月刊農業くまもとアグリが創刊されて、30周年を迎えました。
平成元年当時、日本農友会増田義孝会長執筆により、熊本農業の偉人、松田喜一先生の語録を解説した「農聖 松田喜一の語録『農魂』が連載されておりました。
奇しくも、昨年は松田喜一先生の生誕130年、没後50年という大きな節目の年でもありました。
松田喜一先生の教えや生涯を語り継ぐ人も高齢化しております。
今の時代だからこそ、松田先生の精神、生き方、教えをあらためてお伝えしたい。
そのような思いで、「逆境を生きる 農聖松田喜一に学ぶ」著作の中川敏昭氏に執筆を依頼したところ、快諾をいただきました。
これから12回にわたり松田先生からの学びについて連載していきます(アグリ編集部)。
逆境を生きる 農聖 松田喜一に学ぶ 第一回
農業くまもとアグリ創刊30周年記念企画「逆境を生きる 農聖松田喜一に学ぶ」連載開始にあたり
松田喜一先生は、熊本の誇りだと思います。幼小の頃は、おかゆで育ち病弱、水泳や木登りなどの危険な遊びは禁止されていました。学校が嫌いで休みがち、成績も悪く、3、4年で体力や学力も向上して来ました。そんな先生が、いかにして農業の神様、昭和の農聖、教育者、哲学者などと尊称されるようになったのでしょうか。この一年間の連載で明らかにしつつ、先生の言葉、教えから学んでいきたいと思います。よろしくお願いします。
先生と筆者の不思議な縁
私は、先生とは面識はありませんが同郷(松橋町東松崎)であり、先生の母校豊川小学校の校長として3年間勤務しました。その時、先生の祖父喜七の河底通す用水路「底井樋」の偉業や喜一先生の功績や教え等を記した「豊川の心 熊本の心」を学校として発刊し、保護者、管内の学校や教育機関等に配布しました。これが先生の御子息とのご縁となり、先生の生涯や教えを著した左記拙著の執筆、そして今回の連載につながりました。
先生の教え農魂:変わらないもの
戦後70数年が過ぎ、その間、社会も産業、教育も科学も大きく進展しました。農業も機械化が進み、栽培や販売方法等も大きく変わってきました。しかし、何事においても、どんなに時代が変化、進展しようとも変わらないもの、変えてはならないものがあるように思います。農業においては、先生の教え農魂だといえます。
先生は「農魂は人間相手でなく、天地を相手とする魂である。天地の積みおかれたる無尽蔵の宝をいただいて国家社会につくす魂で、忘我育成の魂である」と。天地の恵みを生かし一切合切、作物や家畜本位になり切って尽くす愛の姿といえます。農魂は、農業を好きで楽しむ人間になることが極意であり、永続的に農業が発展し続ける根本だと思います。
先生の著書再々版への思い
昨年(平成29年)は、生誕130年、没後50年の大きな節目でした。先生の功績や教え等を語り継ぐ人も高齢化し、本や資料も入手しにくい状況にあります。そこで、松田神社から、昨年の4月筆者の拙著「逆境を生きる 農聖松田喜一に学ぶ」が上梓され、7月には先生の著書「農魂と農法 農魂の巻」「農業を好きで楽しむ人間になる極意」が再々版されました。この3点セットに先生の教えを後世に伝える思いが込められています。
私たちの使命
先生の心願は、理想の農場の創設と農業青年の育成、農業の発展であり、論より証拠で示されたといえます。先生は何度も逆境・試練に遭遇され、自殺を覚悟されるほど追い込まれ、そこから紡ぎ出された言葉、教えは農業界のみならず多くの人を感化しました。私もその一人で、先生の教えを教育に生かしてきました。農業界では、カライモ博士と呼ばれる天草の今福民三氏、59歳の時一大決心をし、タイに単身で渡り農場を開いた谷口巳三郎氏等です。先生の精神、教えを語り継ぐことは私たちの使命であるとも感じています。
- 松田喜一に学ぶ