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逆境を生きる 農聖 松田喜一に学ぶ 第三回

今月からは先生の言葉、教えから学んでいきましょう。これから述べる三作れは、人間として生きていくうえで、自分を作り、環境を整え、本業に真心を尽くすことの大切さを教えています。この言葉は、喜一先生の指導理念であり、普遍的価値だと思います。

三作れ「人間作れ 土作れ 作物作れ」

「人間作れ」

「人間作れ」はまず自分を作ること。「土を作り」「作物を作る」ことは、もちろん「人間(自分)作り」につながっていきます。
しかし、これだけでは真の「自分作り」はできません。先生は、天地の声を聴き、行いつつ古典や歴史、伝記、文学の本等を読んでいます。その学びをもとに
自らの体験に光を当て、その意味や価値を深く汲み取り、月刊「農
友」や本にまとめ農業の発展に尽くしました。それは自分作りでもありました。

「土作れ」

「土作れ」は人間が稲麦を作るのではなく人間は稲麦がよくできる土を作るのが役目で、よりよい環境をつくれということ。人間や植物が育つには目には見えない心や根を育てることが肝要。そのためには心が育つ環境、根が育つ土作りが大切です。先生は、火山灰土の黒石原の農場での失敗で土作りの大切さを実感されたので、干拓地昭和村では上下の土を入れ替える天地返しによる土作りに身魂を尽くしました。それは豊
かな実りにつながりました。

「作物作れ」

「作物作れ」は農業の本質、根本を学び作物に真心を込めること。先生は、熊本農業学校で近代的科学的農業を学び、農商務省では害虫駆除や化学分析、肥料分析等にも関わり、その後、恩師河村九淵の紹介で、当代の栽培学の大家(北海道)を訪問し教えを請い、県立農事試験場では全国麦行脚に出かけ自分の目と耳と体を通して学び、麦作の改善に努めました。

作業始めのひとこと(指導者:御子息昭人様)

三作れは普遍的価値

三作れは、どんな職業にもいえる普遍的価値だと思います。筆者はこれを手掛かりに、校長時代、教職員三作れ「人間作れ 教育環境作れ、魅力ある授業作れ」を掲げました。

土作れ・作物作れ

「人間作れ」は教師が自分自身を修めること。いかに生きるかを学び、教育の根本、子供観=教育観、指導観について深めること。どんな見方、考え方に立つかで教育や指導、接し方は変わります。喜一先生は「人生で何より肝要な事は正しき観念を養ふこと」を力説されました。見方・観念が間違っていれば、指導の効果は期待できません。

「土作れ」は子供が育つ学校や学級の人的物的環境を作れということ。社会や子供たちの現状を考えると「地域の子供は地域で育てる」環境・雰囲気作りが求められます。特に子供たちへの温かい眼差し、認め励ます言葉掛け、これは心がけ次第ではできます。このような地域の環境で学校教育が行われるなら子供たちは伸びていくでしょう。

「作物作れ」は「魅力ある授業作れ」、教職の専門性、実践的指導力を持てということ。このような教師であれば、子供たちの授業への関心は高まり、主体的・対話的で深い学びができるでしょう。校長であれば「魅力ある学校作れ」、尊い教育目標を掲げ、職員を育て生かし組織を機能させる、学校・家庭・地域を連携協働させる、子供たちの知徳体を育む、この育ちを学校・家庭・地域で共に喜び、一体感を味わえる学校を作れということでしょう。

原点は「自分作り」

喜一先生は、幸も不幸も皆、自分故に決まることであると教えています。自分作りには心酔できる師、よき友・同僚、座右の書を持ち、「我以外皆師」という謙虚さが求められるでしょう。

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