【Sun】

Vitamin Table 〜第19回 米のおはなし〜

豊穣の秋…県内各地でたわわに実った黄金色の稲穂が頭を垂れる光景が広がる頃を迎えました。
日本人にとって、春に豊作を祈り、秋の収穫に感謝する稲作を中心とした営みは、2000年以上繰り返してきた大切な文化です。今月は、食生活に欠かすことのできない「米」について紐解きたいと思います。

稲作の起源と日本への伝来

最新の研究によると、稲作の起源は中国の長江地域と考えられており、長江の下流の遺跡からは、炭化米や稲作に使われたと思われる約7000年前の道具が出土しています。
稲作は、ここからインド、アジア地域へと広がりました。日本では、縄文時代後半に、中国伝来の水田稲作が行われていた可能性が高いと、近年の研究で分かってきました。水田稲作はその後、弥生時代以降に本格的に始まり、日本各地へ広がっていきました。

日本人の祈りと文化

『日本書記』には、天照大御神が斎庭(ゆにわ)の稲穂を天孫瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に授けられたことが記されています。そこに日本のはじまりが位置付けられることは大きな意味を持ちます。天皇陛下から国民に至るまで神を祀ることは日本の大切な文化です。

熊本では

熊本は、約28000年前から人々が暮らし、全国でもいち早く稲作が始まった地域といわれているそうです。阿蘇山系を源とする清流と肥沃な土に恵まれ、西日本一の生産量を誇ります。

3地域に分類、適地適作と出荷リレー

熊本県の米は、例えば7月下旬には温暖な天草地方の早場米「コシヒカリ」、8月下旬には平坦地の「キヌヒカリ」、9月上旬には阿蘇地方の高冷地産「コシヒカリ」、そして10月には「ヒノヒカリ」や「森のくまさん」という具合に、リレーのように出荷されています。

熊本地震による水田被害

平成28年に発生した熊本地震では、亀裂による田面区画のずれや沈下、農業用水の損壊、ため池の損壊など、各地域の水田被害は尋常ではありませんでした。
現在でも作付けの目途が立たず、大豆などに転換せざるを得ないところも多く存在すると聞き及びます。

凶作・不時に備えての救荒食…「焼き米」

豊かな自然に囲まれ、1年を通して農産物を収穫できる熊本ですが、前述のように豪雨災害や地震などにより水田に大きな被害を受けてしまうこともあり、凶作・減収と無縁ではありません。
『聞き書 熊本の食事』によると、昔から凶作や不時に備えた米の加工品があったのだと…。それは、阿蘇や山都町矢部地区の農家に保存食として受け継がれてきた伝統食「焼き米」。田んぼの隅々や水のとりいれ口の充実していない不揃いの稲穂を青刈りして、籾のまま3日ほど流水につけた後、水きりして炒り上げ、籾をとり、押し潰したものです。
阿蘇家の陣中食が起源だそうですが、それがなぜに矢部地区に伝わっているのでしょう…。熊本を代表する豪族阿蘇家は1207年、峠を境にした矢部に「浜の館」を置き、標高450mの高台と緑川の水運で豊かな地域で栄えた時期があった…その縁で伝承されてきたのではないかと思われます。

「焼き米」の生産者さんを訪ねて

焼き米搗きは、隣近所の共同作業で行っていたそうですが、現在でも作っている人はほとんどいないといいます。そんな焼き米を昔ながらの製法で作り続けるご夫妻を山都町矢部地区にお訪ねしました。茅葺屋根、大きな水車が目印の「成瀬水車」の成瀬人司さん、百合子さんです。
こちらでは、収穫した籾を3日3晩、水に浸すのがこだわりです。『芽が出るか出らんかのうちに焼き米にすると甘みが出る』…と。生籾が芽を出す過程で消化酵素が働き、糖化するのでしょう…。さすが!絶妙のタイミングを計る技の持ち主とお見受けしました。
鉄釜で炒り、乾き過ぎは禁物なのでゆっくり蒸らしながら精米して籾を除き、再度鉄釜でべっ甲色になるまで炒り、熱いうちに圧ペン機でしゃぐ(押し潰す)と花びらのようなフレーク状に…。熱い中で繰り返されるご夫妻の息が合った絶妙の手仕事には感動するばかりでした。

『子どもの頃のおやつはこればっかり。ポケットに一握り入れて遊びに行きよったたい』と懐かしそうに話されるお2人…。焼き米は、そのままぽりぽり食べるだけでもおいしいですが、湯呑に一握り入れて熱湯かお茶を注いだり、砂糖を加えたり、醤油の実を添えたり、一工夫してから食べるのもおすすめです。5世紀も生き続けている優しい味は、まさに郷土の宝の食材と感じました。
また、東日本大震災以降、県外からの注文も増えたとか…。保存食として、食べ方の提案も探りつつ、伝承していきたいと笑顔で話してくださいました。

米(ごはん)の栄養価は…

米には、体に必要な様々な栄養成分が含まれています。
主成分は、脳や体のエネルギーになる炭水化物ですが、筋肉や血液などの体の基本を作るたんぱく質が含まれるのが特徴です。米(ごはん)のたんぱく質は、他の穀類に比べ非常に栄養価が高く、体内では合成できない必須アミノ酸が含まれているのです。他に、ビタミンB群や亜鉛などのミネラル類、食物繊維も豊富です。

もうひと口、ごはんを食べよう!

先日、農林水産省が2016年度のカロリーベースの自給率が38%であったと発表しました。米の大凶作に見舞われた1993年度に次ぐ史上2番目の低水準に落ち込んだとのことです。農水省は、その要因の1つに自給率の高い米の消費減退を挙げています。国民1人がもうひと口(17g)の国産米を食べるだけで、自給率が1%上昇するといわれています。
熊本県には、県産米のブランド力や価値を高め、農家所得の向上につなげていくために設定された「熊本県推奨うまい米基準」があります。炊くと粒にツヤと粘りが出て食味のよい新品種「くまさんの輝き」もデビューしました。県産のおいしいお米を食べて、心身が元気に、農業県熊本も元気になっていけるよう、もうひと口ご飯を食べて健康に過ごしましょう。

ぱぱっと簡単レシピ

やき米チャーハン

<材料2人分>
焼き米 80100g
玉ねぎ 中1/2
ピーマン 1
赤・黄パプリカ 各1/4
ベーコン 1
サラダ油 大さじ1
塩・こしょう 少々

<作り方>
⑴野菜類、ベーコンをあらみじん切りにする。
⑵フライパンにサラダ油を入れ、⑴を炒める。玉ねぎがしんなりしてきたらやき米を加え、弱火でじっくり炒める。
⑶塩・こしょうで味をととのえる。

こめ・こめクッキー

<材料2人分>
焼き米 80100g
玉ねぎ 中1/2
ピーマン 1
赤・黄パプリカ 各1/4
ベーコン 1
サラダ油 大さじ1
塩・こしょう 少々

<作り方>
⑴野菜類、ベーコンをあらみじん切りにする。
⑵フライパンにサラダ油を入れ、⑴を炒める。玉ねぎがしんなりしてきたらやき米を加え、弱火でじっくり炒める。
⑶塩・こしょうで味をととのえる。

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持田 成子Shigeko Mochida

野菜ソムリエ上級プロ
女子栄養大学生涯学習講師

女子栄養大学在学中に「野菜のビタミン分析」に携わったことがきっかけで野菜ソムリエ資格を取得。「旬の野菜果物のチカラはココロとカラダを元気にする」をテーマに食育やセミナー、レシピ開発など食の周りで活動中。

野菜ソムリエとは

日本野菜ソムリエ協会が認定する資格。野菜・果物の知識を活かし自らの生活に活かす「野菜ソムリエ」、野菜・果物の専門家「野菜ソムリエプロ」、専門家の最上位資格「野菜ソムリエ上級プロ」と、3段階の資格がある。

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