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Vitamin Table 〜第29回 いちじくのおはなし〜

内側に小花がつき、花托(かたく)が蕾状に肥大して果実となる…外部から花が見えないため「無花果」という漢字があてられたという「いちじく」は、露地ものは灼熱の太陽が照りつける夏が旬…。今月は、上品な甘みとなめらかな果肉が特徴、古くから不老長寿のフルーツと呼ばれるほど豊富な栄養素をもつクワ科の「いちじく」について紐解きます。

原産地と伝来

原産地は西アジアからアラビア南部。日本へは中国を経て来た説、西洋・南洋を経て長崎へ渡来した説など諸説があるといわれています。別名、唐柿・南蛮柿・蓬莱柿と称されています。

実は熊本が最初の渡来地説!

1590年に帰国した天正遣欧少年使節団の引率者メスキータ神父さまの記録(手紙)によると「ポルトガルのリスボンからいちじくの苗を持ってきた」との記述があり、天草はいちじく発祥の地とも言われているのだそうです。そして今も天草地方では南蛮柿と呼ばれて夏のフルーツとして親しまれているのだと…。

そんな伝説を求めて﨑津の地へ…

お邪魔したのは世界遺産登録で沸き立つ﨑津天主堂にほど近い富津地区の南海屋さん。ここを営む宰川壽之さんマキエさんご夫妻は、富津地区振興会長されていた頃に﨑津名物「杉ようかん」を復活させた立役者です。
1790年に琉球王の使節団が11代将軍徳川家斉の祝賀のために薩摩を目指す途中に嵐に巻き込まれて﨑津に漂着し、救助されたお礼にと伝授されたのが「杉ようかん」の作り方。220年も作り続けられた地域の名物が後継者不足で途絶えてしまうのはいけないと、昔の味と食感を知る地元の方々に何度も何度も試食してもらいながら繰り返し作り続けました。
そしてついに天草ふるさとブランド「天草謹製」認定を受けられた、正真正銘の地域の味「杉ようかん」が完成。うるち米をせいろで蒸し、石臼と杵で丁寧について餅にし、薄くのばして餡を包んではまた蒸す。縁起が良いと引く紅色の筋にはどことなく琉球王朝の華やかさが偲ばれる逸品です。

地域の味、「杉ようかん」

『まず召し上がってみて…』とマキエさんに勧められるままに戴くと、のせられた柔らかな杉の葉の香りがあいまってなんともいえないしっとりした食感…。
お二人のお話は杉ようかん、メスキータ神父さまの南蛮柿、フェリエ神父さまがもたらした異人唐芋(じゃがいも)のこと、フェリエ神父さまが孤児院を建て、子どもたちをお腹いっぱいにするためにつくったじゃがいもで作っただんご(せんだご)のだご汁のこと等々宝箱のようでした。﨑津の神父さまとともに伝えられてきた歴史をたくさん伺い、これまた地域興しのために「いちじく発祥の地」を復活させようと10年前から取り組んでこられた「いちじく」のほ場へと案内いただくことに…。

手入れされた宰川さんのほ場(崎津)

天主堂と海を背に山あいに少し上ったところにほ場がありました。雨よけ一文字栽培の品種は「蓬莱柿」と「桝井ドーフィン」。
雨よけハウスで10アール、露地で4アールをおひとりで管理栽培されているというのですが、丁寧に手入れされ、草ひとつない!しかも台風の被害をさけるために葉を1本1本固定されていました。
『毎年、失敗と成功を繰り返しながらなかなかうまくいかないよね』とおっしゃりながら、5月に芽吹き、8月から10月にかけて収穫されるという果実は﨑津の海風を受けてすくすく育っていました。まるでメスキータ神父さまに見守られているかのように…。

発祥の地から、県内の主産地へ…

天草島を後にし、向かった先は、宇土半島の温暖な気候を活用した三角地区…。
JAうきは県内生産量の約9割を占める主産地です。こちらでは、平成元年に、みかんのオフシーズンの果実として3名の生産者さんが導入されてから30年。今では、三角地区に19名、不知火、松橋、豊野各地区に1名ずつ、計22名で「いちじく部会」を組織され、森川力部会長のもと、70t近い年間生産量をあげられています。
台風の被害などを避け、安定した収量を上げるため、全て施設栽培。季節に応じて「加温栽培」と「無加温(ボイラーなし)栽培」の一文字仕立てで「桝井ドーフィン」が栽培され、5月中旬から9月頃まで出荷が続き、250gパックで約30万パック程が年間で出荷されていくのだそうです。

JAうきいちじく部会前部会長上本将久さんのほ場にて

熟した果実は整腸作用に効果あり!

ペクチンなどの食物繊維が豊富で、腸内環境を整えてくれる自然な便秘薬。良く熟した実を1日に2~3個食べると腸の働きが活発になります。コラーゲンの生成を促進するビタミンC、貧血予防の鉄分、ほてりがちな体熱を下げたりむくみを防止するカリウムや、タンパク質を分解する酵素フィチンを含み消化が助けられます。また、赤い実の色素はカロテノイド、中でもβカロテンによるもので抗酸化作用が強く体のサビをとるのに役立ちます。このように実に多くの栄養素を含むのです。

いちじくは鮮度が命!

形が大きめで、皮が艶やかで鮮やかな赤色のもの。おしりが割れそうなものはよく熟しています。さらに触ったときに弾力と瑞々しさを感じつものは甘みがあり良品です。

美容と健康に最適な不老長寿のフルーツいちじくをたっぷり摂って、猛暑の夏を元気に乗り切りましょう!

 

さて先にご紹介した天草では、8月10日から9月30日まで「天草南蛮柿フェア」が開催されます。今年で10回目を数えるこのフェアはスイーツのみならず南蛮柿を使ったお料理などが様々な形で楽しめるそうですよ。
(お問い合わせは本渡商工会議所0969-23-2001まで)

参考文献:天草河内浦キリシタン史
取材協力:本渡商工会議所・JAうき

 

ぱぱっと簡単レシピ

いちじくと生ハムのサラダ

<材料2人分>

いちじく 2
生ハム 2
ベビーリーフ 1パック
オリーブオイル 適量

 

<作り方>

⑴いちじくは皮をむき、1/4にカットする。
⑵ベビーリーフはよく洗って水気をきり、ボウルに入れる。生ハムをちぎって加えいちじくも加えて果肉をつぶさないようにそっと和える。
⑶器に盛り付け、オリーブオイルを回しかける。

いちじくのコンポート 紅茶風味

<材料2人分>

いちじく 2
水 250cc
紅茶ティーバック 1
グラニュー糖 40g
レモン 1/8

 

<作り方>

⑴ボウルに熱湯を入れいちじくを10秒ほどつけてすぐに氷水にとり皮をむく。
⑵鍋に水と紅茶、グラニュー糖、レモンを入れて火にかけ、沸騰したらいちじくを入れて弱火で10分煮る。粗熱がとれたら、冷蔵庫でよく冷やす。

いちじくジャム

<材料>

いちじく 4
水 50cc
グラニュー糖 いちじくの総量の半量*
レモン 1/2

*グラニュー糖はいちじくの総量の半量以上は入れます。糖度が上がると保存性は高くなります。

 

<作り方>

⑴いちじくは皮をむいて一口大にカットして鍋に入れ、グラニュー糖を加え、レモンのスライスをいれて1時間程度置く。
⑵⑴の鍋を弱火にかけ、アクを取りながら2030分コトコト煮る。

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持田 成子Shigeko Mochida

野菜ソムリエ上級プロ
女子栄養大学生涯学習講師

女子栄養大学在学中に「野菜のビタミン分析」に携わったことがきっかけで野菜ソムリエ資格を取得。「旬の野菜果物のチカラはココロとカラダを元気にする」をテーマに食育やセミナー、レシピ開発など食の周りで活動中。

野菜ソムリエとは

日本野菜ソムリエ協会が認定する資格。野菜・果物の知識を活かし自らの生活に活かす「野菜ソムリエ」、野菜・果物の専門家「野菜ソムリエプロ」、専門家の最上位資格「野菜ソムリエ上級プロ」と、3段階の資格がある。

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