訪ねたのは、雄大な外輪山を望み、阿蘇五岳のひとつ、ギザギザ頭の根子岳の裾野に広がる高森町の上色見地区…。あたりを一望できる「月廻り公園」からほどなく走ったところにその畑はありました。種イモを選びながら、地域で代々育てられてきた鶴の子いも農家の村上公夫さん。阿蘇の火山灰土壌ののやせた土地にしかできない、上色見地区の中でも、ある一定のあたりにしかうまく育たない作物だとおっしゃいます。お邪魔した時期の畑は青々した葉が心地よい秋風に揺れていましたが、他の品種よりも小さめ、いもも細めで小ぶり。親いもにつながっている”首“の部分がほっそりして鶴の首のようだから「鶴の子」の名前の由来なんだそう…。
Vitamin Table 〜第32回 さといものおはなし〜
秋が深まり山々が紅葉で彩られるこの頃…日中は暖かくても夜は気温がぐんと下がり始め根菜類が美味しくなる時期を迎えます。
今月は、日本への伝来は稲よりも古いといわれる「さといも」について紐解きます。
原産地と日本へは?
インド東部からインドシナ半島にかけての熱帯地方で「タロイモ」の仲間。原始マレー族の移動とともに、太平洋一帯に広まったといわれています。日本へは中国を経て縄文時代に伝わったといわれており、稲作が始まる以前の主食であったとも考えられています。
さといもの名前の由来は?
山でとれる山いも(自然薯)に対して、村(里)で栽培されることに由来しています。
さといもに種子があるの?品種は?
サトイモ科サトイモ属の多年草で、種子ではなく「いも」で増えます。いもは茎が肥大したもの。株の中心に大きな親いもがあり、そこから子いもが分球して増えていきます。孫いもは、子いもからさらに分球したいものこと。品種は、食べる部位によって分類され、①子いもと孫いもを食べる子いも用品種と、②親いもと子いもを食べる親・子いも兼用品種、③親いもを食べる親いも用品種に分類されます。このほかに「ズイキ」と呼ばれる葉柄(ようへい)を食べる葉柄専用品種もあります。
①子いも用品種…土(ど)垂(だれ)、石川早生
②親・子いも兼用品種…唐いも、セレベス、八つ頭
③親いも用品種…たけのこいも、京いも
④葉柄専用品種…はすいも
産地は…
北海道を除く全国で生産されており初夏の南九州の早掘りさといもから秋まで全国各地で収穫リレーされています。主な産地は宮崎県や鹿児島県、千葉県等です。
県内では、阿蘇火山由来の黒ぼく土を生かして西原村、山都町、阿蘇地方で栽培が盛んです。
前述の北海道以外、全国各地で栽培可能とはいうものの、さといもにも他の品目同様にその土地に根付いた、その土地でしか育たない在来種もあります。
熊本の在来種、「鶴の子いも」に会いに…
2ヶ所合わせて約30aで栽培されている村上さん、以前はご両親の農作業を手伝いながら他の仕事に就かれていたそうですが、地域の宝をしっかり守り、次の世代に継承して行かねばならないとの熱い思いで鶴の子いも栽培に専念されるようになったとのこと。火山灰土壌でやせた土地にしか育たないとはいえ、土づくりはとても大切。『種いもを植え付けたら草取りを入念にし、土かけ、土寄せを丁寧にしながら育てないと、本物の鶴の子いもは、育たんとたい』と。霜が2~3回ふった頃、10月半ばから12月頃まで収穫が続き、収穫したら2~3週間土に埋けておき、長い根を丁寧にとって出荷されるのだそうです。この根が長いののも在来種の特徴だとか…。
精魂込めて栽培されている様子がそのひとことひとから伝わってきました。さらには、デリケートなさといもは連作障害が出るため、収穫後は期間を空けてしっかり休ませながら、畑をローテーションして植えつけなければならないし、他の品種とすぐに交配してしまうので、約30年前から「鶴の子いも」一筋なのだそうです。
火山灰土壌で米や麦の栽培が困難であったこの地域では「鶴の子いも」を主食として生活していた時代があったともいわれています。
地域の宝の鶴の子いもをつくり、濃厚でねっとりした鶴の子いもを味わってほしい!と、強調される姿に信念を感じたひとときでした。
さといもの栄養
独特のぬめり成分には免疫力を高めることが期待されています。水溶性の食物繊維を含むので胃腸や便秘の不調にも。カリウムはむくみや高血圧の改善に。ビタミンB群、ビタミンCも豊富で栄養価が高いわりには低カロリーなのでダイエットにもおススメです。
豊作と子孫繁栄の願いが込められたさといも、しっかり食べて本格的な冬の寒さを前に免疫力アップに役立ててみませんか。
ぱぱっと簡単レシピ
さといもコロッケ
<材料:約10個分>
さといも(鶴の子いも) 8個400g
生クリーム 大さじ2
塩・こしょう 少々
鶏ひき肉 100g
玉ねぎ 50g
サラダ油
塩・こしょう 少々
フライ衣
(溶き卵・薄力粉・パン粉)・揚げ油 適量
<作り方>
⑴さといもは皮をむいて半分に切り、水でよく洗って鍋に入れかぶるくらいの水を入れて約15分茹でる。
⑵鍋の湯を捨て、マッシャーなどでつぶして生クリームをまぜ、塩こしょうで味をととのえ冷ます。
⑶フライパンに玉ねぎのみじん切りと鶏ひき肉を入れて炒め、塩こしょうで味をととのえて冷ます。
⑷⑵に⑶を加えて混ぜ、10等分にして丸める。
⑸⑷にフライ衣をつけて170~180度の揚げ油で揚げる。
ベークドさといも
<材料2人分>
さといも(鶴の子いも) 200g
ベーコン 2枚(1cm幅に切る)
モッツァレラチーズ 50g
<作り方>
⑴さといもはよく洗って水けをきり横半分に切る。耐熱皿に切り口を下にして並べ、ラップをかけ600Wの電子レンジで約3分加熱する。冷めたら皮をむく。
⑵オーブンの天板にクッキングシートを敷いて1を並べ、ベーコンをのせモッツレラチーズをのせて、180度に予熱しておいたオーブンでチーズが溶けるまで3~4分焼く。
- Vitamin Table
Vitamin Table
女子栄養大学在学中に「野菜のビタミン分析」に携わったことがきっかけで野菜ソムリエ資格を取得。「旬の野菜果物のチカラはココロとカラダを元気にする」をテーマに食育やセミナー、レシピ開発など食の周りで活動中。
野菜ソムリエとは
日本野菜ソムリエ協会が認定する資格。野菜・果物の知識を活かし自らの生活に活かす「野菜ソムリエ」、野菜・果物の専門家「野菜ソムリエプロ」、専門家の最上位資格「野菜ソムリエ上級プロ」と、3段階の資格がある。