【Tue】

Vitamin Table 〜第34回 大根のおはなし〜

新年あけましておめでとうございます。年末年始、ごちそう続きで胃の疲れを感じていらっしゃいませんか。
春の七草のなかに「清白=すずしろ」として登場している「大根」…。食物の消化を助ける働きがある「すずしろ=大根」がはいった七草粥を松の内が明ける七日に食べることはごちそう続きで疲れた胃をととのえる、という理にかなった習わしといえます。今月はそんな優れものの冬野菜「大根」について紐解きます。

原産地は日本?

原産地ははっきりしませんが、古代エジプトでは紀元前から栽培され、ピラミッド建設の労働報酬になっていたとの記録もあります。諸説あり、大根の学名「ラファヌス」は地中海地方で使われた言葉で、地中海地方から古代シルクロードを経由して2400年前に東アジアに到達し、1250年以前に日本に伝播していたという一説があります。日本最古の書物古事記には「すずしろ」と記され、野「大根」と呼ぶようになったのは室町時代からといわれています。

日本各地で…

このようにして伝わってきた大根、日本全国に様々な大根が残っています。それは長い時間をかけ各地の栽培農家の知恵と技に育まれて、暮らしに密着しながら保存され、豊かな食文化の礎になってきたと…。現在1千余りの品種が日本に保存されているといわれています。

熊本では…

ここ熊本にも五木村を中心とした九州の脊梁、山間地域の集落に在来の「糸巻き大根(注1)」系など多くの品種と系統が農家の自家採種で受け継がれ栽培されているといわれていますが、現在県内で栽培される品種の主流は青首系大根です。夏場は冷涼な気候をいかした中山間地域の山都町、阿蘇小国郷等で高冷地栽培が行われ、秋冬は、県内全域で盛んに栽培が行われています。

(注1)糸巻き大根…宮崎県の西米良村で古くから栽培されている伝統野菜。色は赤紫と白の2種類あり、いずれも糸を巻き付けたような筋が入っていて外見が美しい。

熊本の在来種…五木の赤大根に会いに…

五木村や五家荘(注2)など九州山地の集落で脈々とつくり続けられている在来野菜の「赤大根」。
寒さに強く、冬場の貴重な野菜として各家庭で自家採種して栽培してきたために多くの系統があるといわれます。多くの系統の中で戦後導入されたことははっきりした系統を除いて「赤大根」として「くまもとふるさと伝統野菜」に認定されています。その多様な赤大根に会いたくて五木村を訪ねました。

犬童さんが栽培されているいろいろな赤大根
犬童照男さん

在来種を代々受け継ぎ栽培されている犬童照男さんにまずお会いし、お話を伺うことができました。
標高1000メートルを超える、村で一番標高が高い子別峠地区に住む犬童さん。昭和22年にご両親が開拓団としてこの地に入墾されて以来、代々栽培している「赤大根」。犬童さんご自身も「もう60年くらい栽培している」そうです。
同じ村の中でも白岩戸地区や出羽地区では短くて丸いダイコンになる、農協(現JA)に勤めていた頃、短くて丸い赤大根がなんとか白大根のように太く長くならないものかと、毎年毎年自家採種をしては、白大根と交配させてはチャレンジしてきたと話してくださいました。でも何年繰り返しても、長くはならなかったと…。犬童さんが栽培する在来種の赤大根の特徴は、葉の付け根のところが糸巻きのようにぐるぐるになっているとこえろ。栽培のこだわりは、果肉に放射状に美しい線が入り、全体的に赤い赤大根をつくりたいと!60年重ねてこられても今なお、この土地でしか栽培できない伝統野菜「赤大根」の種を守り、さらに質の良いものにするために、深い愛と使命感をもって挑まれているお姿に頭が下がりました。

犬童照男さん栽培の在来種
赤大根を見せてくれる山尾良江さん

次に白岩戸地区で赤大根を栽培されている山尾正嗣さん良江さんご夫妻を訪ねました。 良江さんが嫁いできて50年以上自家採種しながら栽培する地キュウリ、野菜栽培と養蜂中心の農家さんです。「赤大根」は、現在では毎年種を購入して植えられているそうです。数種の赤大根が育つ畑には白大根も植えられていましたが、交配しやすく、色が混じりやすい…、だから離して植えるのだと…。アブラナ科の野菜の特徴だと感じました。
在来種は果肉が固めだけど、今の品種はどれも柔らかく、味がなじみやすいのよ、と、2種の大根をまぜてつくられたピンク色のなますや自家製の漬物、お饅頭で「五木のおもてなし」を受けながら、自然を大切にした日々の暮らしの知恵をたくさん伺いました。

(注2)五家荘の在来種は「平家の赤大根」といわれている。

大根の栄養は・・・

根の部分は淡色野菜でデンプンの消化酵素であるジアスターゼを豊富に含み消化を促したり、辛み成分は、胃液の分泌を促すほか血栓予防、デトックス作用が期待できます。また、赤大根には、白大根にはない色素成分「アントシアニン」が含まれていることから、白大根より栄養価が高いといえます。白大根にも抗酸化力が期待できますが、赤大根はその3倍もの抗酸化力が!。
葉の部分は緑黄色野菜。βカロテン、ビタミンB群、ビタミンC、カルシウムなど、根の何倍もの栄養素を含んでいるのです。風邪の予防や骨の強化に役立つので、葉つきの大根を入手したら、残さず食べるようにしたいものです。
先人が培ってきた生活の知恵がたくさん詰まった優れものの野菜、「大根」。1年で一番寒い季節にはいりますが、葉から根まで大根の栄養をまるごといただき、元気にお過ごしください。
(寺島 悠さん 一部写真提供)

ぱぱっと簡単レシピ

赤大根と生ハムの甘酢マリネ

<材料4人分>
赤大根(薄くスライス)  12
生ハム(ロースハム)  6
合わせ酢
(酢 大さじ1・くねぶ(ゆず等)果汁 大さじ1
砂糖 大さじ1
飾り用のくねぶ(ゆず等) 適宜
※くねぶは五木村に育つ在来の香酸柑橘

<作り方>
⑴赤大根に塩少々(分量外)して5分ほどおく。
⑵⑴がしんなりしたら軽く洗って水けをふき合わせ酢にくねぶを飾る。
つける。
⑶生ハムを内側におき⑵の赤大根で半月に巻く。皿に並べ、残りの合わせ酢を回しかけ、くねぶを飾る。

赤大根のピクルス

<材料>
赤大根(大根) 約500
ピクルス液
酢 1/2カップ
砂糖 大さじ1
塩 小さじ1
水 1/4カップ
ロリエ 1
赤唐辛子(種のぞく) 1
黒粒こしょう 小さじ1/2

<作り方>
⑴大根は6ツ割にしてから乱切りにし、ファスナー式袋に入れる。
⑵ピクルス液の材料を混ぜて⑴に加え、赤唐辛子、ロリエ、黒粒こしょうも入れて袋の上からもみこむ。袋の口を閉じて、2~3時間漬ける。

いろいろ大根と根菜の蒸し煮

<材料4~5人分>
赤大根 1
紫大根 200
紅芯大根 1/2
大根 200
さつまいも 1
さといも 3
水 1カップ
塩 小さじ1
ゆず味噌やゴマダレなど 好みで適宜

<作り方>
⑴大根類、さといもは皮をむいて食べやすい大きさに切る。さつまいもは1㎝厚さに切る。
⑵厚手の鍋に⑴を入れて、水と塩を入れて紙ぶたをする。ふたをして中火にかけ、ふつふつ沸いてきたら弱火にして約30分蒸し煮にする。好みでゆず味噌などをつけていただく。

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持田 成子Shigeko Mochida

野菜ソムリエ上級プロ
女子栄養大学生涯学習講師

女子栄養大学在学中に「野菜のビタミン分析」に携わったことがきっかけで野菜ソムリエ資格を取得。「旬の野菜果物のチカラはココロとカラダを元気にする」をテーマに食育やセミナー、レシピ開発など食の周りで活動中。

野菜ソムリエとは

日本野菜ソムリエ協会が認定する資格。野菜・果物の知識を活かし自らの生活に活かす「野菜ソムリエ」、野菜・果物の専門家「野菜ソムリエプロ」、専門家の最上位資格「野菜ソムリエ上級プロ」と、3段階の資格がある。

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