【Fri】

Vitamin Table 〜第44回 おぐに黒大豆のおはなし〜

旧暦の「霜月」という言葉が表すように、霜が降り晩秋の佇まいに…。朝夕は冬の気配を感じるようになりました。
今月は、阿蘇小国の地に伝わる在来種、「おぐに大豆」のことを紐解きます。

おぐに黒大豆って?

もうすぐ大分県にさしかかる県境に近い、阿蘇郡小国町西里地区中尾集落。おぐに黒大豆は、ここで、代々伝承されてきた黒く、小さな在来の大豆です。

たったひとりという生産者さまを訪ねて、一路小国町へ!

ススキが秋風に吹かれて美しい風景の中ミルクロードを経て、小国町中心部を抜けて走ること2時間弱。標高700mの地にはまもなく収穫を迎える黄金の稲穂が実り、住居が点々と存在していました。
学びやの里の江藤事務局長にご案内いただいたお宅の前には「阿蘇世界農業遺産」の「伝えたい阿蘇の農業遺産資源」の大きな石碑がありました。生産者財津ミズ子さんは、温かい笑顔で出迎えてくださいました。
まず見せていただいた「おぐに黒大豆」は、お正月の黒豆でおなじみの、黒大豆のまんまるふくよか…とは全く違って、少し扁平の小粒。真っ先に思い浮かんだのは、同じ阿蘇郡の高森町に伝わる在来の「みさを大豆」のことでした。「似てる!」と発した私に、「どこの家でも作っている大豆があっとっじゃきね」と…。

財津ミズ子さん
黒大豆の畑

嫁いできた頃にはどこの家にもこの黒大豆の畑があり、栽培されていた。黒大豆の栽培は女性の仕事。子育て期は家のことも子どものこともあるからずっとお姑さんの仕事だった…。
代々受け継いできた種を、ミズ子さんが受け継いだのは、「そうねえ、でももう30年ばっかりになっどかね」「ご先祖さんから受け継いだ大切な大豆を、毎年毎年つくっていたら、もう30年になっとった!」と。

「伝えたい阿蘇の農業遺産資源」の看板

自家栽培の黒大豆の一年

梅雨明けのころ

興しておいた畑に畝を立て種を播く。ひとつの穴に3粒づつ。

9月頃

ほったらかしていても育ってくれいるそう。綺麗な紫色の花が咲く前に、80cmくらいになったところで、先の方を10cmくらいざーっと刈り取っていく。
花芽をつけ始めても次々に葉をつけ、茎を伸ばし、花芽がついて「やりばなしのびてかずらのようになっていくから、ビーバーでざーっと刈り取る。そうしたら茎が絡んだりせんし、実がいっぱいなるようになったとよ」と、にこにこ話される姿に、空気が澄んだ山里で、天に向かってどんどんのびていく「ジャックと豆の木」を想像してしまいました。

11月頃

収穫の時期。鞘が枯れたら、根っこごと引き抜いて、根元を藁で縛って逆さにして房掛け、天日干しに。充分に乾燥したら、ブルーシートに広げて、棒でたたいて黒大豆を取り出す。

収穫したもの

さらに天日干しして十分に乾燥させ、味噌などの保存食に、冬場のもやしや煮豆など食べるように、そして来年の種まき用にと選別していく。

自家用味噌に…

黒大豆を隣の集落の「岳の湯」の温泉で蒸して、時価栽培の椎茸でだしをとって加えて、家族の一年分味噌を搗くそうです。その量は1斗5升にもなるのだとか。
「うちのこの味噌じゃないとお味噌汁食べた気がしないんですよ」と娘さん。「じゃけん、ちょっとずつきつくなってきたけど、家族のために作り続けている」と、家族の食を守る大事な役割が、そのお元気の秘訣と感じた一コマでした。

もやしづくり

黒大豆をプラスチック性のザルに入れ→中尾熱田神宮の湧き水(28℃くらい)に浸け→日が当たらないように稲わらをかぶせて覆いをし→1週間後20cm以上のもやしに!もやしは生鮮野菜が手に入らない冬に小国では貴重な食べ物だったそうです。
畑で説明していただき、自家野菜満載の手料理をご馳走していただきながらお話伺ってお心こもったおもてなしをいただいたあとに、もやしづくりの場所にご案内戴きました。

中尾熱田神宮

「わいた温泉郷」のひとつ、「岳の湯」にほど近い中尾集落にあり、杉木立の中にひっそりと佇む神社です。熱田大神を主祭神として祀る小国郷内でも屈指の神社で、その境内の下に鳥居に上がる階段をはさんで左右に池があり、清らかな水が湧きだしています。その温度は年間25℃から28℃くらいといわれ、農産物に恵みをもたらす「神の水」として地元住民に守り継がれてきた大切なところ。向かって右側の池の奥に、ザルを並べてもやしをつくるとよ…と説明してくださいました。
この黒大豆のお陰で、いろんな人がうちに来てくれる…と取り出してくださったアルバムには、なんとくまモンも!

おぐに黒大豆の特性

花芽が分化した後も生育が続く「無限伸育性」という特徴があります。耐寒性や病害虫耐性、機能性成分の含有に優れている可能性もあると言われているます。

 

 

温かく笑顔あふれるミズ子さんに守り継がれる「おぐに黒大豆」。
日本に存在する草原の約半分を有する阿蘇。人々が脈々と営む農業によって守られているこの地で、ミズ子さんのような農業人がいらっしゃるからこその草原と阿蘇の農業だと強く感じました。また、代々守り継がれてきた大切な種がこの土地の宝として次世代に守り継がれていくことを願ってやまない帰路となりました。
(取材協力:学びやの里 一部写真提供 財津ミズ子さん)

ぱぱっと簡単レシピ

黒豆

<材料>
黒豆(乾燥) 2カップ
ぬるま湯(50~60℃) 6カップ
砂糖 250g
しょうゆ 大さじ1
塩 小さじ2

<作り方>
⑴黒豆は洗って水けをきる。
⑵大きめの鍋にぬるま湯、砂糖、しょうゆ、塩を入れて1の黒豆を加えて5~6時間おいた後、そのまま火にかける。途中でアクをとる。沸騰したら弱火にして、落とし蓋をして6~7時間ゆっくり煮る。途中で黒豆がつかる程度に水を足しながら(さし水)煮含める。
⑶柔らかく煮えたら火を止めて落し蓋をしたまま一昼夜おいて味を含ませる。

黒豆パウンドケーキ

<材料:18×7.5×5.5パウンド型1台分>
バター(無塩) 100g
砂糖 70g
卵 2個
薄力粉 95g
ベーキングパウダー 5g
抹茶 5g
黒豆(煮) 80g
黒豆(煮)飾り用 40g

<作り方>
⑴ボウルに室温に戻しておいたバターを入れて、ハンドミキサーで混ぜ、砂糖を少しずつ加えて混ぜる。
⑵ときほぐした卵を数回に分けて加えなから、白っぽくなるまでよく混ぜる。
⑶薄力粉のうち、少量を黒豆にまぶしておく。
薄力粉とベーキングパウダーと抹茶を合わせてふるって、その半量を⑵に加えてきるように混ぜる。黒豆を加えて混ぜ、残りの粉類を加えてきるように混ぜる。
⑷170度に予熱しておいたオーブンで25分焼き一度取り出して飾り用の黒豆をのせ、再びオーブンに入れて10分焼く。(使用するオーブンによって時間は調節してください)

大豆(黒大豆)とツナのサラダ

<材料2人分>
大豆(水煮)または黒豆(煮) 50g
ひじき 3g
ツナ缶 30g
にんじん 30g
きゅうり 50g
うすくちしょうゆ 小さじ1
マヨネーズ 大さじ1.5

<作り方>
⑴ツナは油をきっておく。ひじきは水でもどす。
⑵にんじんは短ざくぎりにしてさっとゆでる。きゅうりは輪切りにして軽く塩もみして絞っておく。
⑶大豆は一度湯通しする。
⑷ボウルに⑴⑵⑶を入れて、うすくちしょうゆ、マヨネーズで和える。

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持田 成子Shigeko Mochida

野菜ソムリエ上級プロ
女子栄養大学生涯学習講師

女子栄養大学在学中に「野菜のビタミン分析」に携わったことがきっかけで野菜ソムリエ資格を取得。「旬の野菜果物のチカラはココロとカラダを元気にする」をテーマに食育やセミナー、レシピ開発など食の周りで活動中。

野菜ソムリエとは

日本野菜ソムリエ協会が認定する資格。野菜・果物の知識を活かし自らの生活に活かす「野菜ソムリエ」、野菜・果物の専門家「野菜ソムリエプロ」、専門家の最上位資格「野菜ソムリエ上級プロ」と、3段階の資格がある。

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