施設栽培の場合、被覆資材によって降雨が遮断されるため、地下水が高い場合を除き、かん水による水の補給がなければ、生育不良につながり収量減少の一因となります。一方露地栽培の場合は、雨水の利用が中心になりますが、図1のように雨量が少なく生育に十分ではない年もあります。このため、野菜を栽培するうえで、かん水は必要不可欠です。
夏秋トマト、ピーマンのかん水方法について
1 はじめに
上益城地域では、中山間地域に位置する山都町を中心にトマトやピーマン、キュウリ、キャベツなどの夏秋野菜が施設栽培や露地栽培で盛んに生産されています。今回は、夏秋野菜における様々な生産安定技術の中で、準高冷地における果菜類(トマト、ピーマン)のかん水方法について、管内で実施した試験結果を交えながら紹介します。
2 かん水の必要性
3 かん水のタイミング
一般的に日の出から1~2時間で光合成が活発になるため、夏場にかん水する場合は、なるべく早朝に行います。日中にかん水を行うと、土が熱いため与えた水も熱くなりやすく根傷みの原因になります。また夕方からのかん水は、夜間の過湿の原因となり病気の発生を誘発する場合もあるため、土壌が乾燥しすぎていない限り避けましょう。
4 かん水チューブの選定
夏秋トマトや夏秋ピーマンなど、マルチ資材を被覆して栽培する場合には、株元かん水やマルチ下に設置したかん水チューブによるかん水を行います。かん水チューブには散水または点滴チューブがあり、どちらも吐出孔(穴)の間隔が様々で、穴の数・大きさによって与える水の量を変えることができます。散水チューブの場合、一定時間のかん水量が多く、広い範囲に水を与えることができます。点滴チューブの場合、一定時間のかん水量が少なく、作物の根の近くに水を届けることができるため、確保できる水の量が限定されるほ場などにおいても、少量の水を効率よく利用することができます。かん水チューブを選定する際は、ほ場の排水性や用水の確保状況に応じて行いましょう。
5 かん水作業の省力化
手動のかん水作業は、ほ場面積が大きくなるにつれて作業時間が多くなり、労働生産性が悪くなる傾向にあります。そのような中、生産現場では、作業の省力化のために、「タイマー式」や「日射比例式」などの自動かん水装置の導入が徐々に増えてきています(図2)。また、自動かん水装置を利用することで、かん水作業時間の短縮だけでなく、作物が必要とするタイミングでかん水を行うことができるようになり、品質や収量向上の効果が得られます。「タイマー式」は、手動バルブをタイマーで制御する電磁弁に置き換えることで、散水時刻や散水の間隔などを細かく設定できます。「日射比例式」は、日射センサーで計測することで日射量に応じてかん水量をコントロールできます。
6 日射比例式自動かん水装置導入による調査事例
管内では、平成28年度~令和2年度にかけて日射比例式自動かん水装置導入による生育や収量に与える影響を調査しました。
(1)夏秋トマトの場合
日射比例式自動かん水装置を利用し、かん水量を慣行より40%増やした設定(かん水量:増量区:3.5L/日・株、慣行区2.5L/日・株)での生育や収量への影響を調査しました(令和2年度)。
日射比例式自動かん水装置を利用することで、かん水回数やかん水量は、盛夏期(8月)に多く、梅雨期や秋季では少なくなり、日射量に応じた細やかなかん水管理が可能となりました(図3)。その結果、かん水量増量区では、茎径が太く草勢が維持され、増収やA品率および可販果率の向上等の効果が認められました(図4、5)。
(2)夏秋ピーマンの場合
ポンプの稼働等に必要な電気を太陽光発電で確保し、貯水タンク等から供給されるかん水量を日射量に応じて制御する日射比例式自動かん水装置の利用による収量への影響を調査しました(H30年度)。
日射比例式自動かん水装置を用いると作物が必要とする水の量に応じた細やかなかん水管理が可能になり、手動かん水よりも収量が向上する結果となりました(図6)。また電力は、ソーラーパネルとバッテリーにより問題なく供給されました。
7 最後に
かん水機器(配管やポンプ、チューブなど)を導入する際は、「1分当たりのかん水量(L/分)の最大値」または「1日あたりのかん水量(L/日)の最大値」を確認し、必要な能力を満たすかん水機器を選定しましょう。
夏場に農作業をする際は、人も水分補給を怠らないように注意しましょう。
県央広域本部 上益城地域振興局 農業普及・振興課
夏秋トマト、ピーマンのかん水方法について(PDFファイル)
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