はじめに
いちごの高収量を確保するためには、健全な苗の育成が重要です。そのため6月の採苗から9月下旬の定植まで長期間にわたって良好な生育を維持する必要があります。しかし、近年は最高気温が35℃を超えるような猛暑日が続き、鉢受け時にはランナー焼けによる苗不足が発生したり、切り離し以降は過乾燥やかん水過多により根傷みが発生する等、高温によりいちごの健苗育成を妨げられる事例が発生しています(図1)。そこで、今回はいちごの育苗期における高温対策のポイントをご紹介します。
図1 イチゴの育苗管理と最高気温の推移高温対策のポイント
(1)苗の状態に合わせたかん水
ポット内の乾燥や過湿は苗の生育停滞につながるため、いちご一株が必要とする水の量に合わせてかん水する事が重要です。苗の生育が進むにつれて葉が繁茂し吸水量が増加します。さらに、高温時は培土からも水分が蒸発するため、茎葉のしおれや培土の乾燥程度を確認し、天候や気温に応じてかん水量や回数を調整しましょう。おおむね、夕方に培土表面が乾く程度が目安です。
(2)換気
気温上昇を抑制し高温多湿にならないよう、軒高の高い育苗施設を活用しましょう(図2)。さらに、開口部をできるだけ広くして、換気を行いましょう。軒高の低いハウスを活用する場合は、雨よけビニルを肩まで開けると、風通しが良くなり環境が改善します(図3)。ただし、降雨の際は、雨よけビニルを下ろし、苗に雨粒が直接当たらないよう注意しましょう。また、施設周辺の排水対策も行い、湿度がこもらないようにして、通風を確保します。
図2「軒高の高いハウス」の例
図3「軒高の低いハウス」の例(3)古ビニル(雨よけ)+遮光資材の活用
古ビニルは2割程度の遮光となるため、高温対策として有効です(図4)。さらに切り離し直後や最高気温が35℃を超える猛暑日には、緊急的に遮光資材を活用すると効果的です。病害対策の観点から、必ず雨よけビニルに重ねて展張します。その際、資材の遮光率は30%以下とし、雨よけビニルと合せて40%を超えない程度を目安とします。また、遮光に頼り過ぎると苗が徒長しやすくなるため、曇天日が続く場合は遮光資材を除去し、いちごに光を当てるようにしたり、かん水量の調整が必要です。
図4「古ビニル被覆による雨よけ育苗」(4)フルオープンハウスの検討
長期間遮光資材を活用すると、苗が徒長しやすくなります。フルオープンハウスを活用することで、光をいちごに当てながらハウス内気温の上昇を抑えることができ、いちご産地の一部で活用が進んでいます(図5)。
図5「フルオープンハウスによる育苗」最後に
昨年は育苗期の高温化により、炭疽病やハダニ等の病害虫の発生も多く見られました。高温対策に合せて病害虫対策を見直し、本ほでの栽培に持ち込まないよう取り組みましょう。
また、いちごの花芽分化が高温の影響で遅れる傾向があります。年内収量を確保するためには、花芽分化を必ず確認し定植を行いましょう。
なお、玉名地域では、管内JAと生産者、農業普及・振興課で温暖化対応プロジェクトチームを設置し、高温対策資料の作成および技術支援を行っています。今後は高温対策として遮光資材の種類や展張時期による効果検証を行い、さらなる技術支援に取り組んでいきます。
県北広域本部 玉名地域振興局 農業普及・振興課
いちごの育苗期の高温対策 (PDFファイル)