はじめに
いちごを、安定的に生産するためには、健全苗の育成が非常に重要です。
近年は特に、育苗期後半から定植直後にかけて炭疽病や萎黄病などの病害が多発生し、定植苗の不足や本ぽ定植後の植え替えが必要になるほ場が散見されます。また、定植時に本ぽに持ち込まれたハダニが春に増加し、被害をもたらしています。
そこで、今回は育苗期の病害虫対策のポイントについてご紹介します。
育苗期の主な病害虫について
(1)炭疽病
炭疽病の病徴は、株が萎凋・枯死する全身症状や、新葉の葉枯症状を呈するものがあります。
どちらもランナーや葉柄にややくぼんだ紡錘形の病斑を形成し、多発時には病斑上に鮭肉色の胞子塊を形成します(図1、2)。
萎凋症状を呈した株は、クラウン部を切断すると、クラウンの外側から褐色に変色しています(図3)。
土壌中の残さから伝染することもありますが、主な伝染方法は水媒伝染で、胞子が雨や強いかん水にともなう水の飛びはねにより飛散し、感染株から隣接する健全株へ次々と伝染します。また、感染してもすぐには発病しない(病斑をつくらない)場合があるので注意が必要です。
<対策>
◯伝染を防ぐため、高設ベンチで雨よけ栽培を行います(寒冷紗の展張は雨よけになりません)(図4、図5)。
◯明きょを整備するなど、育苗ほ及び周辺の排水対策を行います。
◯専用親株から無病の親株を確保します。
◯発病株は早期にほ場外に持ち出し、適切に処分を行います。
◯ランナー発生前から予防的に薬剤防除を行います。特に降雨後や摘葉、ランナー切除後は感染しやすいので、必ず防除を行います。
(2)萎黄病
萎黄病の病徴は、新葉の小葉3枚のうち1枚~2枚が黄緑色になって小葉が小さくなり、舟形にねじれた奇形葉となります(図6)。
また、発病株のクラウン部を切断すると、炭疽病とは異なり維管束(導管部)が褐色から黒褐色に変色しています(図7)。
伝染方法は、①土中に残った厚膜胞子が伝染源となる土壌伝染と②栄養繁殖による苗伝染です。
育苗期においては、雨や強いかん水にともなう水の飛びはねにより、土壌が飛散し伝染します。また、ランナーを介しても親株から苗へ伝染するので注意が必要です。
厚膜胞子は耐久力が強く、自然土壌中で4~5年生存できます。
<対策>
◯専用親株から無病の親株を確保します。
◯伝染を防ぐため、高設ベンチで雨よけ栽培を行います(寒冷紗の展張は雨よけになりません)。
◯前作で萎黄病が発生したほ場では、残さを除去したうえで、育苗期間中に薬剤による土壌消毒を行います。なお、十分な消毒期間を確保するため、梅雨明け前からの準備が必要です。また、夏期高温時のハウス密閉による太陽熱消毒も有効です。特に前作で萎黄病が発生した場合は、親株および育苗ポットは新品を使用します。
(3)ハダニ類
ハダニ類(ナミハダニ、カンザワハダニ)の被害を受けた葉は、白いかすり状の小白斑が生じます。
気温25℃では約10日で世代を繰り返し、短期間で急増しますが、隣接株への移動は比較的遅いため、スポット状の発生となります(図8)。
本ぽで多発すると、葉はハダニの吐く糸で覆われ、ひどい時には株の矮化(わいか)や枯死を引き起こします(図9)。
<対策>
◯育苗ほ周辺の雑草はハダニ類の発生源となるため、除草を徹底します。また、除去した下葉は、ほ場周辺に放置せず、ほ場外に持ち出して適切に処分します。
◯発生が認められた場合は、薬剤抵抗性の発達を防ぐため、気門封鎖剤を積極的に活用します。ただし、気門封鎖剤は、卵への効果が低く、残効も短いので、約7日間隔で複数回散布します。
◯薬剤防除は、同一系統の薬剤を連用すると、薬剤感受性が低下するので、系統の異なった薬剤を組み合わせて、ローテーション散布を実施します。
◯本ぽでの発生は、ハダニ類が寄生した苗からの持ち込みによって起こるので、定植前に苗の防除を徹底します。
最後に
球磨地域では、①育苗ハウスの天井ビニル被覆と、②防除暦に基づくローテーション防除に重点的に取り組んでいます。
病害虫の被害を抑えるためには、予防対策と発生初期の早期防除が効果的です。
そのため、日頃から苗の状態をよく確認し、作業が遅れない様に心がけ、健全苗を育成しましょう。
※図1、8、9は、熊本県病害虫・雑草防除指針<令和6年度(2024年度)版>より引用
県南広域本部 球磨地域振興局 農業普及・振興課
いちご育苗期の病害虫対策 (PDFファイル)