はじめに
トルコギキョウは花の色や形のバリエーションが多く、長く観賞できることから冠婚葬祭から家庭使いまで、様々な場面で使用される切り花となっています。熊本県はトルコギキョウの生産量が全国2位となっており、県内多くの地域で栽培されています。
トルコギキョウの生産において、「育苗」は品質や収量を大きく左右する管理過程になります。今回は県で確立された育苗技術(RTF苗)を中心に、育苗における管理のポイントについて紹介します。
【RTF苗づくりにおける基本】
◯種子冷蔵処理 (吸水種子を暗黒下で10℃・30日程度)
◯底面給水
◯冷房育苗
※RTF苗…花芽分化ができる態勢にある苗で、抽苔しているが未分化で老化していない苗。
播種(はしゅ)の準定
育苗準備では床土入れとかん水に注意しましょう。使用する床土の種類によっては運搬等の間に袋内で偏りが生じていることがあります。そのため、土を詰める際は一度袋から出し、均一になるよう混ぜてから詰めます。また、セルごとの土量に差が生じないよう、数回に分け詰めます(図1)。詰めたのちに、水を浅く張ったプールにつけ、下からゆっくりかつ十分に吸水させます。床土入れが不十分な箇所がある場合、給水できずその後の育苗にも影響が出ます(図2)。
種子冷蔵処理
種子冷蔵処理は田植え箱に入れたセルトレイの上に、別の田植え箱を裏返して乗せ、挟んで覆います。次に、冷蔵庫内に数段重ねて置き、乾燥しないよう黒ビニル等で軽く被覆し、10℃で30~35日低温処理を行います。種子冷蔵処理をすることで①発芽の斉一性向上②成苗率向上③定植後のロゼット回避などの効果が期待できます。また、後述するように夜間の冷房設定温度を高くすることもできるため、コスト削減にもつながります。
ポイントは、播種後すぐに冷蔵庫に入れることです。吸水した種子を長時間野外に置くと、種子が動き出し冷蔵処理中に発芽してしまい、未熟な苗や転び苗になる可能性が高まります。また、トレイを屋外で被覆し冷蔵庫に入れる場合、ビニル内の温度が10℃に下がるまで時間を要してしまいますので注意しましょう(図3)。
育苗中の管理
①温度
冷房育苗では、天候と生育ステージによって設定温度を調整します。育苗期間の温度は苗の生育速度とロゼットに影響し、特にロゼットは夜温の影響を強く受けます。温度が上がりにくく生育が緩慢な梅雨時期は昼温30℃、夜温20℃で管理します。梅雨明け後、日射量が回復したら昼温28℃、夜温18℃にします。ただし、夜温を18℃以上に設定できるのは種子冷蔵処理を行った苗のみです。
②かん水
かん水でのポイントは培土、根域の環境を急激に変化させないことです。底面給水は水位を調節することで、培土の水分状態を安定維持することができます(表1)。
底面給水では上部かん水に比べ肥料の流亡が少なくなり、育苗後期の肥切れによる苗の老化リスクが下がります。加えて、労力面においても上部かん水に比べ、かん水に係る労力が低減します。
一方で、育苗開始後に育苗台に勾配があると、水位に差が生じ不良苗の発生につながります。特に、前作のビニルには肥料分が付着している可能性もあるため、育苗開始前に台の調整とビニルの張替えまたは洗浄を行ってください。
③追肥
底面給水では本葉展開まで追肥は行いません。本葉展開後から本葉2対までは3000倍希釈を3~5日おきに施用し、本葉2対以降は2000倍希釈液を1~3日おきを目安に施用します。底面給水では肥料分の流亡がないため、過剰施肥に注意し、薄い液肥を多数回施用するイメージで行います。
④日射量(照度)
冷房効率を上げるため寒冷紗を設置しますが、強すぎる遮光は発芽の遅延、生育の抑制につながります。寒冷紗は梅雨時期や曇天時に開閉するなど、気象に合わせ調整して生育に十分な照度を確保しましょう。また、ハウス内の設備等で日中に影となる箇所で育苗すると、トレイの中でも生育が大きくばらつきますので、トレイを動かすなど対策が必要です(図4)。
最後に
トルコギキョウの育苗では梅雨から梅雨明け後の高温期まで天候が大きく変わる時期に行われます。気象に対応した管理を適期に行い、充実した苗づくりに努め、高品質なトルコギキョウを消費者へ届けましょう。
天草広域本部 農林水産部 農業普及・振興課
PDF:トルコギキョウの育苗管理について~RTF苗による成苗率向上のポイント~