宿根カスミソウの 定植準備について

はじめに

熊本県は、宿根カスミソウの作付面積ならびに出荷量が全国1位の産地です。県内では菊池、宇城、天草地域で主力品種の「アルタイル」を中心に盛んに栽培されています。産地では、作型に応じた品種と栽培技術の組み合わせにより計画的な長期出荷栽培がされていますが、定植準備が不十分だとスムーズに活着せず、出荷時期の遅延、品質低下につながる場合があります。そこで、効率良く栽培管理を行うために定植準備をしっかり行い、作に備えることが重要となっています。今回は、計画的出荷の基本となる定植準備について紹介します。

栽培適地

宿根カスミソウの生産には、日当たりと水はけが良いほ場が適しています。適湿を保てる土壌であれば広範囲に栽培が可能ですが、切花の軟弱徒長を防ぐため生育後半にやや乾燥気味に管理する必要があります。そのため、排水対策はしっかり行います。地下水位が高いほ場では、水分調整しやすいように高畝や隔離栽培にします。

主な品種と作型

①アルタイル:中晩性品種。花持ちが非常に良好で花が白く、茎が固い。県内では作付けが最も多い代表的な品種。低温期に開花する作型では奇形枝の発生が見られる場合がある。
②アルタイルLG:アルタイルの晩性品種。高温期に草丈を確保できる。
③アルタイルMD:アルタイルとLGの中間的早晩生で、平坦地の秋出荷や高冷地に推奨。
④ベールスター系統:1~2月出荷作型が適する。低温期開花の作型で奇形枝が出にくい。低温期での生育のスピードが速い。

ほ場の準備

①堆肥と基肥の施用
地力の消耗を防止するため、堆肥や基肥の散布を行います。また、前作の片づけ後に土壌分析を実施し、分析結果を考慮して施肥量を決定します。土壌pH6.57.0に矯正するよう適量の石灰を施用します。

②土壌消毒
連作ほ場では必ず土壌消毒をしましょう。太陽熱を利用した土壌消毒の場合、地表面のビニルのみでは地温が十分に上がらないため、外張りビニルとの二重被覆を行います。
前作で病害が発生したほ場や、気象条件等により太陽熱消毒の効果が劣ると考えられる場合は、クロルピクリン等の薬剤での土壌消毒を行います。消毒作業は期間に余裕を持って行い、定植1週間前にはガス抜きのため耕うんを行います。
土が乾燥した状態で耕うんを行うと、団粒構造が壊れてしまうので適度に水分がある時に実施します。しかし、湿りすぎていると作業性が悪いため、土を握ってすぐに崩れる程度がベストタイミングです(図1)。

図1 耕うん時の適切な水分量

③潅水(かんすい)チューブ設置
スムーズな活着のためにはムラ無く潅水することが重要です。そこで、畝全体の潅水ムラが少なくなるようチューブの種類や本数や、設置位置を工夫します(図2)。

図2 灌水チューブを2本設置している事例

④マルチ被覆
マルチは、土壌中の水分の蒸散を抑えることで土が固くなるのを防止する、土壌水分の保持、土の跳ね返りによる汚染の防止、病気や雑草の抑制などの効果があります。
マルチ被覆を行う際は、耕うんや整地を丁寧に行い、雨上がり後や定植畝に十分潅水後、地温が上らない早朝に行います。また、かまぼこ状に整地することで、水が植穴に溜まり続けることを防ぎ、根腐れを起こす確率が低くなります(図3)。
白黒マルチの使用が一般的ですが、夏期高温期での定植では、地温上昇を抑制するため、温度抑制効果の高いタイベックマルチを利用した方が良いでしょう。タイベックマルチは、光反射・乱反射性が優れ、熱吸収率が低いため日中は地温が上がりにくい特性があります。

図3 整地後の隔離床

⑤地温抑制
定植後スムーズな活着を促すため、定植10日ほど前からハウスに寒冷紗を被覆し、潅水を行うことで地温を下げておきます。活着後は速やかに寒冷紗を外し、日照を確保します。

定植

購入苗(プラグ苗)を受け取ったら段ボールから出し、乾燥しないよう潅水を行い、日陰にて一晩養生します。定植は夕方に行い、定植直後に日中の高温に遭遇しないようにします。また、高温期の定植は、潅水が不十分だと潅水ストレスによるロゼット発生の恐れがあるため、定植後に十分潅水しスムーズな活着を促します。プラグ苗は小さく、根鉢の部分が乾燥しやすいため、定植後1週間程度は手がけで十分潅水します。

図4 カスミソウの苗

おわりに

土壌消毒、基肥施肥など、ほ場準備は次作の収量を左右する重要な管理作業の1つです。宿根カスミソウは、定植が遅れると、収穫時期が予定より大幅に遅れてしまいます。他の作型の収穫や栽培管理等と重なり忙しい場合もありますが、適期定植のためにも計画的にほ場準備を行いましょう。
また、農作業事故には十分にご注意ください。

県北広域本部 農林水産部 農業普及・振興課

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