宿根カスミソウの定植後の管理と夜蛾類の効果的な防除について

はじめに

熊本県は、宿根カスミソウの作付面積、出荷量が全国1位の産地です。県内では菊池、宇城、天草地域で主力品種の「アルタイル」を中心に盛んに栽培されています。現在の宿根カスミソウ栽培は、作型に応じた品種と栽培技術の組み合わせにより長期栽培がなされています。
しかし、高温期に定植する作型では、近年の地球温暖化の影響もあり、活着不良や土壌病害による株枯れ、ヨトウムシなど夜蛾類による食害が発生し、栽培上の問題となっています。また、高温期は早期出蕾による短茎開花など品質が低下しやすい時期になります。
そこで今回は、高温期の定植後管理と夜蛾類の効果的な防除について紹介します。

高温期の定植後管理

①温度管理
まず、定植の2週間前からハウス内を寒冷紗で被覆し、地温を事前に下げておく必要があります。
高温長日下で栽培する作型では、花芽分化が速く、丈が短くボリュームのない切り花になることがあります。ハウスを開放し、風通しのよい生育環境を作りましょう。
②かん水
定植直後のかん水不足は初期生育が悪くなり、生育の不揃いにつながります。特にタイベックマルチを使用する場合は透湿性があり、他のマルチに比べ乾きやすいため、かん水量は多めにしましょう。
③摘芯
摘芯は収穫方法に合わせ、低ピンチや高ピンチなど、高さを使い分けますが、高温期の定植では芽吹きが悪く、十分な数の側枝を得られないことがあります。特に高ピンチをする場合、7月~8月上旬定植の作型ではボリューム不足を避けるため、仕立て本数は最大でも7本までに抑えます。
④害虫防除
この作型は、夜蛾類やコオロギによる食害が多発しやすい作型です。老齢幼虫に対してはどの薬剤も効果が低いため、タイミングを見極めて散布する必要があります。いずれも発生すると被害が大きいので、初期防除を徹底しましょう。

夜蛾類の効果的な防除(LED防蛾灯の実例)

高温期は、夜蛾類の防除が重要な管理作業の一つです。夜蛾類の防除では、農薬散布が主な方法ですが、発生が高温期になるため、薬剤散布は負担の大きい作業となっています。
また、同じ系統の農薬による防除を続けて行うと、薬剤抵抗性がつき、防除効果が得られにくくなる心配があります。
近年は、農薬だけに依存せず、忌避効果が期待できる防除技術として、LED防蛾灯が注目されています。夜蛾類は夜間に行動し、産卵などを行いますが、夜間に黄~緑色の光を連続点灯させることで昼間と錯覚させ、飛来や交尾行動を抑制できるため、次世代の幼虫による食害軽減が期待されます。
菊池地域では、数年前から緑色のLED防蛾灯の導入が進んでおり、今回、効果について調査を行ったので、その概要を紹介します(写真1)。

写真1 LED防蛾灯(右は夜間の様子)

①調査内容
防蛾灯の効果を確認するため、実証展示ほを設置し、夜蛾類による食害、フェロモントラップによる捕殺数、農薬散布回数を調査しました(表1)。
②調査結果
防蛾灯の照射範囲内に設置したフェロモントラップでは、調査期間中、夜蛾類は確認されませんでした。一方、防蛾灯なしのほ場に設置したトラップでは、夜蛾類が確認されました(図1)。
また、防蛾灯を設置した展示区では、慣行区よりも食害が少なくなり、農薬散布回数は、両区で差がありませんでした。
このことから、防蛾灯の照射範囲内では夜蛾類の行動が抑制されていることが示されました。

図1 フェロモントラップによる捕殺数

③導入よる費用対効果
今回調査した規格の防蛾灯では、展示区の3a当たりで、年間約6,500円のコストがかかる計算となりました(表2)。これに対し、防蛾灯設置により食害を逃れた株から得られる本数は約80本となり、熊本県の経営指標記載の単価127円で算出すると、金額にして約1万160円になり、防蛾灯の導入コストを上回りました。
また、防蛾灯を設置せず同等に被害を抑えるには、農薬散布回数を増やす必要があるため、農薬代と散布作業時間にかかる人件費の両方が増えることになります。
農薬散布は、散布時期が遅れると十分な効果が得られない場合があるため、初期防除を補完する意味でも、防蛾灯設置による効果は大きいと言えます。

④使用時の注意点
防蛾灯は夜蛾類の行動を抑制するもので、殺虫効果はありません。また、防蛾灯を点灯していても、卵を持った成虫が強風により飛び込んでくる可能性や、柱などの陰を通り道として入ってくる可能性もあります。そのため、点灯期間中も最低限の農薬散布による防除は必要となります。

 

※耐用年数、電気代は照射期間9~11月(3ケ月)、
照射時間12時間/日より算出

最後に

ヨトウムシなどの夜蛾類に限らず害虫は、防除が遅れると大きな被害につながります。そのためには、まずはほ場内で発生させないことが大切です。ハウス内外の雑草は抜き取り、収穫終了後は二度切りに向けた株整理やほ場の片づけを早急に行うほか、防虫ネットを活用するなど、日頃からほ場内に害虫が発生しにくい栽培環境づくりに努めましょう。

県北広域本部 農林水産部 農業普及・振興課

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