汚水中には多量のアンモニア態窒素が含まれていますが、好気状態での硝酸態窒素への変換(硝化)、嫌気状態での窒素ガスへの変換(脱窒)を経て、汚水中の窒素は低減されます。
そのため、曝気槽の出口ではpHが7.0前後になっていることが望まれます。アルカリ性に大きく傾いていれば曝気不足、酸性に大きく傾いていれば、過曝気の可能性があり、pHから状況を推し量ることができます。
techniques and methods
畜産業において発生する排水を公共用水域に放流する場合、水質汚濁防止法に基づく排水基準値をクリアする必要があります。排水基準には様々な項目が定められていますが、畜産業に関連する項目は以下のとおりです。(詳細は各自治体に照会してください。)
畜産業では、養豚経営でふん尿分離方式が主流となっており、ふん尿分離した後のふんは堆肥化して利用されますが、尿汚水(以下、汚水)については法律で定められた基準まで浄化処理することが必要となります。
(その他、酪農経営でもパーラー排水等の浄化処理を行うことがあります。)
畜産業の汚水は、し尿と比べて非常に濃度が高いことが特徴です。
今回は汚水の浄化処理における重要なポイントについて解説します。
畜産業における浄化処理では、立地条件や処理量等により、複数の浄化処理方式が採用されています。ここで、代表的な処理方式をいくつか紹介します。
①連続式活性汚泥法
曝気(ばっき)槽、沈殿槽が分かれている施設で、活性汚泥法の最も基本的な形式です。
②回分式浄化処理施設
沈殿槽が無い代わりに曝気槽を一定時間停止し活性汚泥を沈降させ、上澄みを放流水として引き抜く形式です。
※2:図1、図2は一般財団法人畜産環境整備機構「畜産汚水の処理技術マニュアル―処理の基本から高度処理まで―」より引用
③その他
複合ラグーン方式、オキシデーションディッチ方式(神奈川方式)や膜分離方式など様々な形態の浄化処理施設がありますが、全ての方式に長所、短所があるため、経営にあった処理方式の選定が重要です。
汚水の浄化処理の主役は、活性汚泥中の微生物(好気性微生物、嫌気性微生物)です。そのため、微生物が活発に活動できる環境を整える必要があります。以下にいくつかのポイントを示します。
微生物が活動するには、「エサ」が必要です。微生物のエサは有機物(BOD)であり、浄化処理の入口では十分量のBODが汚水中に含まれる必要があります。ただし、BODはふん尿混合汚水には十分量含まれるため、特に添加物等を追加する必要はありません。
汚水の浄化処理は、微生物による酸化・還元反応を利用して行われるため、汚水への酸素供給が重要になります。そのため、曝気処理により酸素を送り込み、好気性微生物が活動しやすい環境を整える必要があります。ただし、供給する酸素が多すぎても少なすぎても駄目です。適切な酸素量を供給する必要があります。
浄化処理施設は、汚水を無限に処理できる施設ではありません。負荷等を考慮したうえで、処理量が決められています。そのため、設計より濃度が高い汚水や多量の汚水を投入すると、処理能力の限界を超えてしまい、汚水処理がうまく出来なくなります。
そのため、どのような設計計算がされているかを把握したうえで運転することも重要になります。
微生物が活発に活動すると汚泥(微生物の集合体)が多く発生します。汚泥は放置すると増えすぎて浄化処理に悪影響を及ぼすため、定期的に汚泥引き抜き(堆肥化、曝気槽に返送)を行い、適量を維持する必要があります
汚水中には多量のアンモニア態窒素が含まれていますが、好気状態での硝酸態窒素への変換(硝化)、嫌気状態での窒素ガスへの変換(脱窒)を経て、汚水中の窒素は低減されます。
そのため、曝気槽の出口ではpHが7.0前後になっていることが望まれます。アルカリ性に大きく傾いていれば曝気不足、酸性に大きく傾いていれば、過曝気の可能性があり、pHから状況を推し量ることができます。
微生物の活動は、極端な低温環境下では大きく抑制されます。そのため、冬場などには浄化処理がうまく出来なくなる事例も散見されます。ブロアーの熱による加温、曝気槽のハウス被覆等でも保温効果があるとされているため、寒冷地においては厳冬時の保温対策も重要になります。
ここまで、浄化処理のポイントをいくつか解説してきました。日常的な管理によって水質は良くも悪くもなるため、日々観察を行い、異常がみられたら早期に業者へのメンテナンス等を依頼することをお勧めします。
県南広域本部 球磨地域振興局 農業普及・振興課
畜産業における汚水処理のポイントについて (PDFファイル)