ナシ「甘太」の特性を活かした栽培技術~果実の袋掛けによる糖度向上効果~

はじめに

晩生ナシの主力品種である「新高」は、開花が早く晩霜被害を受けやすいこと、夏期の高温少雨で果実に生理障害(果頂部の亀裂やみつ症)の発生が多発するなど、温暖化が進むことで生産が不安定となっています。
そこで、温暖化の影響を受けにくく、高糖度で食味が優れている晩生の新品種「甘太」の導入を進めています。
今回は、「甘太」の特性及び袋掛けによる糖度向上効果について紹介します。

「甘太」の特性

「甘太」は、農研機構果樹・茶業研究部門で「王秋」に「あきづき」を交配して育成された、晩生の青ナシ品種です(平成27年3月品種登録)。
①樹勢は、「新高」と同程度。短果枝の維持が容易であり、花芽の確保がしやすく着果は安定しており、収量性が高い。
②開花期は、「新高」より5~6日遅く、「幸水」と「豊水」の中間程度の時期(晩霜被害を受けにくい)。
③収穫期は、9月中旬~10月始め頃で「新高」よりやや早い。
④果実は、円楕円形で腰高であり、果肉は柔らか④果実は、円楕円形で腰高であり、果肉は柔らかく、高糖度で食味が優れる(写真1)。有袋栽培では果実表面にまだらなサビが発生する。
⑤果実の日持ち性は、「新高」より短く14日程度(有袋栽培)。

写真1 ナシ「甘太」の着果状況

栽培上の注意点

①交配
「秋麗」「あきづき」とは交配親和性がないため、交配に使用する花粉品種に注意する。「幸水」「豊水」「新興」は親和性あり。
②袋掛け
袋掛けの時期が早いほど、糖度が高くなる。(満開後60日目以前に白一重袋を被袋する)。
③収穫時期
果皮色で2.5が収穫適期。果皮色が3.0を超えると果肉が柔らかくなりすぎるため、収穫遅れに注意する(写真3)。

写真3 袋掛けした果実(調査園、白一重袋)
写真2 ナシ「甘太」の色見本

袋掛け(有袋栽培) の必要性

晩生品種は、果実生育期間が長く、病害虫による被害発生リスクが高くなります。そのため、「甘太」の安定生産のためには、病害虫防除の観点から有袋栽培を前提とした管理が必要です。
また、県果樹研究所発表の研究成果情報では、『「甘太」は満開60日以前に白一重袋を被袋することで、果実は小さくなり、日持ち性が短くなるものの、無袋より糖度が上昇する』と報告されています。
そこで、「甘太」の袋掛けによる糖度向上効果と日持ち性の確認をするため、八代地域にて実証試験を行いました。

現地実証試(令和2年度)(処理区)

・満開50日後被袋区(50日区)、
・満開80日後被袋区(80日区)、
・無袋区を設定。
(調査項目)
①果実調査
果実重、果肉硬度、糖度、果実ていあ部の地色を調査。
②日持ち性
収穫後、常温(25℃)で保管5日後、10日後、15日後の果実重及び外観・触感を評価。
(調査結果)
①果実品質
・糖度は50日区が最も高く、80日区及び無袋区より1度以上高かった(表1)。
・果実重は無袋区が最も大きく、果肉硬度は処理区間で差はなかった(表1)。
②日持ち性
・減量率は、50日区が最も大きく、15日後で10%減量した(図1)。
・外観・触感は50日区のスコアが最も高く、15日後で果実の弾力(スコア1)が81%となった(表2)。
(考察)
袋掛けの時期が早いほど果実表面のサビが少なく、蒸散が盛んに行われるため、糖度が高くなり、収穫後は減量率が大きく、日持ち性が低下すると考えられる。

図1 減量率

最後に

「甘太」は、甘くて、果実肥大が良(太)く、栽培が容易(簡単)であることが名前の由来ですが、県内では有袋栽培を基本に管理する必要があります。現在、品種特性を活かした栽培方法及び貯蔵方法など技術確立に向け、果樹研究所で試験が行われています。
八代地域でも、収穫後の日持ち性向上のための貯蔵試験を実施します。また、ナシ産地維持及び生産者の所得安定のため、品種構成も考慮し、温暖化に対応した品種導入を進めていきます。

県南広域本部 農林水産部 農業普及・振興課

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