低温嫌気処理によるγ―アミノ酪酸高含有てん茶の製造技術

農業研究センター茶業研究所

研究のねらい

熊本県産茶の新たな需要を創出できる商材として、機能性成分であるγ―アミノ酪酸(以下、「GABA」という。)を多く含むお茶、特に抹茶の原料であるてん茶は、食品加工用途で様々な活用場面が見込まれるため有望です。
お茶の製造において、GABAは生葉(茶葉原料)を嫌気条件(低酸素条件)に置くことで増加しますが、処理に伴って「嫌気臭」と呼ばれる特有の臭いが発揚し、またお茶が赤みを帯びるなど、商品化を図るうえでの課題となっています(図1)。
そこで、GABAを多く含有し、かつ嫌気臭の発揚を抑えた新たなてん茶製造技術を開発しましたので紹介します。

図1 茶におけるGABAの主な生成経路と品質への影響

研究の成果

1.室温7℃程度の低温で嫌気処理を行った製造開始前の茶葉は、常温で処理した茶葉よりも嫌気臭が低減されます。なお、嫌気処理の温度によらず、てん茶に特有の製造工程である木茎除去(つる切り工程)を行うことで嫌気臭の強度が低下しますが、低温嫌気処理の方が常温嫌気処理よりもてん茶(熱湯浸漬時)の嫌気臭が大幅に軽減されます。(図2)

図2 嫌気処理を行ったてん茶の製造工程別及び荒茶の嫌気臭の強度

2.低温で嫌気処理を行ったてん茶は、常温嫌気処理のてん茶よりも香気や色沢が優れ、抹茶の粉色は嫌気処理を行わない通常のてん茶とほぼ同等になるなど、製茶品質が改善されます。なお、室温が高くなる時期の製造において、特に品質改善効果が高くなります。(表1、表2、図3)

図3 抹茶の粉色(「おくみどり」一番茶)

3.低温嫌気処理を行ったてん茶のGABA含有量は、常温嫌気処理を行ったてん茶よりもやや少なくなりますが、通常のてん茶よりも6~10倍程度多くなります。(図4)

図4 てん茶(仕上げ茶)のGABA含有量

以上のとおり、てん茶を製造する際に茶葉を室温7程度の低温条件で嫌気処理を行うと、常温での嫌気処理で問題となる嫌気臭発揚などの影響を抑えることができます。また、嫌気処理を行わない通常のてん茶と荒茶品質及び抹茶の粉色がほぼ同等で、GABAが通常よりも6~10倍以上多く含まれたてん茶を製造することができます。

成果活用面・留意点

1.熊本県農業研究センター茶業研究所において、てん茶をK社製ハイブリッド製茶ライン(炒蒸機、ネット型乾燥炉、つる切り機等で構成)、抹茶をT社製粉砕機FPS-1で製造した試験の結果であり、GABAを多く含むてん茶及び抹茶の生産に取り組む茶生産者が活用できます。

2.茶葉原料(特に一番茶)は摘採後に発熱しやすいため、嫌気処理前に通気式コンテナで茶葉温度を下げてから低温嫌気処理を行ってください。

3.無被覆の茶葉を同様の方法で製造した「食品加工用てん茶」においても、本方法で同様の効果が得られます。(データ省略)

 

No.972(令和4年(2022 年)6月)分類コード 05-08
972_低温嫌気処理によるγ―アミノ酪酸高含有てん茶の製造技術

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