田中 竧さん・香さん
はじめに
今回は、熊本では知る人ぞ知るホオズキ界のレジェンド、田中竧さん・香さんご夫婦を紹介します。
田中さんが所属するJA鹿本花卉部会ホオズキグループのホオズキは、実が大きく発色が鮮やかなことが特徴です。これまでもグループ全員で、優良系統選抜やウイルス病対策による品質向上、天敵利用による防除作業の省力化など、品質向上と安定出荷に取り組んできました。(グループの取組は平成27年(2015年)7月号の「こだわってる農」で紹介しています。)
その中でも、田中さんご夫婦の作るホオズキはトップの品質を誇り、栽培者への技術の指南役として、皆から頼りにされる存在です。
ご夫妻の一番のこだわりは『みんなに、きれいかね~と喜ばれる花を届けたい』という一途な思いです。
そんな田中さんご夫婦が実践するホオズキ栽培のポイントをご紹介します。
高品質栽培の第一歩は親株づくりから
「苗半作」。よく言われる言葉ですが、高品質なホオズキ栽培への第一歩は『まずは「充実した地下茎」の確保』と田中さんも強く言われます。
ホオズキは前年に作った親株の地下茎(根)を苗として利用しますが、地下茎の先端部分を使うと生育揃いが良くなります。しかし、親株の生育が悪いと先端だけでは足りず、中間部分なども利用することとなり、生育の不揃いや生育遅れを招きます。
特に親株の定植遅れは地下茎の生育に大きく影響するため、毎年8月20日までに播種し、9月中旬には育苗した苗を親株床に定植します。この時期は、他の栽培品目の作業も被るうえに、天候次第では計画どおりに進まないことも多いため『出来るときに早めに作業しておくことが大事』と言われます。
また、管理しやすいよう親株床を自宅そばに設け、作業の合間に親株の様子をチェックし、こまめな潅水管理や病害虫等の早期防除に努めています。こうして翌年2月まで育てた親株の地下茎は量も十分確保され、苗(地下茎)のほとんどは先端部分が使用されています。
土づくりと連作障害対策
ホオズキは連作を嫌う品目なので、本ぽでの土づくりと土壌消毒は必ず行っています。
また、ホオズキの収穫後には毎年緑肥を栽培してすき込んでおり、有機物投入等の対策を行うことで土壌の化学性・物理性が改善され、根が張りやすい環境を整えています。
植物の生育に応じた水管理と記録が大事 ~IT機器も活用してデータ管理~
一般にホオズキは無加温ハウスで栽培され、栽培期間の2月から7月は気温や日射量の変化が最も大きい時期にあたります。そのため、気象条件と植物の生育状況に応じた潅水(かんすい)管理が、適切な草丈伸長を図るうえで重要なポイントとなります。
田中さんのほ場では、2月上旬に苗を定植した後、乾燥しすぎないよう株元近くに点滴チューブを設置し、天候と植物の生育をみながら潅水量や間隔を調整しています。
その他にも、タブレットで土壌水分量やハウス内温度などのデータをリアルタイムに観察し、管理に活かされています。
また、『記録を残すのは大事。作業時期の目安になるし、問題が発生した時に原因が何か考え、次の改善ができる』と言われ、自分の作業記録をパソコンに入力してデータ化しているほか、農薬散布や潅水などの記録は、スマートフォンの機能を利用して履歴が確認できるようにされています。
妻の香さんも自身の作業を記帳されており、竧さんに『去年はこの時期◯◯していたよ』と声をかけ、夫婦二人で作業遅れや作業忘れがないよう、声を掛け合われています。
手をかけなきゃ良いものはできない
ホオズキは省力的な品目と言われていますが、それでも『良品生産にはしっかり手をかけなきゃダメ』と言われます。
脇芽は早めに除去し、実も早めに1節1実に整理して実の肥大を促しているほか、毎日ハウスを観察し、害虫の発生が見られたら早期防除を心がけています。
ホオズキは7、8月のお盆に需要が限られるため、出荷日から逆算して実に色がつくように調整し計画的に仕上げています。
ホオズキへの思い
これまで30年以上、大輪系のホオズキを作ってこられましたが『もっとホオズキが一般に流通するためには、大輪以外のバリエーションがあってもいいのでは』との考えから、最近は小輪系の品種の試作もされています。
また、熊本県全体でもっとホオズキが盛り上がってほしいとの思いから、他の産地からの相談にも積極的に協力されています。
特にJA鹿本のホオズキは、5年ほど前から新規栽培者が増えており、新たな担い手の技術向上と育成にも力を入れておられるところです。その中で、田中さんご夫婦の技術や思いは次の世代へとしっかり引き継がれていっています。
(紹介:県北広域本部 鹿本地域振興局 農業普及・振興課)
<プロフィール>
田中 竧さん・香さん
◯経営概要 ホオズキ15a、スイートコーン10a、畑地性カラー13a、水稲65a
※R4年まで輪ギク栽培
◯家族構成 2人
◯主な労働力 妻、本人