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Vitamin Table 〜第23回 セリのおはなし〜

2月は最も寒さが厳しい時期ですが、暦の上ではもう「春」を迎えます。ほんの少しずつ日が高くなり、日差しのやわらかさを感じるようになる頃…。今月は早春の香り野菜「セリ」について紐解きたいと思います。

数少ない日本原産の野菜…

セリ(芹)は白根草(シロネグサ)ともいわれるセリ科セリ属の多年草。日本全国の水田や土手、水辺の浅瀬等の湿地に自生しています。セリの摘み歌が「万葉集」にも二首載っているように、多くの和歌、俳句に詠まれている馴染みの深い山野菜(やまやさい)です。
栽培の歴史は古く、18世紀に宮城県名取市や島根県松江市で栽培されていた記録があるそうです。

春の七草の筆頭に挙げられる

一か所に「競り合って」密生するところや「迫りあって」生えることから「セリ・競り」と名付けられたといわれています。
「競り勝つ」とかけて縁起物野菜として、春の七草(セリ・なずな・ごぎょう・はこべら・ほとけのざ・すずな・すずしろ)のひとつに挙げられています。

熊本ではいつから…

昭和61年(1986年)に熊本市農業協同組合(現JA熊本市)園芸部会水前寺セリ生産部会が発足し現在に至ります。

豊かな湧水をたたえる江津湖の西南にひろがる江津地区へ…

江津地区は、阿蘇山麓からの伏流水がもたらす湧水が豊かなところとして知られています。近年、住宅が増えてきたものの外輪山を望む田園地帯を走ると緑のじゅうたんが点在しています。それが「セリ田」です。
この地区でセリの栽培が始まったのは30年以上前…。地元農協の営農指導員の方が水田の裏作作物として紹介し、前述の部会が発足…。15戸を超す農家が属す時もあったとのことですが、年々高齢化や後継者不足で減少、現在は5戸約80aで栽培されています。

部会長山田さんご一家を訪ねて

山田喜和さん(79)、貴宏さん(51)のセリ田にお邪魔しました。栽培されている品種は「京セリ」、生育日数がやや長いものの、茎部が肉厚で収量が高いことが特徴の品種です。『今年は低温で生育に若干の遅れがあるものの、高品質で美味しいものに仕上がっている』と貴宏さん。
訪問したのは零度近くまで気温が下がった朝、胸までの長靴を履いてセリ田の中に入り、中腰で一株ずつ丁寧に収穫。自噴する水場で泥を丁寧に落としてシャッシャッと水を切り、コンテナへ。技ある所作は瞬く間、また田の中に入り収穫…。冷たくないか伺うと『年中18℃、水のほうが温かいけん、寒くないよ』と嘉和さん。

そのあとは、自宅の作業場に運ばれひとつひとつ手作業で選別されます。長さを合わせ、規格の束にして箱詰め。出荷作業は一家総出で行われるとのこと。11月下旬から4月いっぱいまで収穫・出荷が続きます。目標は2000ケースだとか…。
選別したセリの一部が来年の苗用に保管されます。種田で種ゼリをつくり、9月頃に数回に分けて播種すると節から芽が出て根も伸び始め、11月中旬過ぎから収穫が始まる…。『種を買うこともいらず、自噴する温かな伏流水のおかげで早く生育する…魅力ある作物です』と、貴宏さん。
「親方」と呼ばれるお父様のもとに本格就農されて4年、戸数減少が課題ながら、部会長としても冬の収入源でもあるセリ栽培をより魅力的にしていきたいと語ってくださいました。その闊達な語り口に「くまもとふるさと特産野菜・水前寺セリ」の未来は明るいと感じたひとときでした。

水前寺セリの特徴

水前寺・江津湖周辺の豊かな湧水を利用し栽培するため、アクが少なく、特に瑞々しい香りと色合いが美しい。

セリの栄養や機能性

βカロテンが豊富で、ビタミンB2・Cも含み、抗酸化作用ある成分が多く風邪の予防や免疫力アップに。ビタミンKやカルシウムは骨粗しょう症予防に。鉄や葉酸も豊富で貧血予防や改善に。独特な香りの精油成分には保湿効果や発汗作用、健胃効果あり冷え性にも。

ぱぱっと簡単レシピ

セリのお好み焼き(生産者山田勝子さんおすすめ)

<材料4人分>
セリ 2束(200g)
ちりめんじゃこ 50
小麦粉 大さじ5~6
卵 2個
塩こしょう・サラダ油 適量

<作り方>
⑴セリを2㎝のざく切りにする。
⑵ボウルに⑴のセリ、ちりめんじゃこ、溶き卵を合わせて塩こしょうをしてしんなりさせておく。
⑶⑵に小麦粉をまぶし、ホットプレート(フライパン)で両面をこんがり焼く。

セリのパスタ

<材料2人分>
セリ 1束
細めのパスタ 120g
塩 適量
オリーブオイル 大さじ1

<作り方>
たっぷりの湯に塩(湯1Lに小さじ1)を加え、表示時間より若干少なめに茹でる。
⑵セリは根を落とし2㎝くらいに切る。
⑶茹で上がったパスタの水気をよく切り、ボウルに入れる。オリーブオイル・塩少々を加え、⑵のセリも加えて予熱で火を通しつつ手早く和えて器に盛る。

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持田 成子Shigeko Mochida

野菜ソムリエ上級プロ
女子栄養大学生涯学習講師

女子栄養大学在学中に「野菜のビタミン分析」に携わったことがきっかけで野菜ソムリエ資格を取得。「旬の野菜果物のチカラはココロとカラダを元気にする」をテーマに食育やセミナー、レシピ開発など食の周りで活動中。

野菜ソムリエとは

日本野菜ソムリエ協会が認定する資格。野菜・果物の知識を活かし自らの生活に活かす「野菜ソムリエ」、野菜・果物の専門家「野菜ソムリエプロ」、専門家の最上位資格「野菜ソムリエ上級プロ」と、3段階の資格がある。

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