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「農業×福祉×DX」で「支援を受ける側」から「地域を支える側」へ

大津町 株式会社なかせ農園

引用元:なかせ農園ホームページ

はじめに

 農業を取り巻く環境は厳しさを増しています。特に深刻なのは、農家の高齢化で、今後大幅に担い手が減少することです。このことは、産地の縮小だけでなく、次世代への技術の伝承が難しくなるなど、多くの課題を含んでいます。

 スマート農業は、ドローンなど専用の機械を活用することで、人手が足りないところを補い、農作業の省人化や軽労化が期待できます。また、センサーやカメラ、専用機器を用いて、農業技術(匠の技)の「自動化」や「見える化」による技術の継承や栽培環境を最適化することで、生産性の向上等にも繋がる技術です。

 スマート農業技術を有効に活用している先進事例として、くまもとDXアワード2023※1で大賞を受賞された「株式会社なかせ農園(以下、なかせ農園)」の取組みをご紹介します。

 ※1 熊本県内の中小企業のDXに関する挑戦的な取組みや地道ながら着実に新しい成果を上げている取組みを表彰し、DXに対する経営層のさらなる理解と実務担当者の実行力を強化することを目的として2021年から開催。(主催:熊本商工会議所、くまもとDX推進コンソーシアム、協力:熊本県情報サービス産業協会)

なかせ農園について

1.会社設立の経緯

 なかせ農園は、カンショの生産から出荷、販売まで行う会社です。元々、ご両親がカンショ栽培を30年以上続けておられ、靖幸さんは他産業経験後に、弟の健二さんは大学卒業後に親元就農されました。兄弟2人が揃った翌年、熊本地震で被災したことを機に、経営を立て直すため、靖幸さんと健二さんが中心となって法人化を進め、平成28年(2016年)7月に設立されました。

 

2.経営理念 「農業の持つ可能性に挑戦する」

 農業の持つ可能性は無限大であると考え、生産や販売などの経済活動を通じて地域社会の発展にも貢献できる経営体を目指されています。

引用元:なかせ農園ホームページ

スマート農業(DX)への挑戦

1.これまでの取組

 「家業から事業へ」を念頭に下表の取組を実践し、これまでご両親が培ってきた経験に基づく栽培の暗黙知の「見える化(数値化、クラウド化)」と、熟練の農業技術の「自動化」、「省力・軽労化」を進めてこられました。

 具体例として、熟成管理において、従来の管理では、収穫直後は糖がのらないことや、しばらく貯蔵すると腐敗が生じること等によるロスが発生していました。そこで、熊本地震で被災した築150年の土蔵を環境制御式大型熟成蔵にし、同じく被災した伝統的な室造りの貯蔵庫も温湿度のモニタリングシステムを導入したことで、熟成に適した温湿度、CO2濃度で熟成管理ができるため、ほぼ一年中、品質が変わらず、貯蔵・出荷可能となりました。安定した長期貯蔵が可能になったことにより、カンショの品種「紅はるか」を「蔵出しベニーモ」としてブランド化し、販売されています。

 このような取組の結果、会社設立後の経営規模及び売り上げは年々増加しており、経営面積は、平成29年(2017年)の2haから、令和6年(2024年)には13haに拡大されました。

引用元:なかせ農園 提供写真及びDXアワード発表資料より

2.DX実証事業での取組

 農業現場では、手作業や熟練した技術が必要で人手不足や技術の継承が課題となっています。なかせ農園においても、栽培管理では、病害虫の発生状況や収量の見通し等を人の手や経験に頼って行っていました。そこで、スマート農業(DX)の導入により、作業の省力化やデータに基づく判断(生育分析)ができないかと考え、令和5年度(2023年度)にDX実証事業(県デジタル戦略推進課)に参加されました。

 DX実証事業では、株式会社アグリライト研究所(実証事業参加機関)が保有する「植物(農業現場など)を対象としたドローン・衛星画像データの解析技術」や「ほ場管理情報の解析技術」を活用し、「定植数の把握」、「病害虫の発生予測」、「収穫適期の把握」の3つの課題に対して、新たな把握手法の開発に取組みました。

 実証の結果、いずれの課題も、「解決可能」または「解決可能となることが示唆された」ため、「適切な定植数の把握」、「病害虫の早期発見、見回り時間の削減」、「収穫適期の把握」等を実現し、農産物の高品質化・高収量化・管理省力化に繋がることを期待されています。

活着株の株頂点検出のプロセス
収穫適期予測モデルの構築フロー

引用元:くまもとDX推進コンソーシアムホームページ:【令和5年度】DX公募型実証事業の取組事例より

農福連携について

 多様な人材がカンショ栽培を通じて共生できる社会づくりを目指しており、法人化した平成28年(2016年)から農福連携に取り組まれています。

 正社員で雇用している障がい者の方は、入社後に努力して運転免許やリフト免許等を次々に取得。それに応じて昇給することで仕事へのやりがいを持てるよう雇用体制を整えられています。また、就労支援事業所への作業委託(苗切り作業、選別作業等)により、現在は6~10名の障がい者が従事し、多数かつ長期間の就業の場を提供されています。

 障がい者への栽培指導にあたり農林水産省認定資格「農福連携技術支援者※2」も取得され、作業マニュアルによる分かりやすい指示書の作成や、機械化による作業ハードルの低下等、障がい者の力量を抑制しているものを改善し、皆が働きやすい職場づくりに努めておられます。

 ※2 農福連携に取り組む関係者に対し、農福連携を現場で実践する手法をアドバイスする専門人材のこと

今後の活動、目標

 令和5年度(2023年度)にDX実証事業へ取り組んだことにより、大きな設備投資をせずとも、農作業やほ場のデータを収集・分析・活用することで、効果的で質の高い農作物を生産できることが分かられました。

 なかせ農園では農作業受託事業を進められているため、今後は、なかせ農園の事業として、技術の普及を行い、病害虫発生の減少や収量アップ等、地域でのカンショの生産性向上を進められていきます。

 また、カンショは主要作物(水稲、トマト等)に比べて注目度が低いと感じられており、カンショの市場規模が拡大することで、機械の開発、AI開発が進み、カンショの生産性向上、ひいては輸出拡大にも繋がると考えられるため、もっと市場規模が広がって欲しい、と期待されています。

受賞歴

平成30年(2018年) 第1回日本農業経営大学校ビジネスコンテスト 最優秀賞
令和3年(2021年) 第62回熊本県農業コンクール大会 新人王部門 優良賞
令和5年(2023年) 日本さつまいもサミット ファーマーオブザイヤー2022-2023
令和6年(2024年) 日本さつまいもサミット サツマイモオブザイヤー2023-2024(あまはづき部門)
令和6年(2024年) くまもとDXアワード2023 くまもとDXアワード大賞

参考ホームページ

◯くまもとDX推進コンソーシアムホームページ:【令和5年度】DX公募型実証事業の取組事例
<https://kumamotoDX.jp/case/post-8869/>
◯くまモンナビ(テレビ熊本ホームページ):45-DXでサツマイモが良く育つ!? デジタル技術を活用した近未来農業
<https://www.tku.co.jp/go-kumamon-navi/2024/03/15/pg20240315/>
◯DX実証事業説明動画(YouTube):R5 PoC一般枠④取組動画【サツマイモ】
<https://www.youtube.com/watch?v=GPGO-oD3FmI>
◯九州農政局ホームページ:令和元年(2019年)農福連携の優良事例
< https://www.nakase-nouen.com/wp-content/uploads/2019/07/yuryo_kyushuhp-61-1.pdf>

 

<プロフィール>
株式会社なかせ農園 代表取締役 中瀬 靖幸さん

 

◯設  立

 平成28年(2016年)7月

◯経営概要

 青果用さつまいも 13ha (総収穫量約330t)

 ※R6年度時点

◯主な労働力

 従業員 10名

 福祉事業所(委託)から作業員6~10名

◯ホームページ https://www.nakase-nouen.com/

 Instagram https://www.instagram.com/nakase_2024/

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