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熊本県輸出拡大アドバイザー講座 

心を伝える
~熊本県産農林水産物の輸出拡大に向けて~

 熊本県輸出拡大アドバイザー 大橋幸多氏

 農林水産物輸出に係る手続き、統計、市場特性に関しては色々な資料や読み物も既に多々ありますので、本稿では、今までの経験を通して農林水産物輸出への「思い」を綴ってみたいと思います。

1. 輸出は特別なことでしょうか?

農林水産物が生産地から消費地に運ばれて販売され消費されることは誰もがよく知っていることです。熊本県で生産されている農林水産物は全国各地で販売されていますが、熊本県の農林水産物が例えば東京のお店でいつでも手に入るようになったのは、数知れない方々の過去の努力の積み重ねと強い意志があったからだと思います。
今まで販売されていなかった地域に販売する時には、どんなことが成されてきたのでしょうか。
・市場を調べる。 -需要、嗜好、価格等の調査―
・試験的に販売をする。 -市場の反応をみる-
・販売のルートを決める。 -何処で、誰が、どの様に販売するか-
・販売促進をする。 -販売促進のための計画、予算、実行をおこなう-
・マーケットレビューを行う。 -今後の方針を決めていく-
輸出に関しても全く同じです。
しかしながら、農林水産物輸出に関しては、
・輸出業者に全て任せる。 -輸出業者に販売して終わり-
・市場で輸出業者が仕入れて勝手に輸出している。 -誰が誰に販売しているか分からない-
といったケースが散見されます。
熊本県では、輸出される市場を視察したり、現地の販売現場に立ち会ったり、輸出業者とよく話し合っている等一歩踏み込んだ取り組みが多いと理解しています。
輸出は特別なことではなく、日本国内で販売するのと全く同じです。例えば、香港は熊本から空路約2000㎞です。熊本から東京までの道路距離は約1100㎞、札幌までは同2100㎞です。香港の人口は約700万人です。東京の人口は約970万人、横浜市380万人、大阪市280万人です。
従って、香港は札幌より近く、人口は横浜市と大阪市を足したより若干少ない国です。一寸離れたところにもう一つの都市があると考えては如何でしょうか。もちろん、輸出入、検疫等の手間はかかりますが香港は自由港で農林水産物に対して輸入関税はかかりません。上述した日本国内の市場開拓のために行う行為を輸出に対しても行うことが重要であると考えます。日本市場開拓のために行ってきたきめの細かい対応が輸出市場を拡大していく鍵であると考えます。

2.  いつもあるという安心

輸出をする場合には、まず「熊本県フェア」といったような催事を行って期間限定の売り場を確保することがよくあります。そのフェアで商品を購入したお客様の中には、期間中複数回買い物をして下さいる方もいます。しかし、お客様からよく聞く意見は、「フェアの後これはどこで買えるの?」です。いくら美味しいと思っても、フェアが終了した後に買うことができなくなるということは折角開拓したお客様を維持することができずに失くしてしまうということです。ここに行けばいつでも買えるという「安心感」も実践マーケティングの非常に重要な要素です。熊本県産農林水産物が「定番」として並んでいる売り場作りが求められます。

3. ブランド化

「あ、これは熊本産だ」ということが直ぐに分かる「ブランド化」は必須です。幸い熊本県には「くまモン」があり、くまモンは海外でも知名度が上がってきています。熊本の農林水産物にはくまモンがかなりついていると思いますが、今だ100%にはなっていないと理解をしています。くまモン=美味しい農林水産物=熊本県というイメージを作り上げていく努力が今後も必要だと思います。

4. 美味しいものに巡り合う喜び

食べることは生命を維持するために必要ですが、美味しいものを食べることは喜びと同時に心を豊かにさせてくれるのではないでしょうか。世界中でこのことは普遍的な感情ではないかと思います。日本の美味しい農林水産物を海外の人達に味わってもらう事を通じて、喜びを感じてもらえることは幸せなことだと思います。
生産をする方にとっては、どんな人がこれを食べてくれるのだろう、食べた時に美味しいと思ってくれるだろうかということはとても関心があるのではないかと思います。現代では、インターネットによって結ばれ色々な情報を供給しまた受け取ることができます。しかしながら「食べる」楽しみ、喜び、「美味しさを感じること」は今のテクノロジーではできません。自分の生産した農水産物が販売されている海外の現場にぜひ足を運んで頂きたいと思います。そして、それらの商品を買っている人たちの姿をみて、出来れば味や楽しみ方に関しての会話をして頂きたいと思います。その素材を使った現地の人の口に合った料理を一緒に探していくことも面白いことだと思います。これは決して難しいことではありません、確かに現地に行く時間と費用は必要です。しかし、海外で日本の農林水産物を販売している人達や実際に買い求めている人達と意見交換をすることによりお互いの「思い」が伝わると確信をしています。それこそが、「心を伝える」農林産物輸出だと思います。

熊本県輸出促進アドバイザー大橋幸多 氏
 総合社会文化博士
〇経歴
S50年  三井物産株式会社入社
H13年  香港三井物産有限公司副社長Director兼
食糧部General Manager兼MBKセントラル(*1)社長
H21年  三井食品株式会社取締役副社長就任
H22年  東邦物産株式会社代表取締役社長就任
H29年  株式会社魚力(*2)取締役就任(現任)
H31年~ 熊本県輸出促進アドバイザー就任

*1 MBKセントラル:在香港、日本食及び農畜産水産物輸入販売会社
*2魚力:業界トップクラスの鮮魚販売会社(本社:東京都八王子市石川町)。首都圏中心に鮮魚専門店を百貨店・駅ビルなどにテナント出店。

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