【Mon】

~事故事例を参考に~ 今月の農作業安全「耕うん機」

農作業は他の産業に比べて死亡事故が多く、大変危険な仕事です!

本県では、農作業中の死亡事故・負傷事故が合わせて20件前後発生していますが、事故の再発防止のため、(独)農研機構革新工学センター(以下、革新工学センター)に事故情報を提供しています。
今回は、実際に起こった農作業事故に対する革新工学センターの分析を掲載いたしますので、事故防止の参考としてください。

<事故事例>

<故発生年:平成31年度  地域:天草地域  機械:耕うん機>

当日は夕方4時頃から、畑にて一人で耕転作業を行っていた。
夕方6時頃、管理機が急に前進し、追いかけて止めようした時に、ロータリー部分が上がり両足を負傷した。
当日は晴天が続き、畑が固い状態だったため、時間短縮のために走行レバーを1から2に設定しており、急な前進が発生しやすい状態となっていたことが原因とみられる。

革新工学センターの分析

事故のもととなった現象はいわゆるダッシング(耕うん爪が固い土に刺さりきらず、機体を勢いよく前に押し出してしまう)と呼ばれるもので、耕うん機作業における代表的なリスクのひとつです。事故事例を見る限り、脚部の耕うん部への接触の仕方次第では、より重傷化していてもおかしくなかった事故と考えられ、軽傷にとどまったのは幸いでした。
ダッシングが発生した場合は、一般的には躊躇せずハンドルから手を離すことで、作業者自身の被災は防ぐことができ、理想的な対処方法ではあります。耕うん機側はある程度は単独で前進しますが、いずれバランスを崩して横転し、止まることになります。ただし、機械の損傷や二次災害の可能性はぬぐえません。
このことに対して、小型の管理機ではデッドマン式クラッチ(手を離せばクラッチが切れて止まる)が多く採用されており、この場合は手を離せばすぐにダッシングは治まるため、機械の破損リスクも小さく、「何かあったら手を離す」と意識していれば安全確保が可能です。
ただし、人間は突然の事態が起きると手を離すことができない(むしろ握りしめる)とも言われており、本件でも被災者が手を離せなかったことは止むを得ないと思われます。
この点に関して、事故機ではデッドマン式クラッチは採用されておらず、代わりにいわゆるサムクラッチ(メインのクラッチレバーを操作せずとも、親指近くのレバーを押し引きすれば、ハンドルを握ったままクラッチ操作できる)が装備されています。これを用いることで、ダッシング発生時には手を離さずとも即座にクラッチを切ることができます。実際に被災者も、この装置で機械を止めることができた可能性もあります(止めていなければ、ほ場から逸脱して転落や衝突に至るため、とっさの操作でより大きな事故を防いだとも考えられます)。

図 デッドマン式クラッチの一例(出典:農業・食品産業技術総合研究機構農業技術革新工学研究センター)

ただし、ダッシング時にクラッチを急に切ると、急停止の勢いで機体が前に傾き、これに伴ってハンドルは上に持ち上げられ、作業者は機体に引き寄せられるため、機体側方に逃げない限り、持ち上げられて爪がむき出しになった耕うん部に下半身が接触することになります。今回の事故も、まさにその現象が起きてしまった事例となります。クラッチは切っているため、恐らく耕うん部の駆動も切れてはいますが、慣性により回転はすぐには止まらず、巻き込まれや切傷につながります。
この状況を防ぐためには、やはり土が固いほ場では「ダッシングしにくい作業方法」の実践が、最も重要になります。
具体的には、無理に深く耕そうとせず浅耕とした上で、速度段、スロットルとも作業可能な範囲でできるだけ下げます(負荷が大きいため、エンストせずに作業を乗り切ろうと速度段やスロットルを上げてしまうことがありますが、安全上は厳禁です)。
同時に、万が一ダッシングが起きた際の対処方法を決め(クラッチを切るとともに手を離すなど)、いつでも実践できる心構えを持って作業することが必要です。
また、遠因として、作業が夕方にかかっており、急ぐ気持ちが無理な作業に繋がってしまった可能性もありそうです。実際には、事故が起きれば作業計画も狂うため、無理に仕事を進めることは大きな目で見れば経営のマイナスになり得ます。
例えば作業条件の悪いほ場はゆとりのある時間帯に作業するなど、作業計画を見直すことによる安全確保も大切になります。
(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 農業技術革新工学研究センター 安全工学研究領域 安全技術ユニット長 積 栄氏)

 

≪原因≫
土が非常に固い条件で耕うんを行うと、ロータリーの回転で車体が前方に急に押される現象(ダッシング)が起こることがあります。

このページをシェアする
  • 農作業安全

カテゴリ

アーカイブ