はじめに
果樹園では、施肥後耕起しないために土壌表層に養分が蓄積しやすいこと、除草剤を連年使用することにより土壌が固くなることなど、一度植栽すると、毎年同じ管理を繰り返すことで土壌環境が変化し、物理性の悪化や塩基バランスが崩れ土壌が酸性化した園地がみられます。さらに近年、高品質果実を生産するため、シートマルチ栽培や植物成長調整剤の使用などで樹体に負荷がかかり樹勢低下している樹も少なくありません。
高品質な果実の生産を行うためには、適度な樹勢を保つことが基本です。樹勢を保つために、土づくりをしっかりと行い、細根が多く発生し、必要な養水分が吸収できる土壌環境にしましょう。
「土づくり」とは?
土づくりは作物の「根」が育つ環境を育むことです。根が育つことで養水分を吸収する入口ができます。入口ができたら、施肥量・かん水量を調整することで、作物の生育段階に応じた養水分量を与えることができます。
このような視点から考えると、土づくりは物理性と化学性の両方向から行っていく必要があります。はじめに、根が生育しやすい環境を作るための土壌の物理性から説明します。
物理性の改善
(1)排水対策
園地の排水性が悪いと、土壌の通気性が悪くなるため、根が呼吸するための酸素供給が滞り、一定期間呼吸できないと根腐れを起こします。近年、梅雨時期の連続多雨や集中豪雨など、まとまった降雨の頻度が高くなっています。このような気象条件に対応するため、水が溜まりやすい園地では、暗きょの設置や作業道の溝切り(明きょ)など、排水性の改善を行いましょう。また、カンキツを含む永年性作物の果樹では、改植時が園地環境を整備する絶好のチャンスです。水が流れる方向を考え、園地に傾斜をつけ、高畝にするなど改植時期に合わせて計画的に取り組みましょう(図1)。
(2) 堆きゅう肥の施用
次に、土壌の団粒構造を発達させるため有機物(堆きゅう肥)の施用を行います。カンキツ園は傾斜地に多く、栽培面積が広いため、堆きゅう肥の施用まで手が回らないと感じているケースが多いと思います。しかし、堆きゅう肥の効果は「土を柔らかくし、保水性・排水性が良好となる」、「腐植を増加させ保肥力が高まる」、「細根の発生を促す」など多岐にわたります。カンキツの細根は、シートマルチ栽培における水分調整や収穫後の樹勢回復を図るための養分吸
収において重要な役割を担っています。細根が発生しやすい土壌環境を保つため、2~3年に一度(収穫後~3月上旬)は必ず堆きゅう肥を施用するようにして下さい。
表1に各種堆きゅう肥の特性を示しています。堆きゅう肥は種類によって効果が異なりますので、園地や品種に応じて選定して下さい。また、強い臭いがするなど十分に腐熟していない未熟な堆きゅう肥は、根腐れを起こす可能性があるため必ず完熟した堆きゅう肥を施用しましょう。
化学性の改善
近年、土壌㏗が適正値(5.5~6.2)以下の酸性に傾いている園地が増えており、平成30年度に行われた県内のカンキツ主産地の分析結果(調査点数:温州ミカン19地点、不知火6地点)の平均値は、㏗が5.0を下回っていました。
樹体や果実の生育に必要とされる要素成分は、土壌の㏗によって吸収率が異なります。カンキツ園地で土壌が酸性に傾くと、主要3要素のほかに、カルシウム・マグネシウムの吸収率が低下することも懸念されます(表2)。カルシウムが不足すると、果皮体質がぜい弱となり、樹上中のみならず、貯蔵中の腐敗のリスクが高まります。その他の微量要素では、過剰・欠乏症が発生しやすくなるため、適正な㏗にすることは健全な生育を維持するうえで必要不可欠と言えます。
㏗が低くなっている園地では、苦土石灰、逆に㏗が適正範囲より高い園地では硫酸苦土を施用するなど、㏗が適正範囲となるよう矯正しましょう。
土壌分析について
土壌の物理性は、土質や土色といった土の手触りや見た目で把握することができますが、土壌の化学性は手触りや見た目で把握することは出来ません。そこで定期的に土壌分析を行い、土壌㏗や過剰な成分、不足する成分を確認し、園地の状態に応じた土壌改良や施肥を行いましょう。
最後に
土づくりは、目に見える効果がすぐ出るものではありません。しかし、樹勢を維持し、毎年安定した果実を生産するには、植物の土台となる土づくりは重要な栽培管理です。令和3年産果実生産のスタート前にもう一度、園地を確認し、高品質な果実が生産できるよう土台から作っていきましょう。
県央広域本部 宇城地域振興局 農業普及・振興課
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果樹園(カンキツ)の土づくり~樹勢維持と高品質果実の安定生産には土台が大事~