麦類の初期管理について
はじめに
日本における小麦の食料自給率は、令和2年度で15%となっており、その多くを海外からの輸入に依存しています。一方で、ロシアのウクライナ侵攻や急速な円安等により、小麦等の供給懸念が生じており国産麦の需要が高まっています。しかし、国産麦の品質・収量は、気象条件による年次変動が大きいことから、高品質の麦を安定して生産することが求められています。
そこで、今回は麦の初期管理を中心に高品質の麦を安定して生産できるよう、栽培管理のポイントについて紹介していきます。
排水対策
麦類は、元来、乾燥した気候に適した畑作物であり、湿害に弱い作物です(写真1)。ほ場の排水性が麦類の収量に最も影響があるといわれていますので、ほ場の排水対策は必ず実施しましょう。
排水の方法は、土壌表面を水平方向に排出する「地表排水」と、土壌の下方に浸透させる「地下排水」があります。
地表排水の技術として、ほ場の周囲を畦畔(けいはん)に沿って溝を掘る「額縁明きょ」があります(写真2)。「額縁明きょ」を施行する際のポイントは、次の2つです。
①明きょの深さは最低でも20cmとして耕深より深く設置する。
②明きょを排水溝につなげ、途中に水が溜まらないように勾配をつける。
地下排水の技術では、対策を実施する前に一度ほ場に小さな穴を掘り、地下水の高さを確認することが重要です。平時の地下水位が地表から50cmより深い位置にあれば良いですが、1日30mm以上の降雨後2~3日経っても地下水位が地表から30~40cmより浅い位置だと、ブロックローテーションの実施や本暗きょの施行などの地下水を下げる対策が必要です。もし、これらの対策が実施できない場合は、相対的に麦を地下水から遠ざける「畦(うね)立て栽培」を取り入れましょう。地下水位は低いがほ場の排水性が悪い場合は、耕盤層の透水性が悪いため排水性が悪くなっていると考えられますので、心土破砕や深耕が必要です。
土づくり
麦類は稲などに比べて酸性に弱く、小麦はpH6.0前後、大麦はpH7.0前後を好みます。水田転換畑などでpHが低い場合は、苦土石灰などを施用しpHを矯正しましょう。
また、麦作では排水性をよくするため、水稲作に比べ地力の消耗は大きくなります。そのため、堆肥等の有機物の施用が重要になります。前作が水稲の場合は稲わらを裁断したものをすき込むと良いでしょう。稲わらを鋤き(すき)込む場合、窒素飢餓を起こさないよう元肥の窒素を20~30%多くするなど注意が必要です。堆肥を施用する場合は、10a当たり1~2t散布しましょう。堆肥を施用する場合は元肥を20~30%程度減肥するなど施肥量に注意が必要です。有機物の施用には、土壌の物理性を改善し、根の発育を促す効果もあります。
播種(はしゅ)
熊本県における麦類の播種適期は、11月下旬頃と言われています。早播(ま)きになりすぎると、過繁茂による病害や倒伏リスクが高まるとともに、幼穂形成の時期が早くなり遅霜による凍霜害などのリスクも高まります。一方遅播きは、十分な生育量を確保することができず、熟期が遅れて収穫時期に雨害にあうなど収量や品質低下のリスクが高まります。麦類は、適期播種の徹底で収量・品質を確保しましょう。
一般的なドリル播きで適期播種する場合の播種量は、10a当たり6~7kgで、播種深度は3cmが目安となります。浅播きすると除草剤の薬害や鳥害に遭い易くなり、深播きすると出芽の遅れや2段根の発生など生育に影響を及ぼします。
雑草対策
麦にとって雑草は、養分や日光の競合による収量の減少だけでなく、カラスノエンドウ等の種子が収穫物に混じると品質が低下するなど問題を引き起こします(写真3)。雑草防除の基本は除草剤の使用ですが、除草剤の種類によって、雑草に対する効果が異なるので注意が必要です。
例えば、麦単作地帯ではカラスムギの発生が問題となっています(写真4)。カラスムギは小麦等と同じイネ科の雑草で、現在、麦作においてカラスムギに卓効を示す農薬の登録はありません。もし、ほ場でカラスムギを見つけた場合は、結実する前に確実に抜き取りましょう。また、ほ場で激発した場合は、休作して非選択性の除草剤で枯殺するか、夏季湛水(たんすい)を実施すると密度が減少します。
鳥害対策
生育初期の麦は、カモ等鳥類による食害を受けることがあります(写真5)。食害の時期や程度によっては、収量に大きな影響を及ぼさない場合もありますが、食害を受けると麦の生育が遅れ、収穫時期が遅くなったり、ほ場内の麦の生育がばらつき赤カビ防除や収穫適期の判断が難しくなったりします。
鳥類による食害を防ぐ手法として、吹き流しの設置があります(写真6)。他の対策と比べ、比較的安価であることから、費用対効果を考えれば有用な手法だと言われています。2mの高さの支柱に3m程度の黒マルチをつるしたものを10a当たり5~6本を目安に設置しましょう。
また、別の方法としてテグスを張る方法があります。テグスを張る場合は、約1m間隔に高さ1m~数mに設置しましょう。高低2段に設置したり、テグスに光を反射するテープを付けたりすると効果が高いです。
天草広域本部 農林水産部 農業普及・振興課
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