~排水対策が肝~ 麦作の基本技術

はじめに

 今年も麦類のシーズンが到来しました。国産麦の需要が高まる中、その収量・品質が、気象条件により大きく変動することから、実需者側からは高品質・安定生産が求められています。麦類の栽培において、減収や品質低下等のリスクを減らし、安定的な生産に繋げるために最も有効な方法は、基本管理技術の徹底です。特に、麦類は湿害に弱いため、排水対策をしっかりと行うことが収量・品質向上に欠かせません。

 そこで今回は、麦の排水対策の話を中心に、播種(はしゅ)から収穫までの栽培のポイントについて紹介します。

排水対策

 麦は、乾燥した気候に適した畑作物で、特に湿害に弱い作物です。ほ場の排水対策は必ず実施しましょう。排水対策には「地表面排水」と「地下排水」の2つの方法があります。

 排水対策の第一は「地表面排水」です。額縁明きょを必ず排水口につなげましょう。ポイントは、明きょの深さを最低20㎝として耕深より深く設置すること。勾配をつけて途中で水が溜まらないようにすることです。また、排水の悪いほ場では、2.5m~5m間隔に地表面排水溝を掘り明きょに繋ぐとより効果的です。

 次に「地下排水」です。対策を行う前に地下水位を確認しましょう。平時の地下水位が5060cmより深い位置にあれば良いですが、1日30mm以上の降雨後2~3日経っても地下水位が地表から3040cmより浅い位置だと、本暗きょの施工などの地下水を下げる対策が必要です。これらの対策が難しい場合には、「畦(うね)立て栽培」により、播種位置を高めることが必要です。また、暗きょの有無に関わらず、地下水位は低いがほ場の排水性が悪い場合には、耕盤層の透水性が悪いため排水性が悪くなっていると考えられますので、サブソイラ―等による心土破砕が必要です。

 以上のように、ほ場の状態を見極め、地表面排水、心土破砕、暗きょ施工、畦立て栽培などを組合せ、排水対策に努めましょう。

地表面排水溝がなく、降雨後に畝間に水が溜まったほ場
額縁明きょ施工の様子

土作り

 麦類はイネなどに比べて酸性に弱く、pH6.06.5を好みます。pHが低いほ場では、苦土石灰などを施用し、酸度矯正を行いましょう。

播種

 播種の適期は11月下旬~12月上旬が目安です。適期での播種量は6~7㎏/10aを標準とし、播種深度は3cmとしてください。

中期管理

 麦栽培における中期(1~2月)の管理時期の生育は、分げつ期~幼穂形成期にあたります。「麦踏み」「中耕・培土」といった作業は分げつ数や幼穂形成に影響する重要な作業です。

(1)中耕

 中耕は、条間を耕うんすることで、固まった土を軟らかくする作業です。表面排水溝の整備による排水対策、雑草防除、土壌内の通気・透水性の向上、新根の発生を促すなどの効果があります。

 ※中耕は、培土と併せて行うのが一般的です。

 

(2)培土(土入れ)

 培土は、土を茎葉に振りかける作業で、株元を土によって覆い保護します。無効分げつ(過繁茂)の抑制、雑草防除、倒伏防止、保温効果による幼穂の凍結防止などの効果があります。麦3~4葉期頃から2月中旬頃までに、2~3回行いましょう。また、麦踏み前の晴天(乾燥)が続いている日に行いましょう。

中耕・培土作業

(3)麦踏み(踏圧)

 麦の茎葉を踏みつけ、同時に土の表面を固める作業です。分げつの促進、穂揃いの改善、根張りの強化、霜上害(厳冬期の霜柱発生による根の立ち上がり)の防止などの効果があります。麦3葉期(12月下旬~1月上旬)から茎立ち期前(2月中~下旬)にかけて、2~3回程度行います。茎立ち期以降の麦踏みは、茎や幼穂を痛め、減収に繋がるため避けましょう。土壌乾燥した状態の時に実施しましょう。

麦踏み作業

雑草防除

 播種後~発芽前には、土壌処理剤による雑草防除を必ず行いましょう。土壌処理剤のみでは十分に防除ができない場合は、中期の茎葉処理剤も使用し、体系処理による防除を行いましょう。

 除草剤は、使用時期や回数が決まっていますので、雑草の大きさなど、必要に応じて中耕・培土による耕種的防除を組み合わせましょう。

病害防除

①斑葉病

 大麦に発生する種子伝染性病害です。発芽直後に感染し、生育伸長期に発病します。出穂後は黒変枯死するものが多いのが特徴です。深播きを避け、種子更新を行い、必ず種子消毒を実施しましょう。加えて適期に播種するとともに深播きを避けましょう。

②網斑病

 大麦に発生し、保菌種子および発病残さで伝染します。発生が多いと収量・品質にも影響するため、発病残さのほ場外への持出し、種子更新を行い、発生した際には薬剤防除に努めましょう。

③赤かび病

 小麦と大麦に発生し、種子や麦わら、稲の刈り株が伝染原となります。乳熟期頃の穂に桃色のカビが発生するのが特徴的で、この時期の雨によって発生が助長されます。赤かび病が産生するカビ毒は人や家畜の健康を害する恐れがあるため、必ず薬剤防除を実施しましょう。防除適期は、小麦は開花を始めた時期から開花期(全穂数の4050%が開花した日)とその7~10日後の2回、二条大麦は穂揃い10日後とその1週間後の2回です。

適期刈取について

 麦の成熟期は、小麦で出穂期から45日前後、大麦は40日前後です。収穫適期はこの成熟期から4~5日後(穀粒水分が約30%以下)が目安となります。収穫時は梅雨入り時期であり、適期を逃すと穂発芽や粒の退色により品質が低下するため、適期の刈取りに努めましょう。

県北広域本部 玉名地域振興局 農業普及・振興課

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