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新規就農道~ビギナーズファーマーのいろは 第3回 梅雨(曇天)時期にトマトの花が落ちるのはなぜか?

ぼくは「就農したろう」。27歳。
経営の柱となる品目を決めるため、近くの農業・普及振興課に相談に行ったんだ。
地域の特産であり、新規に取り組む人も多い品目「夏秋トマト」にチャレンジすることになり、先輩農家さんのところへ研修に通い始めたよ!
今は梅雨時期(6月中旬)。毎日、曇りや雨が続いているんだ。
トマトの管理を手伝いながら、ほ場で疑問に思うことがいくつも出てきました。専門家のみなさん、教えください!

村上:したろう君、トマトの栽培は初めてだね。全体的にどんな流れか知ってる?
したろう:いいえ…全然(汗)。
村上:夏秋トマトの作型は、一般的に4月下旬~5月上旬頃に定植を行い、6月中下旬頃から収穫していくんだよ(図1)。

図1

村上:梅雨の時期は曇雨天日が多く日射量は大幅に減少するんだ(図2)。したろう君は「光合成」って知ってるかな?
したろう:日光と水と二酸化炭素から、酸素と栄養分を作る働きですよね?
村上:正解(図3)!光が不足すると光合成が低下し、作り出す養分は減少する。そうなると次に開花する花の質が悪くなり、着果しにくい(=実がつきにくい)状態になるんだ。
したろう:質のいい花ができないと実がつきにくいんだね…

図2
図3

村上:6月下旬の梅雨時期は収穫開始直前だからね。着果することで、木にかかる負担が最大となって、草勢、すなわち木の元気が低下している時期になるんだよ。
トマトの花が落ちる=落花するのは、着果不良のことであり、上記2つことが原因で、トマト自身が「もう、これ以上着果できない!」と自ら実を付けない生理的な現象なんだ(図4)。
この時期に花がたくさん落ちてしまうと、月以降の出荷量減少につながってしまうんだ。
したろう:梅雨の時期は、落花を防ぐ方策はないんですか?
村上:対策としては、摘果して、ひと房あたりの果数を制限し、木の着果負担を減らしたり、株間を広くしたり誘引の角度を立ててやり、最大限に受光できる体勢にしてやることだね。
したろう:落花の原因がわかっていれば、対策を立てられるんですね!
村上:熊本県農業研究センター高原農業研究所では、「日照時間の少ない6月下旬頃に開花中の3段花房、または4段花房のいずれかを、摘花房処理することで、5~7段花房の着果が安定するとともに、高単価が見込める9月に増収する。」とする技術情報を出しているよ(熊本県農業研究成果情報(No.520)P.〇)。

図4

したろう:僕の友達が違う地域で冬春トマトを栽培しているけど、同じような問題はありますか?
村上:そうだね。「着果不良」は冬春トマトでも12月~2月の厳寒期に問題となるんだよ。やはり原因は同じで、日射量不足により、光合成が低下し、同化する養分が減少するためなんだ。
最近、冬春トマトでは、「環境制御技術」という取り組みが盛んだけど、「生育を制限する一番の要因は光である」という考え方が浸透しつつある。
「環境制御技術」というのは、具体的には、植物の生育を最大化させるために、光、CO2、湿度、温度、風、養水分などの環境要因を総合的に判断して、さまざまな機器を制御して、ハウス内を生育に最適な環境にする技術のことを言うんだ。
図5は光強度と炭酸ガス濃度が光合成速度に及ぼす影響を表した図だよ。400ppm(外気の炭酸ガス濃度)を見てみて。光が強くなるだけで光合成速度は増加していくんだ。
したろう:ほんとだ!植物の成長に、いかに光が大切であるのかがよくわかるね!!
村上:ただし、これは日射量が少ない場合の話だよ。真夏の日射量が多い時期は、光が強すぎて葉焼けが起こる場合もあるんだ。こんな時は寒冷紗などによる遮光が必要になるよ。
したろう:適度な日射量が重要なんだね。何ごとも、適量が大事!

図5

村上:最後に、トマト栽培のポイントを紹介するよ!トマトは果実を収穫しながら株を作っていく作
物だから、栄養成長と生殖成長のバランスを保つことが一番重要だよ(図6)!
栄養成長とは、茎や葉を作り自分自身を強くする成長で、生殖成長とは、花や果実、つまり子孫を作るための成長なんだ。栄養成長が強くて、茎や葉が旺盛になってしまうと、花や果実が小さくなってしまう。バランスを保つために、定植苗の苗齢や追肥の開始時期、摘果などの栽培技術を駆使するんだ。
したろう:栽培の経験を積まないと、実践するのは難しそう!
村上:トマト栽培の上手な農家さんのほ場でトマト株を見てみると、茎の太さが一定で生育していて、栄養成長と生殖成長のバランスがとれているんだ。トマトの株を見てみるだけで、収量の高さが想像できるんだよ。
したろう:栄養成長と生殖成長のバランスだね!これまでトマト株は茎や葉が元気で旺盛なものがよいものだと思っていたけど、ほ場でよく観察してみよう!

図6
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