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特集 熊本県版GAPの取組みについて

初めに

くまもと県版GAPは、新たな県の認証制度として昨年9月にスタートし、間もなく1年を迎えます。
その間、県内各地で行われたくまもと県版GAPの取組み状況や、GAPを取り巻く情勢の変化についてお知らせします。

くまもと県版GAPの取組み状況

GAPとは、食品安全や環境保全、働く農業者の労働安全を確保するために、農業者の方が行う生産工程管理に関する取組みです。
その主なものとしては、記帳などによる生産履歴の管理や、虫や病原微生物などの食中毒を招く異物の混入を防ぐための農産物の衛生的な取扱い(手洗い、収穫バサミの消毒)、整理整頓等があります。
くまもと県版GAPは(以下「県版GAP」という)、国が特に実践が必要と定めた「農業生産工程管理(GAP)の共通基盤に関するガイドライン」を満たす水準のGAPで、昨年9月にスタートしました。
県版GAPでは食品安全・環境保全・労働安全に関する点検項目を各品目(野菜・果樹・穀物・茶・きのこ・たけのこ・その他作物(食用))毎に約40項目設けています(図1)。
さらには、取組みを認証する認証制度があります。これまで(平成30年5月末現在)、5つの個人・団体を認証し、経営体の数に換算すると62経営体が認証を受けています(表1)。

図1 くまもと県版GAPチェックリスト(野菜)の一部
表1 くまもと県版GAP認証取得経営体一覧

県版GAP取組事Ⅰ JA菊池アスパラガス部会

くまもと県版GAPの取組事例をご紹介します。
JA菊池アスパラガス部会は、部会員約40名の組織です。2020年に東京で開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下「東京五輪」という)へアスパラガスを出すことを目標に、東京五輪で使用される農産物の基準を満たす県版GAPに取り組み始めました。

取組みは、初め役員2名で行うこととし、県版GAPモデル組織の指定を受け、コンサルタントの指導を受けることになりました。
指導では、収穫後のアスパラガスの出荷調整場に対し、コンサルタントから「出荷調整場は家庭の台所、調整台はまな板、ハサミは包丁だと思って考えてみて!」とのアドバイスがありました。その結果、出荷調整場の近くにあった農薬倉庫や動噴の置き場を離して管理することが必要だと分かり、調整台やハサミを綺麗に管理する方法についてもその場で議論がなされました(図2)。
同様に、共同出荷調整場については、アスパラガスを衛生的に管理するため、出荷箱を直置きしないことや、そこで働くパート職員の服装や持ち物、トイレ環境の整備、手の巻き込まれの危険がある箇所に虎テープを貼る等のアドバイスがありました。
その後、それぞれがアドバイスをもとに、さらなる改善へ向けてGAPの取り組みを続けました(図3)。その際には、農業普及・振興課や事務局の JA指導員が支援を行っています。
同部会は県版GAP取組みのために内部団体「菊池のまんまアスパラガスGAP組合」を設立、平成29年12月に認証第一号を取得しています。
今後は、取組み人数を6名に増やして認証申請を行う予定です。

図3 取組みによる改善状況(改善前)
図3 取組みによる改善状況(改善後)

取組事例ⅡJAやつしろトマト部会

JAやつしろトマト部会は、部会員372名の大規模な組織です。
同部会では今後の取引を優先的に進め、選ばれる産地になるため、県版GAPに取り組むことにしました。
取組みはまず、JA内に地区担当の職員を配置し、農業者と職員が一緒に農舎の整理整頓を行うことから始めました。農業者にとって「GAPとは何か」理解しづらいのが実情ですが、体を動かし整理整頓を行うことで、自然とGAPの考え方が身についたということです(図4)。
同時に、県版GAPの基準に合わせて、部会員が行う内容をマニュアルにまとめ、各農舎に掲示しました。その際にも、JAが生産履歴の記帳用カレンダーや手洗い手順等の掲示物の作成を行い、農業者が行う内容をできるだけ簡潔にしました(図5)。
このように農業者の取組みへのハードルを下げ、「気づいたらGAPの取組みを行っている」状態にしていったということです。
同部会は四つの選果場単位で県版GAPの取組みを進め、まず「JAやつしろ郡築園芸部」(53戸)が平成30年3月に認証を取得しました。現在、残りの選果場が認証取得に向けて動いています。

図4 GAP現地講習会
図5 JA作成の生産履歴カレンダー

GAPを取り巻く情勢の変化

農業新聞等で既にご存知のことと思いますが、平成29年3月、東京五輪で使われる農産物について、一定水準以上のGAP認証の取得が要件化しました。それに伴い、GAPの認知度は飛躍的に上昇しています。また取組みについても全国各地で急速に広がりを見せています。
例えば、民間のGAPの一つであるJGAP/ASIAGAPの認証数は、この3年間で2倍、認証農場数は1.6倍に増えています(図6)。また、この2年間で36の都道府県が国ガイドラインの水準を満たす県版GAPを整備し、全国では相当数の取組みがあるものと思われます。
さらに、GAP取組みの背景には次のような情勢変化の影響も見られています。

図6 JGAP/ASIAGAP認証農場(日本GAP協会ホームページより引用)

(1)流通における取引先要件化の動き

大手小売チェーン店や大手飲食メーカーが取引先となる農業者へGAP認証の取得を求める動きが出てきています。特に契約栽培を行う野菜や茶での動きが顕著です。
例えば、大手小売チェーン店のイオンでは、プライベートブランド農産物に対し、2020年までに国際水準のGAP認証の取得100%を目指すこととしています。
その他、取り扱う農産物の「安全・安心」を特徴とする小売店やメーカーが、これまで行ってきた独自監査からGAP認証取得を要件に切替えている事例もあります。
国は小売店やメーカーに対し、GAPへの理解を進めるための「パートナー会」を定期的に開催しており、今後、理解を示す企業が取引要件としてGAP認証を求める可能性があります。

(2)国補助金での要件化の動き

平成30年度から、国の補助事業である環境保全型農業直接支払交付金(以下「環境直払」という)や強い農業づくり交付金において、農業者の国際水準GAPの取組みの必須化や、受益農家の一定割合の取り組みが必要となりました。
環境直払では、農業者に(1)GAPに関する研修の受講と、研修で学んだ内容をもとに(2)GAPの実施、実施した内容を(3)GAP理解度・実施内容確認書に書いて提出することを要件としています(図7)。
県内では約1700戸の農業者が取り組む交付金のため、農業者がGAPを理解し実施するための指導体制づくりが急務となっています。
今後については不透明の部分もありますが、様々な補助金、交付金の要件や採択ポイントとして重要になってくる可能性があります。

図7 環境保全型農業直接支払交付金でのGAP要件化(農林水産省作成資料より引用)

GAPの取組みは必要?

GAPの取組みは、手間ひま、費用がかかり、その割には価格に反映しないとの声が多くあります。
実際に、GAPに取り組んだからといって、必ずしも単価上昇につながるわけではありません。
一つの考え方として、GAPは、自身に降りかかる農作業事故や不特定多数の消費者に影響を与える食中毒等、悪いことを防ぐための「お守り」と捉えて頂ければと思います。GAPという点検の手段を用いることで、目には見えない、今後起こる可能性がある、大きなマイナスの事柄を防ぐことができます。
また、GAPの項目にある生産や農作業の記録を取り、それを見直す事で、経営改善に大きく役立てることができます。
実際に、肥料や農薬の使用量を見直して費用を削減したり、作用の見直しによる効率化につなげ、経営規模の拡大につなげた事例は多くあります。
さらに、GAPに取り組むことで信用が上がることも考えられます。今は取引先からGAPをするように言われていないが、今後のスムーズな商取引を見据えて事前に準備をする、という産地も出てきています。

国ではGAPの考え方について、GAPを「する」と「認証を取る」の二つに分け、GAPの取組みを行う「GAPをする」ことに関しては、全ての農業者に取り組んでもらいたいとの意向を示しました。
そうは言っても、GAPなんて難しい、どこから始めたら良いんだろうう、との声はたくさんあると思います。
まずは、比較的簡単で安価に取り組めるくまもと県版GAPを活用し、GAPの仕組みや考え方に慣れてみてはいかがでしょうか。「百聞は一見に如かず!」県内でGAPに取り組んでいる農業者を訪問し、GAPのイメージをつかむのも早道だと考えられます。

くまもと県版GAPの資料は次のホームページから閲覧、ダウンロードすることができます。また、ご不明な点については、お近くの各広域本部地域振興局農業普及・振興課にお尋ねください。
URL http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_20458.html

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