はじめに
気象災害に強いイネづくりのポイントをシリーズで紹介します。初回となる今回は、田植えまでにするべき大切な作業として、ほ場管理と育苗をとりあげ、その作業のポイントを解説します。
厳寒期~田植えまでのほ場管理
良い米を作るためには、移植した苗がスクスクと均一に育つ条件が整った水田が必要です。
その条件とは、(1)欠株や生育ムラで管理しにくい状態にならないこと、(2)雑草、スクミリンゴガイ、病害虫に悩まないこと、(3)肥料がイネの生育に適正に作用することです。
これらを満たすためには、休耕期間の管理が欠かせません。
①厳寒期の厳寒期のほ場管理(冬季休耕の場合)
雑草及びスクミリンゴガイの密度低減には、冬場(特に厳寒期)の耕起が最も効果的です。トラクターにより物理的な破砕を行うとともに、寒風にさらすことにより、越冬する個体を減少させることができます。1月下旬~2月上旬に2回程度実施しましょう。
稲わらのすき込みは、収穫後なるべく早く行い腐熟を促進させましょう。すき込みが遅くなると、来年の稲作の栽培期間中にも有機物が分解され、生育不良の原因となってしまいます。すき込みが遅れた場合は、石灰窒素等※1の土壌改良剤を一緒にすき込むと腐熟が進み効果的です。
※1ただし、窒素分が過剰にならないよう、注意が必要です。
②水稲作付け前の施肥・耕起~代かき
みなさんは、いつ頃施肥していますか。施肥から田植えまでの期間が空きすぎると、稲が育つ前に基肥の成分が溶脱して生育不良となります。また、基肥一発肥料の場合、肥効調節型肥料成分の溶出が早まり、本来効いてほしい時期に肥料が効かず登熟・充実不足となります。そのため、施肥はできるだけ代かき直前に行うようにしましょう。また、その後、イネの生育や除草剤の効果を安定させるため、田面が均平になるように、代かきは丁寧に行いましょう。
良い苗を作るためのポイント
「苗半作」という言葉を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。「苗半作」とは、「苗の出来によって、その年の作柄が半分決まる」という意味です。このようなことわざがあるように、苗づくりは、その後のイネの生育を大きく左右するため、稲作において最も重要な期間と言えます。
①比重選・種子消毒の徹底
良い苗を作るには、種子の予措を入念に行い、発芽揃いの不良やいもち病、籾枯細菌病(苗腐敗病)などの病気の発生を防ぐことが大切です。まずは、比重選で充実の良い種子を選別します(表1)。表中の食塩、硫安の量は目安です。同じ投入量でも食塩や硫安が含有する水分等によって比重が変化するため、できるだけ開封後間もない乾燥した製品を利用しましょう。そして、比重選後は、籾種を水道水で良く洗い(洗浄が不十分だと発芽に悪影響が生じる可能性があります)、地域の栽培基準に沿った薬剤による消毒または温湯消毒(60℃の湯に10分)をしっかり行いましょう。
②十分な浸種と催芽
種子は吸水することで発芽を開始するため、種子に十分吸水させることが大切です。そうすることで、発芽の揃いを良くすることができます。ここでは、平坦地の普通期栽培の場合と早期栽培・高冷地の場合に分けて紹介します。
平坦地の普通期栽培の場合、浸種を続けることで催芽に至ります。その期間は、水温の日積算で100℃(水温20℃:5日間、25℃:4日間)を目安に、「鳩胸状態」※2(写真)の種籾が7~8割になるまでとしてください。浸種の期間中は、酸素供給と発芽阻害物質除去のため、原則毎日水を交換しましょう。
早期栽培・高冷地の場合は、適切な温度(10~15℃)を確保し、積算温度で100℃(水温10℃:10日間、15℃:7日間)を目安に十分に浸種しましょう。完了の目安は、種籾が「あめ色」に変色し、籾殻を透かして胚が白く見えるころです。浸種が終わったら、催芽(32℃で1日)を行います。催芽は、平坦地の普通期と同じく、「鳩胸状態」の種籾が7~8割のころまでが適切です。
ポイント:温度や日数の目安にとらわれず、浸種や催芽の期間は籾の状態をよく見て判断してください。
※2「鳩胸状態」・・・幼芽と幼根がともに1㎜程度出た状態
③適正な播種(はしゅ)量と均一な播種
苗は播種量や育苗日数の違いによって、稚苗・中苗・成苗に分類されます(表2)。作期や苗の種類に適した播種量・育苗日数で育苗し、活着の良い丈夫な苗を作りましょう。
また、均一な播種は、田植え精度(欠株防止)に直結しますので、適正な量が均一に播けるよう、播種前に播種機の細やかな調整を行いましょう。
④適切な覆土・かん水
覆土やかん水は適切な量でなかったりムラがあったりすると、発芽を妨げる原因になります。覆土が厚すぎると発芽不良となり、逆に薄いと、根上がりにより根の張りが悪くなったり、種籾の露出によりネズミやスズメなどの食害を受けやすくなったりします。種籾が完全に隠れる程度に均一に覆土しましょう。
かん水は、午前中のうちに1日1回、床土の底まで湿るようにしっかり行いましょう。かん水不足は出芽ムラの原因になり、逆に過多は、根の生育を妨げて病気の発生を助長してしまいます。また、早期栽培や高冷地では、低温時にかん水するとムレ苗の原因になってしまうので、午前9時以降に行うとよいでしょう。
おわりに
苗づくりでお困りのことがありましたら、最寄りの農業普及・振興課までご連絡ください。おいしい米をたくさん収穫するために、良い苗を作って、良いスタートを切りましょう。
県北広域本部 阿蘇地域振興局 農業普及・振興課
気象災害に強いイネづくり ①田植えまでのほ場管理と育苗のポイント(PDFファイル)