シリーズ/気象災害に強いイネづくり ④中干し後から登熟期までの管理

はじめに

近年、地球温暖化の影響で毎年のように気象が大きく変動しています。このような変化の大きい気象条件下で稲作を少しでも安定化させるためには、日頃の土づくりや生育ステージに応じた適切な水管理等、基本技術の励行を心掛けることが大切です。『気象災害に強いイネづくり』シリーズ第4弾となる今回は、中干し後~登熟期までの水管理と穂肥施用、病害虫防除について解説します。基本的な水管理を徹底して健全な稲体を保つとともに、適切な穂肥施用と病害虫防除で品質と収量の向上を目指しましょう!

各生育ステージに応じた適切な水管理

中干し後~穂ばらみ中期:間断かん水で太く丈夫な根を確保!

中干しが終わったら水を入れ、自然落水を利用して間断かん水を実施しましょう。ほ場の透水性にもよりますが、湛水(たんすい)3~4日、落水1~2日サイクルで実施するのが一般的です。間断かん水により、土中に水と酸素が十分に供給され、太く丈夫な根が確保されます。

穂ばらみ後期~穂ぞろい期:深水管理で穂の伸長と開花・結実をスムーズに!

穂前後のこの時期は、茎や穂が急激に伸長し、開花・受粉する際に水が使われるため、イネが水を最も必要とする時期です。水が不足すると、穂の生育不良や不稔籾(ふねんもみ)発生の原因にもなります。そのため、穂ばらみ後期(出穂5日前ごろ、止め葉と第2葉の葉耳間が10cm程度あり葉鞘(ようしょう)が膨らむ)から穂が出揃い、開花がほとんど終わるまでの間、十分に湛水(深水)を維持し、イネの受粉と充実を促しましょう。

登熟期:継続的な間断かん水で根の活力を維持!

登熟期間は間断かん水を実施します。根の活力を維持するためには適度な水分と酸素を土中に送り込むことが大切です。また、高温条件が続く場合は夜にかけ流しを行うことで水田一帯の温度が下がり、白未熟粒の発生を防ぐことができます。可能であれば地域で取り組むことで効果が一層高まります。

適切な穂肥の施用(分施体系を実施している場合)

穂肥には、穂の形成に必要な養分を与えることで、稔実(ねんじつ)歩合を高め、収量・品質・食味を向上させる目的があります。しかし、穂肥の施用時期を間違えると、徒長、籾数の過剰または不足、食味の低下など生育に悪影響を及ぼします。そのため、適切な時期に穂肥を施用することが重要となります。

穂肥の時期(ヒノヒカリ、森のくまさん、くまさんの輝き等))

穂肥の施肥時期は、出穂前20日以降で、かつ、幼穂の生育や葉色等により判断します。出穂前日数を判断する方法として、幼穂の長さを確認します。
まず、畦畔(けいはん)から1m以上入ったほ場内部から草丈や茎数が平均的な株の中で最も草丈の長い茎を抜き採ります。抜き採った茎の基部を丁寧に剥き、幼穂の長さを測定します(図1)。幼穂の長さが3.0mmの頃を出穂前20日と判断します(表1)。
※幼穂発育初期の幼穂長に品種間差はほとんどないと考えられます。

図1 幼穂長が10mm程度の状態

穂肥量の判断

穂肥量は、出穂前20日頃の葉色を葉色板(カラースケール)を用いて確認し、表2を参考に決めます。葉色が4.5以上の場合は、穂肥時期を遅らせる等の対応が必要となります。

穂肥施用の方法

穂肥の時期、施用量が適切であっても、施用方法を間違えると肥効が半減してしまいます。肥効を最大限活かすために、適切に穂肥施用を行いましょう。
①施用前は湛水し(水位:中~浅水)、入水口および落水口を止水します。
②散粒機等を用いて、肥料をほ場全体に均一に散布します。可能であれば、生育を均一にするためにほ場の葉色ムラを見定め、葉色が淡い部分にやや多めに施用します。
③施用後は入・排水を行わず、水がなくなる(自然落水する)のを待ちます。水がなくなったら入水し、以降は間断かん水を継続します。

(注意点:全量基肥施肥用肥料を施用する場合)
全量基肥施肥用肥料は、生育ステージに応じた肥効調節が行われるため、基本的に穂肥は必要ありません。ただし、穂肥期に葉色が薄くなり回復しない場合には、追肥の検討が必要です。追肥の要否については、各地域の農業普及・振興課にご相談下さい。

病害虫防除

病害虫の発生状況を確認し、適期に防除を行うことが重要です。病害虫発生予察情報とほ場観察に基づき、最も防除効果が高い時期に行いましょう(参考:熊本県病害虫防除所:https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/75/125504.html)。

ウンカ類

イネに被害をもたらすウンカ類には、トビイロウンカやヒメトビウンカ等があります。特にトビイロウンカは飛来数が多く、定着し増加数が多いと「坪枯れ」が発生します。また、ヒメトビウンカは吸汁の被害に加え、縞葉枯ウイルスを媒介します。
ウンカ類は、若齢幼虫期の本田防除が基本となります。県の病害虫防除所から発表される予察情報を参考に、適期で防除することで被害を抑えることができます。

コブノメイガ

コブノメイガは6月に飛来し、7月下旬~8月上旬に発生する第2世代幼虫が止め葉を食害します。食害が激しい場合には減収の要因となるため注意が必要です。
本田防除の適期は、粒剤では発蛾(が)最盛期、液剤や粉剤ではその1週間後となります。ウンカ類と同様に、病害虫防除所が発表する予察情報を参考に、適期防除を心掛けます。

いもち病

葉いもちはイネの葉身に紡錘形の病斑が現れ、生育期に多発生すると株全体が委縮する「ずりこみ症状」が見られます。伝染力が強く、感染好適条件下では病斑の拡大が非常に早いのが特徴です。気温が2025℃で発生が多く、長雨、冷夏の年は発生率が高まります。
「くまさんの輝き」はいもち病に対する抵抗性が「やや弱」となっているため、注意が必要です。いもち病は早期発見・早期防除が重要となるため、こまめにほ場のイネを確認し、葉に病斑を見つけた場合には効果のある薬剤を選択し早めに防除を行います。

適切な穂肥の施用(分施体系を実施している場合)

栽培管理のポイントは、それぞれの管理作業を適切な時期に実施することです。こまめにほ場を巡回しながらイネの状態を把握し、イネの生育に合わせた管理を実施して下さい。近年の変化の大きい気象条件にも負けないイネづくりのため、今回紹介した技術を参考に水稲管理を見直し、水稲の品質と収量の向上を目指しましょう。

県央広域本部 上益城地域振興局 農業普及・振興課

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