失敗しない苗づくり苗づくり失敗例と新技術

なぜ育苗するのか

稲作では苗を作ることで、幼少期を集約的に管理して、均一に生育させることが苗づくりの最大の目的です。育苗の初期である発芽から苗立ちの期間の管理が、その後の生育を大きく左右します。そのため、「苗半作」とも言われるように最も重要な場面であるといえます。

播種量と育苗期間

一般的に苗は育苗日数(葉齢)に応じて三種類にわけられます(表1)。
播種量が多い苗ほど面積あたりに使用する苗箱の数を少なくすることができますが、育苗期間が少しでも長くなると老化しやすく、活着不良を起こしやすくなります。
しかし、これを読んでいる皆さんはご自分の苗の播種量を把握していますか?中苗を作っていたつもりが欠株予防で年々厚播きになり、毎年老化した稚苗を作っているという例も少なくありませんさらに、こうした苗は植付本数が多くなり、減収の要因にもなります。10aに何箱が必要なのか、何グラムの種籾を播いて何日で育苗するかを決めましょう。生産者の方は「うちの苗はそんなに厚く播いてない」と言われることも多いですが、重さを測ってみると播きすぎていたというケースがたくさんあります。そうならないために、本番前に一度播種機を試運転して播種量を調整しましょう。

 

図1.健全な中苗の例
表1.苗の種類と育苗日数及び必要箱数

よくある失敗事例

【発芽不良】
育苗の最初の関門は発芽です。これが上手くいかなければ、どうやっても挽回することはできません。よくある発芽不良の原因として、次のような事が考えられます。

①比重選・種子消毒の省略
「購入した種子だから」といって何も処理せずに浸種を開始する方もいますが、購入種子の中にも発芽しないものや病原菌をまとっているものがあります。そこで、まずは比重選で充実がよく発芽勢に優れるものを選抜し、地域の栽培暦に記載されている薬剤、または温湯消毒器にて種子消毒を行いましょう(表2)。

②浸種時間の不足
種子は吸水することで発芽を開始しますが、この時間が短いと吸水不十分な種籾の発芽が遅れて、発芽の揃いが悪くなります。
一般的に播種が適期になるまでには、水温が15℃で4~5日の浸種が目安です。水温が高いと浸種に要する時間は短くなりますが、吸水の進んだ種籾とそうでないものの差が大きくなり、出芽ムラが出やすくになります。網袋に入れて浸種する場合は、外側と内側で水分の吸収が異なるので、定期的に攪拌するようにしましょう。

表2.比重液10Lを作成するのに必要な資材
図2.発芽直前の種籾

③覆土・かん水のムラ
覆土やかん水は育苗に欠かすことのできない作業ですが、適切な量でないと発芽を妨げる原因になります。覆土が分厚いと芽が表面に出づらくなり、出芽の揃いが悪くなります。反対に薄すぎると表面に露出して、ネズミなどの小動物に食害されやすくなるなどの弊害があります。籾が完全に隠れる程度の覆土にとどめましょう。
かん水は床土の底まで湿るように朝のうちにしっかりと一日一回行いましょう。夕方のかん水や複数回のかん水、また苗箱の下がビニールやコンクリートの場合には、かん水後に部分的な水たまりを生じやすく、その上の種子の発芽が悪くなる場合があります。
また、芽が浸水したり、通気性の悪い被覆資材をかけ続けたりすると酸素不足となり芽を包む白い「鞘葉」が伸長し、苗が徒長することになります。こうした事態を防ぐためにも、苗床は可能な限り平らにして、鞘葉を伸ばしすぎない苗づくりに努めましょう。

図3.かん水ムラによる発芽不良
図4.酸素不足により伸びた鞘葉

新技術「高密度播種苗」

近年登場した技術として、「高密度播種苗」があげられます。これは、250g/箱以上と稚苗以上に厚播きを行って10aあたり10箱前後まで苗箱の数を減らす省力低コスト栽培です。
育苗期間は通常の稚苗とほぼ同じ14~20日間ですが、稚苗とは異なる注意点があります。播種密度が高いため育苗箱内の苗が混み合って徒長しやすい、育苗期間が短いため根がらみが確保できず、ルートマット強度が不足しやすいなどの注意点があります。また、他の苗以上に播種ムラによる欠株を生じやすいため、脱芒等により播種の精度を上げることが必要です。

図5.高密度播種(左)と中苗(右)

終わりに

水稲栽培は苗半作とも言われ、育苗は最も大切な期間になります。そこで、苗に何か異変を感じたら最寄りの農業普及・振興課にお問い合わせください。原因と対処法を明らかにして、よりよいコメづくりに努めましょう

県南広域本部 農林水産部 農業普及・振興課

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